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毎日読書#266 『サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル』(ティエン・ツォ、ゲイブ・ワイザート)

大それたことは言えないけど、既存の日本の大企業は大丈夫かいな、と思う事は多い。明らかに収益を得る為のコストが割高で、それが価格に転嫁されているので、得られる満足度に対して、対価が見合っていない。製品やサービスに、お金を出したくなるような魅力がない。

企業はもちろん物凄い努力をしている。ありとあらゆるマーケティングの手法が投入され、コスト最適化が行われ、広告も必要とするっぽい人にダイレクトに届くようになった。だが、製品を作り、面白いCMで認知させ、膨大にならぶドングリの身長競争にエントリーし、やっとこお金をもらうビジネスモデルであるかぎり、いずれ限界(とその先の破綻)が訪れるだろう。

本書は、筋書きを変えろと迫ってくる。製品中心の活動から、顧客中心の活動へ変化させ、ビジネスにおける全ての筋書きをかえろという。

人々のニーズは、明らかに「所有」から「利用」にシフトしている。よく「若者の〇〇離れ」なんて言われ方をするけど、別にサービスへのニーズが消えたわけではない。移動したいし、ニュースも本も読みたい。でも、家に車を置くには手間もコストもかかりすぎる。本も新聞も、読み終われば場所を取る邪魔なものでしかない。不要なものに家賃を払うような無駄はしたくない。

そもそも、生活者の財布は、昔ほどガバガバしていない。みんなかしこいから、経済が縮小していることに気が付いているし、実質的な賃金が下がっている事に気が付いている。いままで100円で買えたものが、100円で買えなくなっている。いままで100円で100グラム買えたポテチは、100円で60グラムしか買えなくなった。国の動きは的外れで動きも遅く、人口減少は止まらない、労働人口はそれ以上のスピードで減る。経済の活力は、ますます失われていくだろう。そんなことがわかっているのに、無駄にモノを買っている場合ではない。

こんな時代で、企業は、生活者の根本的なニーズが変わっていないのに、かつてほどモノが売れない時代で生き残っていかなければならない。

1つ大きな潮流として注目されるのが本書で紹介される「サブスクリプションモデル」だが、これを正しく理解している人は、企業にも生活者にも少ないのではないかと、本書を読み強く思った。

「あれだろ? 月額課金にすりゃサブスクだろ?」という発想の人が多い。そして、安易な価格設定の(個人単位で原価を出して利益を回収しようとしている)基本的なプランに、クロスセルとかアップセルとか、そんな言葉で、プラスアルファで無駄な出費をさせようとしている。携帯キャリアで契約をする際に、まったく不要なサービスを「あとで解約してくれたらよいですから」とチェックを入れる事を強要される(彼らはレ点商売と呼んでいる)が、ああいった固定のサービスで固定料金を取りつづけ、解約忘れや、解約阻止で収益を守る。そのようなものはサブスクリプションとはいわない。

サブスクリプションとは、顧客の変化に応じてサービスも変化・強化しつづけ、そのことに対して対価を頂く商売を指す。身近な例だと、私なんかは本書で紹介されていたアドビの話が非常にわかりやすかった。当事者だったから。昔は、アドビのいくつかの製品を、数万~十数万円するパッケージを数年おきに購入していたが、あまりに高額なので嫌になり、安価な製品や、フリーの代替ソフトウエアへスイッチしかけたころ、サブスクリプションプランが登場した。最初にこのサブスクリプショプランを案内されたとき、またアドビに騙されるのかなと警戒したことを覚えている。しかし、今はPhoto ShopとLight Roomに大満足で課金している。

アドビはこの筋書きの変更に大変な労力をかけたそうだが、現在の収益や事業規模を見れば、サブスクリプションの導入は大成功だったことは間違いない。

本書では、どのような業種、企業でも、それこそ海外の例を引いて、自治体や国のサービスでもサブスクリプションの導入は可能だというが、それはちょいと風呂敷広げすぎだろう。だが、すべての業種で、顧客視点、生活者視点を持つべきなのは間違いないし、そういった企業が成長してほしい。

遠からず、必ず変革が必要となる時期は来る。その時に手遅れにならないためにも、少なくとも、本書の前半である第1部は是非読んでおいた方が良いと思う。ビジネスマンとしての視点からでも、生活者の視点からでも。


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