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アンドロイド転生223

東京銀座:レストラン

アオイ達が慰霊碑で家族を悼んでいる頃、アリスはリツとレストランでステーキを食べていた。味覚のないアンドロイドの彼女にとっては正直なところ何の感想もないけれど、心は踊っていた。

愛する人と場を共有する喜びは大きい。2人は満面の笑みで華やかな夕食を楽しんでいた。普段からアンドロイドは水以外を摂取しないが、人間に寄り添う機能として食事の真似事が出来るのだ。

後に食道や胃に相当する部分を洗浄すれば良い。キリはデートをするなら食事を楽しめ、私が洗うと言ってくれた。有り難かった。マシンの自分が人間のように振る舞えるのは喜びだ。

デートが楽しくて堪らない。日中はケイ達と一緒に街を歩き、映画を観た。男女の恋模様で東洋人と白人の恋人同士は、まるでタケルとエリカのようだった。親友のエリカも幸せになってもらいたい。

夕方になってケイ達と別れ、リツとジュエリーショップに訪れた。彼はネックレスを買ってくれた。胸元で煌めくダイヤモンドに感激した。アオイがネックレスを大事にしている気持ちが理解出来た。

都内の美しい景色を眺めながらいつもと違う状況に酔っていた。普段は新宿のカフェの2階が恋人達の居場所なのだ。こんな風に街を歩き、映画を楽しみ、プレゼントを贈られるなんて夢のようだ。

そしてこれから初めて一晩を過ごす。
「リツ…。あ、あのね…?知っていると思うけれど、アンドロイドにはパートナーという役割があるの。私は…リツと結ばれたい」

エリカから夜の営みの事は詳しく聞いた。きっと私はリツを後悔させない。リツは黙ってワインを飲んだ。暫くすると小さく頷いた。アリスは安堵する。彼も私と同じ気持ちなのだ。喜びに震えた。



東京湾:ベイサイド公園のベンチ

ケイはサキを抱き寄せた。空気が凍るようだ。
「寒くないか?」
「寒いけど、景色が綺麗だから楽しい」
サキは鼻の頭を赤くして白い息を吐いていた。

目の前には大きな船があった。これから出航する。船旅をするらしく、多くの人で賑わっていた。
「世界って広いんだろうね。私…東京に来ただけでビックリなのに、よその国なんて考えられない」

サキは生まれてからずっと茨城県と福島県の県境の集落で暮らしていて、26歳で初めて東京に訪れたのだ。サキはどこを歩いても目を丸くして山との違いに驚いていた。何度も歓喜した。

ケイはタウンで暮らしていた頃は大臣秘書だった。都内は知り尽くしている。そして…これから2人は成るようになるのだ。ケイは意を決した。
「ホテルを取った。僕は君の望むようにしたい」

ケイは彼女の頬にゆっくりと指を走らせた。サキはケイを見つめた。覚悟は出来ていた。
「うん…。私は…あなたのものになりたい。は、初めての人が…ケイで嬉しいの」

ケイも嬉しかった。タウンにいた頃、主人だった大臣の妻はケイの裸体(人間と遜色のない身体)を何の役に立つのだと馬鹿にして笑ったがアンドロイドだって人を幸せにする事が出来るのだ。

ケイは立ち上がった。手を差し出すとサキはその手を掴んだ。2人は見つめ合い笑顔になった。ケイが顔を近付けるとサキは目を瞑りキスをした。
「タクシーを呼ぶよ」

サキは首を横に振って周囲を見回した。
「ううん。ホテルまで歩こう。風景を焼き付けたいの。東京って本当に綺麗」
「いや。サキの方がずっと綺麗だ。本当に」

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