マガジンのカバー画像

Senri Garden ブルックリンでジャズを耕す

グラスワイン1杯分のお楽しみをジャズと共にブルックリンからデリバリー。エッセイ「ブルックリン物語」、ラジオ「Sen Corouge」、日常を写真と文で綴った「Days」、レシピ「… もっと読む
大江千里の未発表のエッセイ、動画、詩、サウンドを発表していく実験ラボであり、みなさんと作り上げてい… もっと詳しく
¥864 / 月 初月無料
運営しているクリエイター

#ブルックリン物語

NEW DAYS #3 「新しい日々は始まってる?」

新しい日々は始まっている? 4月に入ってアパートの住人たちはセカンドハウスからN Yへ戻ったようで、あちこちから音が聞こえる。何より「暖房」がコンスタントに入る。アパートを見上げると窓にポツポツ灯が灯る。さっき朝のうちにゴミを出そうと短パンにTシャツで廊下に出るとマルチーズがニコニコ挨拶しにきた。後ろから会計士マーレーの奥さんが真冬の重装備で散歩からご帰還だった。 「おはよう」 「久しぶり」 ぶっきらぼうな顔にピンクのニット帽。手袋にマフラー。あれ、今日は寒かったか。案

有料
150

ブルックリン物語 #84 「毎秒感じてる」

NYに住んでいる人たちのほとんどにとって今、仕事というものの定義が変わって来ているのではないか。もうオフィスや通勤はいらない。いらないものがどんどんなくなり仕事のクオリティだけにフォーカスが移りつつある。これは本来、当たり前のように慣れ親しんだ環境を改めて考え直すいいチャンスだと考えていい。コロナにより僕たちは未来の実像を試されていると言っていい。 まず自分の話になるが去年の秋から暮れにかけて再開したライブやフェスなどは、コロナの前にすでに決まっていたものがリスケジュールさ

有料
200

ブルックリン物語 #81 「ミネソタサウンドマシーンがやってきた!」(3)

会場のあったまったいい感じの空気を受けてカウントオフ。 ”Mischievous Mouse"が始まった。アリとマットとのトリオの時(ブルーノート東京世界発信 2020 Autumn@Blue Note NY)よりbpmを2か3下げてみる。高速スイングよりもリラックスした雰囲気で始めた方がいい。滑り出しは慎重にスイングフィールに乗る。会場のいいノリをそのまますくい上げファーストコーラスを終えピアノソロへ。 アップライトのスタンウエイ。スティーブが「Senriのために最強の

有料
200

ブルックリン物語 #80 「ミネソタサウンドマシーンがやってきた!」(2)

部屋の温度をコンシェルジェに頼み、固定から自由設定に変えてもらい77度にして夜は眠る。これくらいがちょうどいい。一眠りして真っ暗な部屋の中でうっすら目を開ける。朝の気配を感じカーテンを恐る恐る開けてみる。まばゆい光のシャワーが一気に部屋に充満する。時計を見ると7時。熱いシャワーを浴び、ベッドの上で簡単なストレッチをする。 「おはようございます。ぴはご飯を済ませましたか?」 ライブの間は預かってくれているマネージャーKayにテキストを送ると「もういっぱい食べてのんびりされて

有料
200

ブルックリン物語 #79 「ミネソタサウンドマシーンがやってきた!」(1)

2020年に決定していたライブスケジュールが、パンデミックでゼロになってしまった。 ツインシティー(ミネアポリス、セントポール)の2夜にわたるライブもその目玉だった。仕事がなくなり旅がなくなり人との接触さえもなくなり「家にいること」が当たり前になった。そんな生活を基調にして、新たなポストコロナをどう生きるかを考えた。 音楽家では食べてはいけないな。生活できないものを仕事とは呼べない。じゃあ、音楽は趣味だ。究極の。これもまた真理なのだ。じゃあ、職業、お金を儲けて暮らすだけの

有料
200

ブルックリン物語 #77_A 「顎を上げて拍手に向かって進む(前半)」

2017年、最初に中西部をツアーした時に巡り合った方が、ちょうど中西部全域に仕事に行くところだった。 ここぞとばかりアピールをしたい僕は彼の前で「君が代」を弾いた。それも自分流のどこかモーダルなジャズコードでリハモニゼーションしたものを。これが縁になったのか、彼は中西部を回る時に僕のことを気にかけて音楽をやれそうな場所をリサーチしてくれた。一方でマネージャーのKayはミルウォーキーを訪れる機会が多く、サマーフェスタに出会った。シカゴへライブで訪れる度に「いつかあのフェスに出れ

有料
200

ブルックリン物語 #76 「Summertime」

夜明けに肌寒くて何度だろうと携帯のスクリーンを見ると摂氏17度。そりゃそうだ寒いはずだ。足元を見るとぴがツルツルの肌触りの夏仕様マットを逆さまにしてくるまっている。毛羽立ったほうを内側にした方が暖を取りやすいのだろう。そんなぴは8月5日に15歳になった。 15歳は人間でいえば100歳を超えると聞く。いや、そんなことは僕とぴにはどうでもいいことで一瞬一瞬力を合わせ暮らしている。手のひらをぴのくるまったマットにそっと載せると気配を感じたのか少し背中が動く。起きてるけどまだ外には

有料
200

ブルックリン物語 #75 「L-O-V-E 」

ブルックリンの景色を見渡すと、ずいぶん街が開いてきたなあと思う。肺の奥まで新鮮な空気を吸い込むと、マスクをしない日常が戻ることの喜びを噛みしめる。 1more week ! linktr.ee/SenriOeMusic until “Letter to N.Y.” 110107.com/s/oto/page/LTNY?ima=4317 ここ数ヶ月、この意識が変わった。少し前まではどちらかと言うと「マスクをしない!そんなことして本当に大丈夫なのかな」と疑心暗鬼がどこかにあ

有料
200

ブルックリン物語 #72 "Confirmation"

各地で行われるジャズコンフェレンス。これに参加してジャズの世界のいろはを学ぶ。世界中から集まるジャズ関係者たちとの交流の中で、ベニュー探しや会うべき人に会えるヒントをもらう場所だ。 ミッシェルは大声で周りに叫んだ。 「ねえ、この人にPRの誰かいい人を教えてあげてくれる?」 自身もジャズアーテイストのマネージャー会社を経営していて、その会社によるPRやコンサート企画も長年やっているという彼女がKayを指差し辺りを見渡して大声を張り上げた。 「それで、コ

有料
200

ブルックリン物語 #57 エメラルドの風の中

母校の関西学院と7年間レギュラーをやっていたTFM HALLで35周年記念コンサートをやってアメリカに戻ったら、すっかりNYの街は秋が深まっていた。関学の楽屋には父や妹、甥っ子が来てくれてしばし話に華が咲く。いつもコンサートや仕事では関西とは言えどホテルにいるので、機を見てゆっくりと帰ろう、と先月1週間ほど実家に帰省した。 「お兄ちゃん、新しいCD買わせて。よかったら20枚持って帰ってきてや」 そう妹が言ってくれていたので「お買い上げありがとう」とPND社長はスーツケース

有料
100

ブルックリン物語 #73 "jubilation〜歓喜〜"

「Senri, ちょっと話があるので今から君のドアまで行っていいかい?」 2021年1月2日。1月分の家賃の小切手を渡したいと大家ジョーに言うと、そう返事が返ってきたので家で待っていた。すると程なく聞き覚えのある忙しない足音が上がってきた。僕たちは新年の挨拶をいつものように明るく交わし家賃を彼に手渡す。日本風お辞儀をしてそれを受け取るジョー。 「ところでSenri ,うちに2番目の子が生まれるんだ。今度は男の子さ。今9カ月目なんだ。もういつ産まれてもおかしくない。そこで

有料
200

ブルックリン物語 #71 "Blue in Green"

ワシントンDCの老舗ジャズクラブ「ブルースアレイ」は敷居が高い。初めてこのクラブに足を踏み入れたのは日本大使館が主催している桜祭りの時だ。このクラブのオーナー兼ブッキングマネジャーのハリーさんの印象があまりにも強烈で、その人が経営するジャズクラブを直ぐにでも見てみたいと思ったのだ。 ワシントンDCで毎年春に行われる桜祭りに八神純子さんが出演するので伴奏ピアニストとして声をかけてもらった。その時会場になったワーナーシアターで終演後にハリーさんに初めて会った。他にもメインゲスト

有料
200

ブルックリン物語 #69 Salongo

トリオはN Yのリハスタで初めて手にした航海図を確認し、トミジャズはシミュレーション、肌感覚でマップを確認し、博多でいざ、その航海へと出航した。関係者の客観的感想や博多の観客の生反応が、僕たちがより先へ進むための自信と反省をくれた。トリオの船は進み始める。 少し前に盲腸をとったこともあり、身体が100%完璧じゃないので今自分が持っているものを最大限使い切らなければいけない。ちょっとでも目を逸らすとブレが生じコンデイションに左右される。なので客観的に見つめる目を持って状況に流

有料
200

ブルックリン物語 # 66 "Tune Up"

マンハッタンヘンジ(英: Manhattanhenge)。ニューヨーク市マンハッタン区の碁盤の目状の大通りの東西方向のストリート(通り)に沿って太陽が沈む、太陽が昇る、という1年に2回起こる現象がある。マンハッタンヘンジの時期には、観測者は東西方向の通りのいずれかに立つと、太陽がそのストリート(通り)の中央線に沿ってニュージャージー方向に沈んでいく、ロングアイランドから昇ってくる光景を見ることができるのである。僕は偶然これに出くわしたことがあるが人工的な都市が圧倒的なエネルギ

有料
200