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全オッサンへの愛に満ちた 『ワイルドサイドをほっつき歩け――ハマータウンのおっさんたち』

まさかオッサンの話でしんみりしたり、ちょっとホロリとしたり、大笑いしたりするなんて。

『ワイルドサイドをほっつき歩け――ハマータウンのおっさんたち』
(ブレイディみかこ)

ブレイディーみかこの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を読んだ方なら、あとがきのこの一文で本書の魅力は十分に理解できるだろう

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』で青竹のようにフレッシュな少年たちについて書きながら、そのまったく同じ時期に、人生の苦汁をたっぷり吸い過ぎてメンマのようになったおっさんたちについて書く作業は、複眼的に英国について考える機会になった。二冊の本は同じコインの両面である。

本書は第1章として21編の英国労働階級オッサンエッセイがくる。著者が身近で触れ合ってきた労働階級のオッサン(オバハン)の姿を通し、英国の社会問題をおもしろおかしく切り取ったエッセイが並ぶ。

そして第2章に「解説編」として、英国の現在の状態を「世代」と「階級」、そして「酒」と、3つの切り口で解説している。

オススメの読み方は、この2章の解説編からまず読んじゃうのが良いと思う。見出しはこんな感じ。

  Ⅰ 英国の世代にはどんなものがあるのか
 Ⅱ 英国の階級はいまどういうことになっているのか
Ⅲ 最後はだいじなだいじな酒の話

ここで現在の英国が抱える様々な問題を、ブレディみかこ的な3つの視点で理解することで自分の英国理解をアップデートし、さらに、日本の現状との対比を頭のなかで整理しつつ、ついでに「あとがき」の

風雪ながれUKを生き延びること

も読んだ上でエッセイに突入するのが良いと思う。

エッセイは英国の労働階級のオッサンをテーマに、社会問題に切り込むという相変わらずのブレディ節。期待通り、最高に面白い。

オッサンへの愛に溢れたコラムは、しんみりさせながら笑わせにかかってくる新宿のオカマバーのママみたいに心の琴線に触れる距離までズカズカと踏み込んでくるくせに最後はあんたが自分で考えなさいよと突き放してくる。

将来に楽観なんてこれっぽっちも持てないなか、それでも必死に生きていかなければと踏ん張る、これから本書で書かれるオッサンになっていく身としては、このエッセイはこの上ない応援歌だ。


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