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日本鉛筆界二大巨頭の一角を知る 『トンボ鉛筆完全ブック』

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。435冊目。

また鉛筆の話ですみません。

先日読んだ『ザ・ペンシル・パーフェクト』が素晴らしい本だったのですっかり気分は鉛筆です。もとより鉛筆ファンだったこともあり、鉛筆気分が盛り上がった流れで「もっと鉛筆の情報を!」と本を探しているときに偶然見つけたのが本書でした。

『トンボ鉛筆完全ブック』とある通り、2013年に100周年をむかえたトンボ鉛筆社の全てを知るための一冊になっています。

1913年に創業されたトンボ鉛筆は、三菱鉛筆(1887年創業)とならび日本の鉛筆界を牽引する二大巨頭の一角です。子供の頃、どちらかを使っていたのではないかと思います。

三菱鉛筆はユニシリーズで、トンボ鉛筆はMONOシリーズで世界中に日本の鉛筆の驚異的な滑らかさを知らしめ、ドイツ、アメリカとならぶ鉛筆大国として世界に君臨するきっかけを作った偉大なるメーカーです。

そんな日本鉛筆界の一角を担うトンボ鉛筆は、1913年の創業当初からオリジナルで鉛筆を作り始めたメーカーで、1923年の大震災があった頃にドイツのスワン社(現在のスタビロ社、たぶん)から芯を買い付け鉛筆を製造、そこで「トンボ鉛筆」のブランドが誕生します。

日中戦争の頃には「8900」の前進となる「8800」が生まれ、1945年の終戦時に、現在まで続く長寿ブランド「8900」が登場。

1950年には、当時の鉛筆ハイテク大国だったアメリカから輸入した機械で、黄色い軸に消しゴムが付いたおなじみの「2558」の製造などが始まり、これもまた現在まで続くベストセラーに。

そして1963年、満を持して「MONO」ブランドが爆誕。1967年には最高級ラインの「MONO100」が登場、同時期に三菱鉛筆から「ユニ」シリーズが登場し、このあたりから、日本の鉛筆の品質が世界でも注目されるようになります。

ちなみに、今ではすっかり消しゴムのデファクトスタンダードとなっている「MONO消しゴム」は、この「MONO100」のおまけに付けていた消しゴムがよく消えると評判になり単品で商品化されたもの。

話せば長くなるから端折るのだけど、この二社の活躍がなければ、私の愛する「BLACKWING」の復刻劇も無かったはずなので、大感謝だ。

本書では、鉛筆以外の、現在の主力商品であるMONO消しゴムや世界シェアナンバーワンを誇るハイテク修正テープ、それにZOOMシリーズのペンなども詳しく紹介されている。

さながら、めっちゃお金をかけてつくったブランドブックか、凄い頑張って作った商品カタログみたいな本で、楽しく読むことができる。

しかし、本書でまず驚くのは付録だよ。本当に凄い。

代表的なブランドの一つ「8900」を発売当初のデザインで復刻した鉛筆3本に、MONO消しゴムの初代復刻版、さらに本書発売当時最新版だったシャープペンシル「オルのスイフト」の最新版という豪華すぎるラインナップでトンボ鉛筆ファンなら号泣間違いなしの内容なのだ。

あまりにも立派なので、もったいなくて開封できていないから写真をお見せすることができないのが残念。貧乏性です。テープすら剥がしていないからね。

2013年の本書発売当時にGIGAZINEが全く本を読まず、ニュアンスだけでレビューを書いていたので、付録たちの写真はそちらからどうぞ。

復刻された鉛筆界のレジェンドである8900は、デザインこそ発売当時の8900を忠実に再現しているのだけど、中身の芯と軸はMONO100というトンボ鉛筆の最高級ラインのものを利用しており太っ腹仕様。

しかも、このムック本自体が900円の破格プライス! これ、利益度外視なのではないかしら。

だって、MONO100は1本150円近いので、これに消しゴム(これも初代デザインを復刻したもの)とボールペンが付けたら、900円超えちゃう。おまけだけで元がとれてしまう勢いだ。なんという大盤振る舞い。

2013年に本書の存在を知っていたら10冊位買っていたかもしれない。

(ちなみにいまは絶版なので定価では買えません。私は1500円くらいで購入しました、それでもお得だけどね)


ということで、とてもおもしろく歴史をたどることができたし本気の付録にうっとり満足なのだけど、前述したとおり、ただの豪華なカタログになってしまっているのも確か。トンボ鉛筆一社の情報だけで構成しているので、あたりまえといわれたらそのとおりなのだけど、それにしても、情報量としてはもう少し欲しかったかなというのが正直なところ。工場のラインの紹介とか、シダーはどこから買っているとか、黒鉛はどこのものを使っていて、どういった加工をしているのかとか、そういう突っ込んだところをもっと紹介してくれたら良いのになと。

世界の鉛筆の歴史をみていくと、鉛筆メーカーの勃興・没落は、材料となる黒鉛とシダー材を巡る争いみたいな話でもあるので、いかにして材料をそろえてきたのか、芯の開発はどのようにしておこなわれたのか、そういったあたりの事情は面白いと思うんですよね、書きにくいのかもしれないけど。

あとは、情報の少ない戦前、戦中のあたりの鉛筆事情の話とかも知りたかったな。それはまたどこかで調べてみるか。

とはいえ、日本を代表するメーカーの片翼に詳しくなれたので大満足。残念ながら新刊はもう手にはらないけど、手頃な値段で見かけたら、是非手にとって見て下さい。

それにしても、MONO100が1967年発売とは驚いたな。昔から有る事はしっていたけど、まさか半世紀も前とは。

メーカーのハイエンドが、50年以上大きな更新もなく君臨し続けている。

細かい改良は続けられているとは思うけど、大幅な品質アップなど、ブレイク・スルー的な事が半世紀以上無かったということだ。

それだけ現在の鉛筆というプロダクトが完成されつくしているという事なのかな。それはそれで素晴らしいけど、少しさみしい気もするね。

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