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小澤メモ|Sb|スケートボードなこと。

6 バンジャマンというフォトグラファー。

しっかり話して、ちゃんと聞いてくれる。
パリでスケートボードやストリートの写真を撮り続けるフォトグラファー、バンジャマンと知り合って15年以上が経つ。彼が怒ったところを見たことがない。それどころか、声を荒あげたことすらない。話すときは、相手がフランス語や英語を話せるかどうかなんて関係なく、誰に対してもゆっくりと丁寧に伝えようとする。そして、耳を傾ける。スケート・アンド・デストロイっていうくらいだから、ストリートスケートはちょいワルというか、エッジが効いてるイメージがある。そのエッジがとくに尖りまくっていた80年代や90年代からシーンの真ん中にいるのに、バンジャマンの物腰やアプローチはふかふかのパンのようにソフトだ。ただ、写真そのものや、被写体になるスケーターやアーティストのスタイルには、かなりシリアスなこだわりがあるのが、また良いところ。紙文化がメインだった時代にスケートシーンをリードしながら、SNSが発達し人類総メディア化した現代にもちゃんとアジャストしているソフト(柔軟)なバンジャマン。ただ、彼はデジタルの良さを認めつつ、自身の撮影においてはずっとネガフィルムにこだわっている。

アナログ作業をこよなく愛す。
フィルムを巻きあげて、ラボに出して、ベタ焼きをルーペで覗いてダーマトでチェックしていく。そして、プリントした写真はマガジンにしたり、ウェブでも発信する。アナログな作業に必要なコストを、しかるべきところにちゃんと落として、みんなでクリエイティブな日々を存続させていく。そういったことにこだわることができるのもスケートボードの良いところだと、バンジャマンは教えてくれる。たしかに、これだけカルチャーとして成熟し、プロダクト技術的にも進化をしているはずのスケートボードが、いまだにプライウッドの1枚の板のままだ。カーボンとかグラスファイバーとか、しなるスチールとか、そういうデッキがとっくに流通してても不思議ではない。実際にサーフィンやスノーボードには技術革新がもたらせている部分がある。スケートボードでは、結局はカナディアン・メイプルのプライウッドに帰結していく。温もりがあって不思議で頑固な乗り物。それは、バンジャマンというフォトグラファーの存在感と妙にマッチする。

バンジャマンを日本に招待したい。
自然光を愛するバンジャマンが切り取るスケート写真には、ディス・イズ・イットな彼だけのコントラストがちゃんとある。そして、ピントに関しては少しでも納得していないと、朝まで眠れなくなるほど繊細だ。ソフトだけどシリアス。柔らかいけど固い。バンジャマンの写真とスケートボードは、とても相性がいい。いつか必ず彼の写真展を日本で開催したい。本人もとても乗り気だ。今のコロナ禍で、それもどうなることかわからない。写真や作品だけを持ち込むことはできるけれど、それでは意味が半減してしまう。写真展と合わせて、バンジャマンに日本のスケーターを紹介して、気になった人物がいたら撮影に連れ出したい。そういう記録を残しておきたい。こちらも、バンジャマンも、健在なうちに。そんなことを思っている。とりあえず、スケートをあまり知らないという人は、彼が発表した作品集を見るといいかもしれない。そこに写っているのは、パリの気配を漂わせながら、古い通りで自由に遊ぶスケーターの姿。スケーターは、レンジェンドのマーク・ゴンザレス。

マーク・ゴンザレスと作った、レ・サークル。
バンジャマンが撮った写真を大判にプリントし、その上にアーティストでもあるマーク・ゴンザレスが直接ドローイングしていく。そして、それを共著として1冊の作品集に。パリのバンジャマンの家に行ったとき、その原画を見せてもらったけれど、「いやー、ほしい。かなり良い」というシロモノだった。日本でも人気が高いマーク・ゴンザレスのアートワーク以上に、バンジャマンの写真そのものがいい。素人からしたら、オーリー1つでもなかなか思うようにいかないジャジャ馬なスケートボード。そのスケートボードを自在に操り、誰も思いつかないようなクリエイティブなスポット遊びをしてきた、(誰もコントロールができない)(良い意味で)変人とか狂人のマーク・ゴンザレス。そんな彼とフラットに物作りを完成させることができるバンジャマンこそが、特異な人物だと思えてくる。ソフトでシリアス。柔らかくて固い。そして、静かだけど強い。6
(写真は、作品集『LE CERCLE』の象徴的な見開き)

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