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小澤メモ|SENTIMENTAL JOURNEYMAN|おっさんの旅。

6 おっさんの旅  辺境編 根室。

網走、羅臼、野付、そして根室。
野付半島で国後島を眺めた後、根室に向かった。半島の先っぽから対岸に架かる海上橋があれば、わずか数分で最東端の辺境である根室側に行くことができる。しかし、目の前にある北方領土に相当数の年月をかけても辿り着けないことを考えれば、文句の言いようがない。国道243号から国道44号で野付湾をぐるっと回って55km。根室に着いたのは夜だった。根室市街に入ると、桜木紫乃さんの小説『霧 ラウル』の世界を思い出した。とにかく勾配が連続する坂の町だということ。人通りはなく、寒さが増した暗闇に街灯の炎色反応がボヤけているだけだった。とても静かだった。『霧 ラウル』で描かれていた漁業や新規ビジネスで活況だった頃の華やかさは何も残っていないようだった。産業が傾けば、色街も廃れていく。ただ、当時と変わることなく勾配が連続し、東の先には北方領土が浮かんでいた。

天気予報でよく見る桜前線の終点。
北海道の最東端、根室の納沙布岬に向かう前に、オッサンたちはまた寄り道をすることにした。「せっかくここまで来たんだからさ」。これは、枯れはじめの体力も減退してくる、吹けば飛ぶようなオッサンの僅かなやる気を、その気にさせる魔法の言葉だ。「せっかくここまで来たんだからさ」と言えば、寄り道してタイムロスをすることにポジティブになれた。これまで、「せっかくだから買っちゃおうか」と言って、無駄な買い物をしてきた日常生活のツケなどは忘れてしまうのも、オッサンの良いところで、若者がオッサンを嫌うところ。まずは、自衛隊レーダーサイトへ。ここは、『風の谷のナウシカ』でいうところの辺境にあるペジテ市のように、国防拠点のひとつだろう。そう思って、訪れることにした。そして、桜前線の終点と言われている清隆寺へ。天気予報のニュースは、春の訪れを喜び桜の開花を話題にする。しかし、その桜前線が東京を過ぎ、青森の弘前公園や札幌の円山公園あたりまで来ると、春の報せに興味を失ってしまったかのようにそのあとはフェイドアウトしている気がする。清隆寺で満開の桜を見上げる春の日があることをインプットした。

JR花咲線、東根室駅。
根室のご当地料理、バターライスの上にデミグラスソースがかかったトンカツがのったエスカロップ(1番人気は老舗喫茶店どりあん/¥870)。わんぱくに腹が空きだしたオッサンたちは、このエスカロップをぺろっと平らげ、最東端の鉄道の駅、東根室駅へ向かった。釧路と根室を結ぶJR花咲線は、湿原の中を走ったり絶景ポイントが多く鉄男と鉄子にも大人気なのだった。厚岸の湿原を走る単線電車のポスターや写真を見たことがある人も多いだろう。とりあえず、近境の東京から根室までやってきた。このあとは、北海道の最東端で、北方領土に最も近い根室の納沙布岬に向かう。そこから、今度は、このJR花咲線と並走するようにして、落石、厚岸、釧路と湿原地帯を目指すことにした。中標津空港に降りたときから、ひたすらに寒かった。羅臼や知床は通信機能が不便なのが当たり前だった。そして、慣れない雪道。知らず知らずのうちに、近境の東京での生活でのストレスとは別物の小さな疲労が重なっていく。旅とはそういったものを受け入れていくこと。そうやって旅を続けていると、ようやくオッサンたちが知りたかった本当の部分を体感しているんじゃないかと思えてくる。そして、旅で訪れた町は、じっと動かずに日々そういうものを受け入れ続けて生きている場所なのだと実感する。6
(写真は坂の多い根室から流氷のかけらを臨む/2019)

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