失恋した日はアイスクリーム
「Hello, Yumi?Yumi?(ひとりになりたくないの。話、聞いてくれる?)」
部屋のドアがノックされる音で、私は仮眠から目が覚めた。
ドアを開けると目を真っ赤にしたフランス人のハウスメイト、Floreが枕を抱いて立っていた。
「Yumi,Are you free now? (Yumi、時間ある?)」
「What's wrong with you? (どうしたの?)」
「I was with a garbage.(とんだヤツと一緒に居たんだわ。。。)」
私ともう一人のアメリカ人のハウスメイト、Jordan(ジョーダン)はFloreの部屋に召喚され、ベッドの上で3人向き合って一連の恋愛劇を聞いた。
Floreには直近まで、いい感じになっていた現地のアメリカ人男子学生がいたのだが、どうやらその彼からフラれてしまったらしい。何度かデートを重ねていたのだけれど、あいまいな関係にしびれを切らして「この関係ってなに?」と聞いたとのこと。その質問が終わりの始まりだった。
2週間ほど前にハウスパーティーを開催したとき、Floreの誘いに乗って彼も来ていた。私個人の意見では、初対面で直感的にプレイボーイそうという印象を受けた。でも、その直感だけで人を判断するのはよくないと思い、黙って様子を見ることにしていた。まさか彼と出会ってから2週間のうちに、その恋に終止符が打たれるとは思ってもみなかった。
「You know, I was dumped by him!!!! Such a bitch! Shiiiiiit!!!(彼に捨てられたのよ。なんてビッチなの!このう!)」
Floreがひと通り溜まっていた愚痴を吐き切ると、部屋はシンと静まった。
そして、そのタイミングでギュウウ、、、というちょっと大きめのおなかの音が響いた。
「I am hungry...(アイム アングリィィ.)」
Floreの話す英語はフランス仕様。フランス語って「H」を発音しないらしく、発音はアングリー(怒っている)だったけれど、おなかを抱えてうずくまる彼女のしぐさは「ハングリー」だと理解した。そうだよね。腹立っただろうし、お腹もすいたよね。
時刻は20時を回ったところ。気が付けば夜ご飯をスキップして彼女の話を聞いていたことになる。ちょうどダイニングルームも閉まってしまった。夜ご飯を調達するには、寒波で0℃を下回る中往復40分のショップへ行くか、徒歩5分の超巨大自動販売機で添加物たっぷりのレトルト食品を買うほか無かった。
「I have a good idea for our dinner. Hold on! (良い考えがあるわ、ちょっと待ってて。)」
Jordan は満面の笑みを浮かべると、ベッドから飛び降りて自室へ帰っていった。そして、日本でいうファミリーサイズのBen and Jerry's のアイスクリーム3つとノートパソコンを抱えて帰ってきた。
「You know what? NetFlix and ice cream are the best for the loss. Movie night, girls! This is how the American girls encourage themselves.」
(ネットフリックスとアイスクリームが失恋に最も効く薬だって知ってた?アメリカ人の女子はこうやって自分自身を労わってるのよ。)
大きなサイズのBen & Jerry'sのアイスクリームを1人1つ抱えて、ベッドの上での映画観賞会。アイスは器に盛られることなく、それぞれが「マイ・フレーバー」に直接スプーンを刺してほじり、豪快に口に運んだ。ガンガンに暖房が効いた部屋で食べるアイスクリームは最高においしい。日本ではできない贅沢。これぞ、アメリカ!結局私はお腹が冷えてしまって途中で断念したが、Jordan とFlore は画面から目を逸らすことなく、スピーディーにテンポよく、アイスを口へ運んでいた。
選ばれた映画はキューティー・ブロンド。本当にざーっくりとあらすじを話すと、元カレを見返そうと頑張る美女の話。シンプルでストーリーは何となく見えているけれど、元気をもらえた。
この光景、本当にあるんだ。。。
当時は衝撃的だったが、今となっては本当にいい思い出である。
失恋や、それ相応にがっかりしたときには大きなアイスクリームと映画。
思いっきり泣いて、笑って、アイスクリームを口いっぱいに頬張る。
もし、だれの目も気にしなくていいのなら、そんな方法で自分を解放してあげるのもいいかもしれない。
Floreにとっての苦い経験は、、、Flore、ごめんやで。今の私にとっては甘くて輝かしい想い出の1コマなのよね。
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