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小澤メモ|POPCORN MOVIE|映画のこと。

8 デニーロ、長い爪で転がすゆでたまご。

映画『エンゼル・ハート』
1987年公開の映画『エンゼル・ハート』。初めて見たのは高校生のときだった。主役を演じたのはミッキー・ローク。前年まで、『ダイナー』から、当時の若手No. 1だったマット・ディロンやトム・ウェイツと共演した、コッポラ監督作品『ランブルフィッシュ』、ジョン・ローンとの『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』、そして、セクシャルバイオレットNo. 1の名を不動のものにした『ナインハーフ』と、立て続けにヒット作に出演していた。その勢いのままに、名優ロバート・デニーロと共演したのが『エンゼル・ハート』だった。このときは、まだワケのわからないボクシング・マッチをギリギリしていない頃。劇中では、受話器で片手を塞がれてるのに、マッチを爪で擦ってタバコに火をつけたり、常にウェッティな前髪が垂れてきたり、押し売りではない、ほどよい感じのセクシーさで魅力的だった。

ミッキーの方はハイなセクシー男優に。
それからは、ボクサーとして来日して、1Rで不思議なKO勝ちを収めたり、ほんとのプロボクサーになってしまったり、役者としてではなく、フィジカルな方のセックス・シンボルの方だけがどんどん進んでしまった感じだった。しかし、再び映画に復帰すると、なんだかんだ良い作品に出ているので、映画に愛されている人物なのかなと思ってる。きわめつけは、2008年公開、ヴェネチアで金獅子賞をとった『レスラー』だろうか。とにかく、そんなハイなセクシーになるミッキー・ローク以上に、こちらが惹きつけられたのがロバート・デニーロ演じる紳士ルイ・サイファー。このルイ・サイファーがゆでたまごを食べるシーンに釘付け。これを感受性バリバリの高校生のときに見たばっかりに、その後の人生、今に至るまで、それがたとえ初めて招待された彼女のご両親との食事だったとしても、もう恋なんてしないよ絶対というほどの淑女の前だったとしても、めっちゃパイセンにご馳走になっているときでも、先生の前でも、親の前ならなおさら、とにかくゆでたまごがそこにあったなら、ルイ・サイファーのごとく食べるようになってしまった。

悪魔は転がしてから食す。
ルイ・サイファーは、長い爪をしていた。テーブルの上のエッグスタンドからゆでたまごを手に取る。上をトントントン。下をトントントン。テーブルを使って、ゆでたまごにヒビをつくる。今度は、横にして、ゆっくりと執拗に転がす。そして、天使の羽をむしるように殻をはいでいく。白くて、丸くて、こちらだって見慣れているはずのゆでたまごが、妖しい光沢をみせて、紳士の口へと運ばれていく。(ああ、それ食べたい。なんでもない、手の込んだ料理でもない、ゆでたまごって、そんなに魅惑の美食なものでしたっけ?!)、そう思ってしまうロバート・デニーロのしぐさ。実は、ルイ・サイファーは美食の大家、ではなく、ルシファー(悪魔)の化身だった。

ゆでたまごの殻の剥き方としても正解(のつもり)。
ルシファーは、ルイ・サイファーという紳士のふりをして、魂を売り飛ばしたくせにそれを黒魔術によって他人になりすまして悪魔を欺いたハリー・エンゼル(ミッキー・ローク)に契約履行させるためにやってきのだ。この映画には、ブードゥー教の儀式のシーンがある。これは、ニワトリの首をかき切って、それを生贄にして、魂の健康を祈願するものらしい。だから、ルイ・サイファーがゆでたまごを食べるのは、まさに悪魔が魂そのものを丸呑みにしているようで、怖かった。そして、とてつもなくセクシーだった。セクシーを謳歌していたはずのミッキー・ロークを、丸呑みにしてしまっていた。そして、こちらはというと、初めてこの映画を見てから30年経った今日も懲りずに、トントントンとゴロゴロとゆでたまごを食べている。実際に、このやり方でキレイに殻がとれると思っている。しかし、「いや、全然とれない。そしてセクシーというよりオカシイからやめて」と、いつも怒られている。8
(写真は尊敬する人がふるまってくれた夕食にて。そこでもゆでたまごが出ようものなら……ルシファーに/2011年)

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