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道ばたに咲く花は心のバロメーター、ブラック企業の洗脳


春になり、桜が咲き始めると必ず思い出すことがある。


私が専門学校を卒業した春、新入社員として入社した会社はブラック企業だった。

ポジティブなことが取り柄の、明るい性格。だけれど、
ブラック企業に心が蝕まれていくのに、そう時間はかからなかった。

心を持つことを許されないブラック企業からの生還。


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子供の頃から夢見たファッションの世界で、デザイナーとして働ける。
夢が叶う瞬間。専門学校を卒業するのが待ち遠しかった。

早く実績をつけたくて誰よりも経験を積みたくて、同年代の誰よりも早く成長したくて、あえて少数精鋭の多忙な企業を選んだ。

そう。あえて選んだこの会社こそが、ブラック企業だったのだ。
入社した日、何かがおかしいことにすぐ気が付くべきだった。

私を含めて新入社員は4人。少数精鋭の会社なはずが、新入社員が割と多い。既存の社員は3人。

・・・・!?

なんと、元々いる社員よりも新入社員の人数が多いという事態が発生していた。

普通なら、この時点で気がつくかもしれない。
でも誰も気が付かなかった。
他の会社での経験がない状態で、企業内の実情を知る人間はいなかった。
(今思えばそういう人間を集めていたのだろうと容易に検討がつく)

入社してすぐは、覚えることが山積みで余裕のない日々。
人数も少ないので、デザイナー職ではない仕事も当たり前のように自分の仕事として扱われた。
でも念願のアパレル業界。忙しいけれど充実の毎日。


異変に気がつき出したのは、入社してから1ヶ月ほど経ってからだろうか。
まず、3人しかいない先輩の内、唯一の女性だった1人が退職した。
それも、新人が入ってきてある程度(本当に基本の部分だけ)仕事を覚えるのを待ってました!と言わんばかりに、颯爽と辞めていった。
まだ入社して1ヶ月。夢に溢れキラキラしている私たち4人を見ながら、薄笑いの顔で「頑張ってねぇ…」と言い残し去っていった。
私たちは、辞めていった先輩のあの顔、あの言葉の、意味がまだ理解できる段階ではなかった。


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ブラック企業を作り出していたのは他でもない、ワンマン社長だ。
社長の新人に対する遠慮がなくなり始めたのは入社2ヶ月経った頃。
絵に描いたようにイスにふんぞり返り、私たちを怒鳴った。
最初こそびっくりはしたものの、それからは大声を出すのなんて日常茶飯事で、こちらもいつの間にか慣れっこになっていた。

この時点で異常事態だが、既に洗脳モードに突入していた私たちは、誰も、この状況から抜け出そうとはしなかった。

「新入社員だけでは仕事にならん」と怒り出した社長は、求人を出して中途採用の社員を雇い入れた。
だけど、入社した人は最長1ヶ月で辞めていった。
すんなり辞めていく人もいれば、中には私たちよりはるか年上の大人が、いきなり連絡も無しにばっくれていくこともあった。
そうして人がいなくなる。だからまた雇って、また辞めて、を繰り返していた。

経験ある中途採用の人たちが辞めていくのは、他を知っているからだ。
そう、こんな会社、他ではありえないということ。

それでも私たち同期は誰1人、辞めようとはしなかった。
…なぜだろう?


心はどんどん力を失い、キラキラしていた世界は白黒になり、笑顔も消えていった。
休日は寝るためだけのものになり、自分の感情は?気持ちは?置いてけぼりで、どこにもなかった。
ひとりになると、何もなくても涙が溢れる。
会社では、同期と励まし合い、愚痴を言い合い、頑張ろうねとまた仕事に戻った。


きっと、この絆が、1人分でも無くなってしまったら、全員の心が崩壊すると、暗黙の了解で皆分かっていたのだろう。

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新卒で入社した会社を、あの会社に決めた自分の選択が間違っていたとは思わない。
当時は苦痛でしかなかった出来事が、後に活かされたこともある。
なにより自分の選択に、1ミリたりとも後悔を感じたくない。


だけど身体は正直だ。


数年経った春、桜が咲き始めたことに気が付いた時、
当時の、ブラック企業のことを走馬灯のように思い出した。
そして、ぶわあっと、涙が溢れた。


私は桜に気が付いた。道の端に咲く花に気が付いた。
花を見て、綺麗だなあと感じた。


それは、心に余裕がある証拠なのだ。


数年前は花が咲いていることすら気が付けなかった。
花のことなんて、頭になかった。視界に入っても、反応できなかった。
周りを見る余裕がない、幸せを感じられる心のパーツを失っていたのだ。


それが数年かけて、ようやく心を取り戻したと実感した瞬間だった。


道ばたに咲く花に何気なく気が付けた時、私はいつもそのことを思い出す。

そして、花に気付けるだけの心の余裕があることに感謝して、また前を向いて歩き出す。

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