【リストラ小説】会社棄民 ーある日、会社があなたの敵になるー 第一章⑨
さて、再び「リスト」のフォルダーを開いていただけますか。イエロー社員のどれでもいいので名前を指でタップしてください。
はい、ご覧のとおり、データは年齢、勤続年数、業務履歴の三項目しかありません。イエローリストの社員には単なる記号しかないってことです。
そりゃそうでしょう。ろくなスペックがないんですから。
名前も記号に過ぎないと思ってください。よく知っている社員の名前があったとしても、それは記号です。リストの色を一日でも早くイエローからレッドに変えるべき記号です。記号だからこそ何も考える必要はありません。
一次募集の希望退職は、最低でも三百人以上をやめさせてください。面談で彼らの意欲を打ち砕き、心をへし折ってください。
それでも会社に居座ろうとする者には心に深い傷を刻み込んでください。
そうすれば、二次募集でYESと言わせやすくなります。リストラのゴールは合計四百人です。目標必達のためにも一次募集でガンガン削ってください。がんばりましょう。
面談のコツが少しつかめてきたかと思います。またロールプレイングを行いましょう。こんどは執行役員同士で二人ずつペアになって面談者とイエロー社員の役を経験していただきます。
コンサルタントは人事部長と一緒に長テーブルと椅子を動かし、執行役員を四つのペアに分けて座り直させた。それぞれ一・五メートルのソーシャルディスタンスを空けて向き合う。
窓側が面談者、廊下側がイエロー社員の役になってください。行っていただくのは、先ほどの執行役員さんと私のリピートです。それぞれのペアで面談者とイエロー社員の役を交互に行っていただきます。
最初に面談者がマニュアルの決めぜりふで戦力外通告を切り出していただきますが、イエロー社員は私のまねをしてはいけません。面談者が対応に困るようなくせ者のイエロー社員を自分なりに考案してみてください。
泣きキャラ、キレキャラ、陰湿キャラ。どんなキャラでもかまいません。面談者のマニュアル対応が続行不能になるようにいやらしく振る舞ってください。
一方、面談者はどんなことをされても動じることなく、無心でマニュアル対応に徹してイエロー社員に伝えるべきことをきちんと伝えてください。
両者とも心していただきたいことがあります。
これは勝負です。結果は勝つか負けるかのどっちかです。
互いに一切の遠慮なく、相手を打ち負かすように対決してください。勝負は勝たなければ意味ないですからね。
心の準備はよろしいですか? ではスタートです。どうぞ。
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