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小澤メモ|NOSTALGIBLUE|思い出は青色くくり。

6 フィンガーの憂鬱。

リングは口ほどに物をいう。
その昔、若かりしドゥエイン・ウェイドと軽くバトったコービー・ブラインが、言い放った決め台詞。「同じ数だけチャンピオン・リングをとるまで黙ってろ」。そして、スーパースターというのは、引退後でもその負けず嫌いなところも超一流。シャキール・オニールがスコッティ・ピッペンに仕掛けたSNS上のビーフ(当人同士はふざけてただけかもしれないけれど)。シャックがピッペンをマイケル・ジョーダンのオマケみたいに揶揄すれば、ピッペンはシャックのフリースローの下手くそぶりをあげつらう。そんなジャブの応酬が続いた後、最終的にパイセンのピッペンがポストしたのは、両手に3つずつはめた、計6個のチャンピオン・リングのセルフィーだった。ちなみにシャックは、計4個(レイカーズで3個、ヒートで1個)。「ひかえ、ひかえー。この紋所が目に入らぬか。だまらっしゃい」。そんなピッペンの声が聞こえてきそうだ。

チャンピオン・リング。
NBAでチャンピオンになったチームになると、どのチームもチャンピオン・リングを制作する。これはリーグからプレゼントされるのではなく、優勝したチームが自主的につくる。だから、デザインや予算(ダイヤモンドの重量やカラットもまちまち)は、チーム・オーナーと数社の制作会社のコンペみたいなもので決まるみたいだ。世界最高のプロリーグのチャンピオンだから、セコイことなんかは言ってられない。だから、どのチームも、いかついブリリアントなものが多い。引退後、でっぷりとした腹に
サングラスをかけただらしない風体になったとしても、その指にチャンピオン・リングがブリンブリンに輝いているなら、わめくオッサンも黙ってくれるのだ。

もしもリングがあったなら……。
なにかと話題のカーダシアン一家のクロエとの結婚生活が破綻し、ドラッグ中毒から死にかけたラマー・オドム。レイカーズ時代にコービー・ブライアントとともに2度優勝している。しかし、一文無しになって、そのリングを転売してしまった。そんな選手がいる一方で、何がなんでも、どうしても、たとえ1個でも、そのリングを自分の指にはめたかったのに夢破れてコートを去っていったスーパースターも少なくはない。負けず嫌いでも超一流で、目標への執着心も凄まじい。それはアスリートとして、身体能力以上に貴重な才能だと思う。そんな執着心のモンスターのスーパーリッチでもどうにもならないのがチャンピオン・リングなのだ。とくに、キャリア晩年に批判覚悟で移籍してまでリングに懸けたスーパースターたち。引退生活、たまに自らの指を物憂げに眺めながら、スコッチをちびちびとやってるのかなと想像してしまう。富も名声も得たし、殿堂入りだってしているし、選手会の年金もすごいし、今だって講演や解説の仕事でイケイケだろうけど、それでもふと、「あのとき、あのゲームで勝っていれば」と、溜息をつく一瞬がある気がする。その憂鬱は誰も癒すことができないし、それはチャンピオン・リングを掴みとれなかったスーパースターだけのものだ。ロケッツとのファイナルで敗れたパトリック・ユーイングとジョン・スタークス。ブルズとのファイナルで敗れたチャールズ・バークレー。レイカーズとのファイナルで敗れたアレン・アイバーソン。他にも、カール・マローン、ジョン・ストクトン、レジー・ミラー……。これに、ラッセル・ウエストブルックとジェームズ・ハーデンが続いてしまいそうでこわい。この2人にはなんとしてもチャンピオン・リングを手に入れてもらって、わめき散らすオッサンに加えてケビン・デュラントとカイリー・アービングのSNSもシャットダウンさせてもらいたい。
(写真は、現編成ではあと2年がリングへのラストチャンスかなと思われるトレイルブレーザーズ/2018)

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