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小澤メモ|SENTIMENTAL JOURNEYMAN|おっさんの旅。

8 おっさんの旅  辺境編 道道142号線。

根室から南西へ、花咲港。
JR花咲線のターミナル、根室駅。北海島の東の果てに発着する長距離列車たち。ここから釧路を経由して札幌までは450km以上もある。終点(始点)のターミナルが漂わせる雰囲気が好きだ。どこか遠くまで出て行く人や遠くから帰って来る人の旅情。そして、ここで暮らす人の日常など、ターミナルにはあらゆる場面が記憶されている気がするからだ。根室からJR花咲線に沿う道道142号線で、たんちょう釧路空港を目指す。途中、吹けば飛ぶようなオッサンの僅かなやる気を、その気にさせる魔法の言葉「せっかくここまで来たんだからさ」を、何度か炸裂させた。ちなみにハイウェイはハイウェイの爽快さと便利さがあるけれど、旅するときは一般道に限る。

ビタミンBよりフリーウェイが足りてない。
出来心やたまたま目に入った素敵な景色にリアクションしたまま横道に逸れてしまえる。それにハイウェイは金がかかる。だから横道に逸れることも躊躇させやがる。ガス代さえ持ってれば、あとは有り余る体力と好奇心だけでロードトリップできるフリーウェイとは似て非なるもの。この国の、有り余る体力と時間を誇る若者が知らない日本を旅するチャンスを、フリーウェイじゃなくてハイウェイっていうのが、ことごとくぶっ潰している。ずっと思ってきた(もちろん建設費に維持費と地元経済へのフィードバックなどなどの諸事情はわかるけれども、どの世代まで払い続ければ約束は果たされるのか)。だから、東の辺境の根室にも若者がやって来ない。こんなに風光明媚な美しい国なのに、この国の未来のロードムービーになるはずの若者のプロットが少ない。

北方領土へのターミナル。
まず、寄り道したのは花咲港。戦後からずっとサケやマスなどの北洋漁業の拠点として賑わっていた。しかし、漁業水域などの取り決めがあった後は、漁獲量ががくっと落ちて、徐々に人々は別のところへと移っていってしまった。それでも、現在は、花咲ガニという特産物がある。そして、北方領土を行き来する船の発着港でもある。北方領土のロシア人とビザなしの交流を続け、元島人がお墓参りのために北方領土に向かう、いわば国境の港としてなくてはならないものだった。閑散とした町には、ネオンのかわりにロシア語の看板がいくつかあった。「北方領土は日本固有の領土」と書いてあるらしかった。納沙布で見た、目と鼻の先の北方領土の群島より、ここで見た、ロシア語の看板や、機能している港のすぐ近くに放置されたままになっている宿や商店の廃墟。それらの方が、辺境だとか現実的な距離感だとかを感じた。ひたすら写真を撮った。何枚も何枚も撮った。オッサンたちは何かを喋りかけるかわりに撮るしかできなかった。8
(写真は根室から南西へ、花咲港/2019年)

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