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小澤メモ|Sb|スケートボードなこと。

7 パトリックというフォトグラファー。

スケートボードのグローバル・スタンダード。
今やスケートボーダーは世界中にいる。アメリカで生まれ、日本やオーストラリアでも流行し、その後、ヨーロッパのシーンがカルチャーとしても成熟していった。路面が良いパリやドイツだけでなく、石畳のイメージのイタリアにも名の知れたスケートチームが存在するし、フットボールとフーリガンの国イギリスには、ブループリントやヘロインといったスケートインダストリーがあって、パレスが世界的にフォロワーを増やしている。今では、アメリカン・カルチャーやスケート不毛の地だった中国やベトナムでも人気がある。いやはや、ユースカルチャーは簡単に国境を飛び越えていく。それは素晴らしいことだ。そんなスケートボードを記録する手段として、写真と映像がある。

フォトグラファーとフィルマー。
絵を書いたり、詩で伝えるのもいいけれど、すごいトリックやかっこいいトリックを誰がどこでメイクした、というのを世界中のスケーターに共有してもらうには、写真と映像がベストだと思う。それで、スケートシーンでは、写真を撮る人をフォトグラファー、映像を撮る人をフィルマーと呼んでいる。彼らは、スケーターとともに現場のストリート最前線で活動する。スポットを探し(コーディネート)、そのスポットで誰が何をメイクすれば絵になるかを考え(キャスティング)、セキュリティや通行量、それに自然光か日中シンクロの方が映えるかなども考慮してベストな時間を提案し(ステージプロダクション)、実際にアングルを決めて撮影をする。そのクリエイティビティは際限がない。それでいて、あくまで主役は被写体のスケーター。写真や映像作品としてより、スケート作品(スケートの記録)として残していくのである。

パトリックは写真も映像も撮る。
そのため、フォトグラファーとフィルマーは、ときにスケートマガジンを作るエディターやディレクターより、さらにはスケートのプロダクトをつくるデザイナーよりも、スケートに対してのこだわりがハンパじゃないときがある。現場と制作側の良い意味での衝突は避けられない。パトリック・ウォールナーというフォトグラファーは、写真撮影をすると同時に、フィルマーとして映像も残すバイタリティに溢れた人物。しかも、彼が興味を持つスケートボードは少し変わっていて、それは隆盛しているスケートボードのグローバル化をリードしてきたものだった。彼は、スケートを見たこともないスケート未開の地や、そこでスケートはできないだろう(スケートのプッシュに必要な舗装された道がない場合や文化圏としてスケートが拒否されていた場合など)と思われていたスケート不毛の地などに、積極的に旅してスケートボードを記録してきた。

ヴィジュアル・トラベリング。
彼が捉えた、ヨルダンのペドラ遺跡の前の砂埃の中で、アラブのバザールの密集で、インドのスラムで、シベリア鉄道でユーラシア大陸横断しながらロシアやカムチャッカや北朝鮮の町で、スケートするスケーターたち。しかも、タイトな環境下で、写真と映像の両方で。個人的に、彼が撮ったカンボジアのアンコールワットやその周辺でのスケートの絵が好きだ。異質さ。違和感。だけど、スケートデッキ1枚でどこにでも行けてしまうんだという事実。それは魅力に溢れている。そんな彼の足跡と記録は、そのままスケートのグローバル化の物語だと言ってもいい。パトリック・ウォールナーはフォトグラファーとして写真集『ユーラシア・プロジェクト』を、フィルマーとしてDVD作品『10,000キロメーターズ』などを制作している。ヴィジュアル・トラベリング名義で、多数の映像がアップされているので、検索してみるといい。そこには、競技としてのスケートボードとはまた一線を画す、素敵なスケートボードが登場してくる。7
(写真は、彼が撮ったカンボジアのスケート写真/2018年 Sb掲載)

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