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『停電の夜に』(ジュンパ・ラヒリ)

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。418冊目。

親しい関係だからこそ表面に出にくい亀裂がある。インド系アメリカ人の作家であるジュンパ・ラヒリのデビュー作は、読み慣れた国内文学やアメリカ文学、又はロシア文学などとは違う視点で人間と人間の関係が丁寧に描かれている。そういった描写が関係の本質を、見えないようにしてきた小さな亀裂を、心の奥底の傷跡を、くっきりと浮かび上がらせているように感じる。ラヒリのこの短編集は、読むのがしんどいときもあるし、興奮してゾクゾクすることもある。同じ作品を読んでいるのに、二度目、三度目で全然違う感想を持つことも有る。表題作の『停電の夜に』もそんな作品。毎夜1時間、計画的な停電が行われている夜に、すれ違いぎみの若い夫婦が(妻からの提案で)お互いの隠し事を打ち明ける。この作品、何度か読み返しているのだけど、最近読み返していたときに、この妻は最初から結末ありきで話を始めたのだなと気がつくときがあった。今思えば何故その事に気がまわらなかったのだろうと思うのだけど、それが男という生き物特有の鈍感さなのかもしれないとも思う。あまり性差を表立って話題にするのは好まないのだけど、ラヒリの作品を読んでいるとどうしても男女の違いというものに意識が向いていく事がある。本書は短編9本の構成なのだけど、どの作品も良いのですよ。凄く良い。表題作以外では『病気の通訳』や『三度目で最後の大陸』などが心に残った。是非、読んでみて下さい。


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