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やさいバス -“地産地消”がリアルに進む? 小さな物流の輪を地域でつくる、新たな流通のしくみ

連載『これからのまちづくりの話をしよう』は、下北沢から少し離れて、社会を変えようとする新しい取り組みやその現場を見つめてきたリ・パブリックの内田友紀さんと地域ライターの甲斐かおりさんにナビゲーターをお願いし、これからの時代に必要な個人の、組織の、まちという社会との関わり方を探っていきます。今回は、甲斐かおりさんの担当です。最初に甲斐さんからのご挨拶をお読みください。

「こんにちは、甲斐かおりです。
私は、地域をフィールドにした人や企業の活動を取材して記事を書いているフリーランスのライターです。この連載ではリ・パブリックの内田友紀さんとともに『社会システムDIY』をキーワードとして、地域やまちづくりに関わる、ちょっと新しくて面白いしくみを紹介できたらと思っています。

今回紹介するのは、今年一年取材をしてきて、もっとも心が震えたのがこれではなかったか…と思う『やさいバス』です。

地域で採れた農作物を地元でいただくという意味の、地産地消。80年代から注目されてきたこの考え方ですが、直売所などは増えているものの、自分の暮らしを振り返ってみても、なかなか一般市場まで浸透していないと感じていました。

それもそのはず。日本の農業は「量をつくって売ること」を前提として農産物の流通のしくみができあがっているため、小売店が地元の野菜を仕入れようとすれば、既存の流通の仕組みから外れて、個別に農家とやり取りしなけれなりません。すると供給が不安定になり送料もかかる。地産地消を実践するハードルが高かったのです。

「やさいバス」は、こうしてシステマティックに進まなかった地産地消を、地域ごとに物流の小さな輪をつくり横連携させるという方法で、一般市場にも届く可能性をもたらした事例です。身近な買い手に売ることで、生産者のモチベーションも高まり、食べる人の意識も変えることができる。もしこのしくみが全国に広まれば、ほんとうに地産地消が進む気がする(!)と思えた「やさいバス」の事例、よろしければご一読ください。

地産地消が実現しにくかった、本当の理由

東京のような大都市に暮らしていると、遠い土地で生産された野菜を食べることがすっかり当たり前になっている。

ところが周りが畑だらけのような田舎であっても、状況はそれほど変わらない。

なぜそうなったか?の理由の一つに、野菜の流通経路が「大量に生産して、大量に運び、売る」広域流通体系になってしまっていることがある。

大きなしくみに、小さな取引は乗りづらい。小売店や飲食店が地元の野菜を仕入れようとすれば、個別に農家とやり取りしなければならず、独自で取引先を開拓するしかない。運よく見つかっても、供給が不安定になり送料もかかる。

地元のものを地元で食べる、という一見簡単そうなことが実現しにくいしくみになってしまっている。(*『2015年版 スーパーマーケット白書』一般社団法人新日本スーパーマーケット協会調べ。「生鮮食料品の購入状況」によれば、生鮮食品がもっともよく買われるのはスーパー、総合スーパーで合わせて85.2%。「野菜」に限ってもスーパーが81.3%を占め、ここ数年売上を伸ばしている直売所も、わずか4.7%にすぎない。)

よりシステマティックに地元の店と同じ地域の農家をつないで、地域内で消費する流れをつくることはできないものか?

そう考えたのが、エムスクエア・ラボ代表の加藤百合子さんだった。

地域内に小さな流通の輪をつくり、つくり手と買い手が費用を負担し合って、運搬車をぐるぐる巡らせる。

新鮮な野菜が地元で流通すれば、食べ手にとっても嬉しい。

やさいバス」というかわいい名前のサービスが静岡県で産声を上げたのは、2017年のことだ。

02_バス後方から

やさいバスとは?

やさいバスは、ある一定の地域内の農家と小売店や飲食店が直接野菜を売買し、専用のバスを走らせることで、高騰する物流コストを安く抑えようとするしくみだ。

加盟者は農家が約150軒、飲食店が約200軒(2019年11月末時点)。「やさいバス」と称される軽トラックやバンなどの運搬車が、焼津から静岡市までおよそ直径100キロメートル程の範囲を巡る。

バスの運行ルートと時刻はあらかじめ決まっていて、野菜の供給者である農家も、買い手である店も、それぞれ最寄りのバス停まで、野菜を運んだり、取りに行ったりする。一見手間になりそうだが、直売所まで売れ残った分を引取りに行く二度手間や、遠い市場まで買い出しに行くことを考えると、すぐ近くまでバスが来てくれて必要な量だけを運ぶのはとても便利だ。

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やさいバス株式会社資料より Copyright (c) 2018/やさいバス株式会社

「これまで大量にばーんと東京に運んで、大量に売り買いするのが従来の野菜の流通だったんです。それって合理的なようで、運ぶ以外の点では不合理も多いんですよね。鮮度や、時間、地域の文化、CO2など環境面を考えても」(加藤さん)
野菜の受発注はすべてシステム上で行われる。システム利用料として出荷額の11パーセントを農家が負担。

そして買い手である小売店や飲食店が、コンテナ1箱につき350円の送料を負担する。原則、買い手は法人のみで個人は利用できない。

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06_カゴ台車

(上)エムスクエア・ラボ代表の加藤百合子さん
(中)ラボのオフィスもバス停。集出荷場も兼ねており、
積み下ろしされる野菜を仕分け。
(下)バス停にはシルバーの保冷ボックスが設置。
野菜の積み下ろしはバスのドライバーが行う


生鮮市場や直売所、百貨店などの小売店もバス停になっており、運ばれた野菜がそのまま販売できる。

静岡市の顔ともいえる大丸松坂屋も地下がバス停で、届いた野菜はそのままデパ地下の食品売場で「静岡やさい」として販売されている。

大丸松坂屋の広報の濱野比加里さんは、こう話していた。

「もともと静岡産の野菜はほとんど販売されていなかったんです。やさいバスは市場まで買いに行かずとも届きますし、少量でも欲しいだけシステム上で買えるのが魅力。値は少し高めになっても、生産者がわかる安心感があるため、百貨店のお客さんとは相性がいいと思っています」

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大丸松坂屋・静岡店の野菜売り場

地元で消費する意味

いま地域では、外からどれだけ外貨を稼ぐかだけでなく、いかに外にお金を漏らさず、域内で生産と消費をまわすかという視点が、強い地域経済をつくる上では欠かせない。

 一般的な市場に比べて、地元の農家により多くのお金が落ち、その農産物が地元で消費される経済の循環を生むこと。さらには、農家と飲食店などが直接顔見知りになることで、信頼関係にもとづくコミュニティが生まれ、お店にもリピーターが増えるなどの効果もある。


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一般の流通市場では市場や卸、流通業者にマージンが取られ、
農家に残るのは40%、「やさいバス」では農家の取り分が89%。(Copyright (c) 2018やさいバス株式会社)


加盟者の一人、ミニトマトを専門で生産する松下農園の松下弘明さんはこう話していた。

「農家の手取りが断然違います。一般の市場では売値から手数料が引かれるけど、やさいバスでは僕らの提示した金額にシステム利用料の11パーセントを上乗せして販売してくれたりする。その値段でも、欲しい飲食店が買ってくれて送料も払ってくれる。もちろん、買い続けてもらうためには美味しいものをつくらないといけないんですが、その分投資するなど、新しいトライができます」

農家の取り分が多いため、売価そのものを安くすることもできる。ただし、どんな農家にも向いているかといえば、そうではない。

「従来の流通では、どんな品質のものをつくっても必ず買ってくれる楽な面があったんです。極端にいえば、おいしくなくても、見た目さえよくて量があればお金になった。でもやさいバスを利用している買い手は味に厳しいところが多いので、生産者にも、自分の作物に自信があって、こう売りたいというビジョンを持っている人が多いと思います」

松下さんのような農家にとっては、「味」を評価して高い値段をつけてもらえることが大きなモチベーションになる。JAを通せば、評価基準になる等級はすべて形と重さ、見た目ではかられ、味での評価はない。

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ミニトマトを専門で生産する松下農園の松下弘明さん


「たとえばトマトはストレスをかけてあげると甘くなるんですが、そのぶんサイズが小さくなり軽くなります。するとJAではお金にならない。その点やさいバスのお客さんは、味で評価してくれるので」

ツヤツヤで見た目は立派なトマトを買ってきても、まったく味がしなかったなんてことがよくあるが、こうした評価基準が理由だったのだ。今でも一般的な市場における農家の評価は「何反栽培して何トン採れたか」。

“より大きく、より多く“を重視してきた従来のシステムから変わっていない。


ミルクランの仕組みを応用

買い手にとっての魅力も、味にある。何といっても鮮度がいい。一般市場の場合、JAで選果し、翌日出荷して中央市場に運ばれ、さらに仲卸を通して次の市場に運ばれ…と、店に届くまでに四日はかかる。やさいバスの場合、出荷したその日か、遅くても翌日には店に届く。

やさいバスを使い始めて一年ほどすると、実際に売上が上がってくるレストランがあるという。野菜が美味しくなるし、話せるストーリーも増え、店員とお客さんとの会話が弾みファンが増えるのだそうだ。

一方、150軒近くの農家が加盟しているため、品揃えや安定供給の心配も少ない。

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加藤さんは、もともと農学部の出身で工作機械をつくる企業のエンジニアだった。

「大量生産を促進するバリバリの製造業でした。子どもが2人できて世の中の将来を考えるようになったとき、私この仕事してていいのかなぁって思っちゃったんです。農業は好きだったし、食べることはすべての基本。何かできる余地がありそうだなと思って」。

農業も流通もまったくの素人だったが、まずはITシステムを用いて野菜の卸業から始めた。

「買いたい人、売りたい人はいてマッチングできても、送料が一箱1500円もすると破談になっちゃう。やっぱり物流までやらないと駄目だなと思ったんです」

工業の世界を調べてみると、ミルクランというしくみがあった。もとは牛乳業者が複数の牧場をまわって牛乳を集めてまわる巡回集荷のこと。

自動車業界でも、専用のトラックが決まった時間に部品メーカーをまわり必要な部品が組み立て工場に届くよう集荷のしくみが整備されていた。

「なんだ、やってるじゃん。農業もやろうよって」

これまでにも一地域内で小さな流通網を整えている地域はあったが、やさいバスが違うのは、ほか地域にも展開できるシステムを確立していること。

静岡の大手物流企業の鈴与やスズキ株式会社から出資を受け、博報堂の協力を得て本格的にサービスデザインを進めた。当初から全国展開できるしくみを目指していたことがうかがえる。

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従来のFAXや電話を中心とした取引をやめて、すべてシステム上で。
ラボで高齢者農家の入力サポートなどしながら、どうにかやってきた。

小さな輪と輪で、山のもの海のものをつなぐ

2019年からは、静岡の漁港をめぐり鮮魚を運ぶ「さかなバス」も始まっている。県内で採れた生鮮品が静岡市内の飲食店や小売店でもっと扱われるようになれば、より“地産地消”は進むだろう。

同年夏には、長野と神奈川でやさいバスを走らせる実証実験が行われた。

「やさいバスが必要とされたのは、まず一つに、物流コストが上がったこと。あのタイミングで飲食店が送料350円をもつというビジネスモデルが納得感をもって受け入れられるようになりました。

そしてもう一つ、地方に観光客が増えたことがあります。よそから来る人をもてなすのに、あれ?地元の食材がないねって皆が気付いた。とくに長野では生鮮のほとんどが東京へいっていて、地元のものを食べていないねと。少しでも地域内でまわすようにしようという気運が高まっています」(加藤さん)

静岡の輪を長野の輪と大型バスでつなげば、海のものと山のものを交換することも可能になる。

「もう東京に運ぶのではなくて、直接長野と静岡でやり取りしましょうよってことですね」

各地域にこの輪がいくつもできていけば、「地産地消」がかなり現実的に進むのではないかと思えた。

東京のような都会も例外ではなく、都市農業を後押しすることにつながるだろう。まずは一つの地域内でモノとお金のめぐる循環をつくり、他の地域と連携して広げていく。ここでも小さな単位から始めることが大切なのだと教えられた。

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取材・文/甲斐かおり


連載のテーマ「社会システムDIY」についてはこちら
連載バックナンバー:
Precious Plastic -ファウンダーを超えて、世界中のコミュニティが動きだす(前編)
Precious Plastic ーファウンダーを超えて、世界中のコミュニティが動きだす(後編)


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