死際

よし、今月も順調に300万円の利益が出るぞ。
高校卒業してから、数ヶ月は将来の見通しも立てずフラフラしていたけど、今の仲間に出会えてよかったな。
普通の企業に務めるのも嫌だったし、一生フリーターでいるのも嫌だったから丁度よかった。

この世は馬鹿ばっかりだ。
教育の場から放たれた瞬間から考える努力をやめる奴らが多いおかげで、俺たちのビジネスは成り立っている。
バレれば一発アウトの悪徳な商売だが、バレたところで俺たちはまだ若い。
今のうちに稼げるだけ稼いで、そのうち毎日遊んで暮らすんだ。

もう引き返すことも出来ないしな。
一応工業高校に通ってはいたが、今となってはもう何も出来ない。
人より少し優れた身体能力以外は何も取り柄がなかった。
家族とも中が悪く、今のビジネスが波に乗ったところでさっさと出てきた。

今年で3年目か、あと5年もすればかなりの貯金額になりそうだ。
そろそろこのビジネスからも足を洗って、死ぬまで遊ぶ計画を立てていかないとな。

そこから丁度5年目に差し掛かる頃、事件は起こった。

一緒にビジネスを続けていた仲間がついに捕まった。
残された俺たちの身もこのままでは危険であったため、散り散りになることを決意。

既に数十年は生きていける貯金が溜まっていたので、タイミングがよかった。

遊べる友達はいなくなったが、また作ればいいし、金のあるところに人は集まるだろう。
ここからが俺の人生の本番だ。

...そこに広がる未来は「暇」であった。

俺と同じ境遇の人なんてそうそうおらず、平日は仕事している人が多い。
毎日遊ぼうにも遊ぶ相手がなかなかいなかった。

思いつく限りテレビゲームを買ってはみたが、頭のすこぶる悪い俺は全部難しくてすぐにやめてしまった。
パチンコやゲーセンなどにも足を踏み入れたが、パッとしない表情を浮かべたどうしようもないやつらと同じ空気は吸いたくなかった。

結局、自分の家でゴロゴロするだけの毎日が続いた。
金も時間もあるのに、人と知識が圧倒的に枯渇しているこの状況が何よりも苦痛であると感じ始めた。

就職しようにもこれまで悪徳ビジネスしかしていない高卒の自分を雇ってくれる企業も無いだろうし、身分が知れ渡ることが怖かった。

何も出来ない。だんだんと考えることもやめて、ボーッとする時間が増えてきた。
動かないから食欲も沸かないし、寝ることも出来ない。

今自分にできることは来世に期待することしか無いと思い始めた。
莫大な財産を抱えたままこの世を去ることになるのか。

そこから無気力な日々が1ヶ月ほどを過ぎて、やっと重い腰を上げた。
最後くらい他人にあまり迷惑をかけないようにと思い、車を走らせ海へと向かった。

その途中、逆走してくるトラックと正面衝突をして、俺は即死だった。
金をどれだけ持っていようが、自分がこれまで培ってきたものは何もなかった。

その死際は時間が永遠のように感じるほど後悔した。

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