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小澤メモ|SENTIMENTAL JOURNEYMAN|おっさんの旅。

11 おっさんの旅  辺境編 厚岸駅前。

根釧台地。
厚岸湾とからむように厚岸湖に通じている。それは小さいながらも天然の良港となって、この町に活気を生んできた。戦後、右肩上がりで増えていった人口。しかし、徐々に流出していった現在は、ピーク時の半分の人口になった。そんな厚岸町は、だいたい釧路から50km、根室から80kmのところにある。思えば、Tシャツ一丁で羽田を発って、中標津に降りて北海道の東の辺境をぐるりと回って来た。寄り道を繰り返し、その町ごとに違った風と景色を撮影した。そういう意味では、大きく動いたつもりだった。しかし、改めて地図を見ると、野付半島から根室、そして厚岸。それから釧路を目指す、このルートは、小学生の頃、教科書で知った根釧台地そのものだった。日本最大規模の台地の上を、オッサンたちはロードトリップしたのだった。

ねえマスター、いいホテル。
牡蠣をたらふく食べた寿司屋で、網屋のおばさんにダメ男認定してもらった、酒を飲めないオッサンたち(内1人は酒をあまり飲めない、1人は酒が大好きだがパイセンを出しぬいて飲みに行く気にはなれない、もう1人は酒を飲まないと誓って生き直している)。釧路まで走ってもよかったが、厚岸に1泊することにした。駅前の小さなホテルだったけれど、木の長テーブルに年季の入った室内灯など、目につくものたちが良い感じで異国情緒を漂わせていた。牡蠣の養殖をはじめ漁業が盛んな町なのに、ヨーロッパの山あいにある小国の老舗ホテルにいるような感じだった。これには、スタイルや好みが違う3人のオッサン(内1人はワイルドネス、1人はスケーター、もう1人はワイルド・バンチ)も、珍しく異口同音。「すごく不思議でいい気分!」と言っていた。ファッション誌やロハスなマグには決して載ることはないだろうけど、それも含めてすごく良かったな。

ねえマスター、この曲はなんですか。
朝。個人的には、このホテルのラウンジで、この撮影旅行を決定的なものにする出会いがあった。それは、朝食を用意してくれていたオーナーがかけた1曲。宿泊客が少ない閑散期は、オーナーひとりで切り盛りしているのかもしれない。それでも、民宿やペンションていう感じではなく、ホテルというのがふさわしいのが魅力のひとつでもあった。だから、オーナーもしくはマネージャーなんだろうけど、マスターと呼びたくなるルックスと木のプロップスたちだった。その1曲は、坂本龍一さんの『mizuno nakano bagatelle』。バガテルとは、創作段階のスケッチやメモ的なワンフレーズのようなもので、未完だけれど捨てがたいインスピレーションのようなものだと解釈している。この曲はタイトルから言って、この旅の途中にいるオッサンにぴったりな気がした。オホーツ海、根室海峡、太平洋、そして雪や流氷や湿原といった水に沿って進むオッサンの中に芽生えていく、いまさらながらの、日本人としてこれからを生きるヒントたち(バガテル)。それは名曲にはまだまだ遠いけど、どうにかしないといけないものだとも思っている。明日は釧路空港から羽田へと向かう。11
(写真は厚岸大橋から湿原へ、オッサンズはげじゃなくて影/2019年)

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