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パラノイア気質のススメ。現代ならイーロン・マスクか? 『パラノイアだけが生き残る』(アンドリュー・S・グローブ)

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。423冊目。

著者の故アンドリュー・S・グローブはインテル3番目の社員で知られ、インテルを現在のような誰もが知る大企業にまで育て上げた伝説の経営者として知られています。

グローブがインテルの経営を指揮したのは1979年から1998年の9年間。その間にインテルの内外で起こった大きな変化、それは時代を巻き込んだ転換点とも言える大きな変化だったけど、それらを乗り切り、何度も危機的な状況に追い込まれたインテルを救い、ビジネスを大きくしていった。

本書は、グローブがいかにインテルを率いていたかという成功者の自慢話しの類ではなく、時代の転換点をいかに乗り切ってきたのかを明らかにし、そこから普遍的な戦略(それは会社にも人生にも応用が出来る)を見出したかを説明したものになります。

キーワードは「パラノイア」と「10X」(テンエックス)の二つ。

タイトルの『パラノイアだけが生き残る』は、著者のモットーとして有名な言葉だそうな。パラノイアとは「過度なまでの心配性」を指す言葉なのだけど、まさにこのアンディー・グローブがパラノイア気質である。

もう一つのキーワードである「10X」とは、自社ビジネスに対して強烈な影響を与える変化を指す。それはテクノロジーの進化だったり、とてつもない競合の出現だったり。

インテルでいえば、創業時の事業から撤退せざるを得なくなった日本企業の攻勢や、プロセッサーのバグを巡り5億ドルの損失を被った事件などが10Xにあたる。

グローブは、それらの転換点を見極め、戦略的転換点としてビジネスの舵を大きく切り直して現在の成功を築き上げるのだけど、それを現実のものとしたのがパラノイア気質だった。

「パラノイア(病的なまでの心配性)だけが生き残る」。これは私のモットーとしてよく取り上げられることばだ。(中略)。事業の成功の影には、必ず崩壊の種が存在する。成功すればするほどその事業のうま味を味わおうとする人びとが群がり、次々に食い荒らし、そして最後には何も残らない。だからこそ、経営者の最も重要な責務は、常に外部からの攻撃に備えることであり、そうした防御の姿勢を自分の部下に繰り返し教え込むことだと思う。

経営者やマネジメントスタッフであればリスク管理は当たり前のように行っているだろうけど、グローブはそれだけでは足りないと考えている。それこそパラノイドのごとく破壊的な未来に備え、事前に変化を察知する必要があると言う。それは、どのような業界であれ、ルール変更をともなう破壊的な変化は避けて通ることは出来ないからだ。

グローブはどんなに正解に近い詳細な事業計画をもってしても、変化を予測することは不可能だとし

不測の事態に対しても通常の業務と同じように対応できるだけの、精力的かつ効率的なチームを編成しなければならないということだ。

と断言する。そしてこの変化は

経営者でなくても、いずれ戦略転換点の影響を受ける。

という。ルールの変化がもたらす影響を解説した本書は、経営の本であると同時に個々人のキャリアを考える上でも重要な内容が含まれている。

本書、最初にアメリカで出版されたのが1996年で、翌年の1997年に日本で『インテル戦略転換』のタイトルで出版された本が復刊されたもの。新訳ではないようだけど、前著から修正が入っているのと、個人のキャリアに応用する為に10章の「キャリアの転換点」追加が行われている。この10章が結構良いので、購入されるなら、今日ご紹介するパラノイアの方がオススメ。

内容は20年以上前に書かれたものなので、正直古い。ケースの紹介などで古さが目立つし、インターネットの状況に至っては執筆された頃は、やっとネットスケープが上場したような時代なので、スマホもなけりゃ、グーグルも出てこない。現在のインターネットによって世界ががらりと変わってしまう以前の世界のお話になっている。

だから、最新のトピックを知りたいといった期待には応えない。でも、古いからといって、読む価値がないかというとそんなことは全く無く、逆に本書の持つ普遍性が際立ちビジネス書の古典として学ぶことができる。読んで色褪せないのは、インテルの経営を通して学び、実際に成果を上げてきた取り組みを取り上げているからだ。本書は、変化への対応と、逆境への対処について学ぶ古典として扱われるような本と考えて良いのでは。おすすめです。

読んで非常に良かった。とても読みやすく、内容も率直な物言いで面白い。目の前にアンディー・グローブが居て、直接話しをきいているような臨場感がある。

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