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小澤メモ|POPCORN MOVIE|映画のこと。

9 アメリカンダイナーのア・ラ・モーディ?

季節感映画というもの。
『セブン』、『スナッチ』、『小説家を見つけたら』、『パリ、ジュテーム』、『しこふんじゃった』などは、1年に1度は見返す、自分にとっての季節感映画。季節感映画とは、季節の変わり目や、ちょっと映画の力が必要な日に見る映画のことを勝手にそう呼んでいる。『リトル・ミス・サンシャイン』は、そこにラインナップされている1本。興行収入やチケットに直結するような人気俳優が出ているわけでもなく、内容はというと、田舎町アルバカーキで家族と暮らす少女オリーヴの話。ひょんなことから美少女コンテストの地区代表に選ばれたちょっぴり太めの彼女だけど、“リトル・ミス・サンシャイン”になるのを夢見て、大好きな祖父とのダンスレッスンに余念がない。パパとママ、それにニーチェに傾倒する兄、さらには素行不良な祖父やワケありの叔父までもが加わって、本大会が行われるカリフォルニアのレドンドビーチを目指すことに。なんとも調子がよくない黄色いワーゲンのマイクロバスはこの旅の波乱を予期しているかのようで、実は笑いと感動で胸がいっぱいになるロードムービー。って感じ。

意味は当世風。それがまたそそらせる。
こちらは、甘いものに目がないのだけど、歳をとると、運動だけではコンディション・キープが難しいので、どうしてもスイーツから我慢しないといけなくなる。ニーチェの沈黙の誓いのように、沈黙のスイーツを課しているこちらは、劇中のオリーヴの葛藤に同調せずにはいられない。それは。道中、朝食をとるために立ち寄ったアメリカンダイナー。店内のBGMは軽快なデヴォーチカの異国音楽。隣のテーブルの客が鳴らすフォークや皿の音。そして、小さなヒロイン、オリーヴがオーダーするかわいくて小さな声。「決めた。これにする。私はワッフルと……ア・ラ・モーディって?」。アイスクリームだと答えるウェイトレスに向かって、オリーヴは嬉しそうに答える。「OK! ア・ラ・モーディを!」。ア・ラ・モードとは、フランス語で当世風ということらしい。ずっと同じ名前のくせに、今流行りのアイスですよ、っていうことらしい。

口に放り込んだもの勝ち。
ここで、スーパー重箱の隅つつくぜベイベな父のリチャードのヨコヤリが入る。アイスクリームの主成分をあげつらい、あげくにオリーヴが憧れるミス・アメリカの体形はアイスを食べないからスリムだとのたまう。そんなこと言われたら、気持ちよく、美味しく食べれない。(食べたいけど、食べたら後悔するかも)。よくわかるよ、その葛藤。こちらも、アイスやケーキやドーナツを買うのは簡単だけれど、それを食べるのは猛烈に気がひけるし、口に入れるまでかなり躊躇してきたから。チョコレート味のア・ラ・モーディを前にして、うなだれるオリーヴ。不憫に思った祖父と叔父と兄が、すかさずフォローする。オリーヴのあまーいア・ラ・モーディをわざと横取りしようとする。「待って! 食べちゃダメ」。まんまと彼らの術中にハマったオリーヴは、ア・ラ・モーディを口に放り込むと一瞬だけ目を閉じ、背徳? 魅惑? とにかくあまーいチョコ味をたっぷり堪能するのだった。

甘いもの、スイーツ。デザートっていいな。
食べたいものを、食べたいときに、おいしく積極的に食べる。それは幸せなんだと思う。いつかは食が細くなって、口内環境もおわってきて、何を食べたいのかもピンとこなくなってしまうかもしれない。だったら、若いときは前のめりでいろいろ食べて、大好きなものを見つけるのがいいよな、やっぱり。なんて思ったりする。思いながら、中年太りはイヤだと逡巡したりする。(脂肪がついてしまうし、ついたらとれにくい。プールで1000メートル泳いだところで500カロリーも消費できない。やはりオリーヴの父、リチャードが言ってることは正しい。だけど……おいしくてハッピーになった方が嬉しい……)。そういうときは、(やったことないけども)バンジージャンプとか、(富士急ハイランドの)ええじゃないかとかに直面した気持ちになって、目を閉じて思いきり身を任せて口に放り込んでしまうのがいいか。そんな気分で、ハーゲンダッツではなくレディボーデンのストレベリー味を、ア・ラ・モーディ、ライト?って言いながら、一番のビッグサイズを抱えて食べたい。9
(写真はフランスでふらっとスイこまれて食べたスイーツ/2019年)

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