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【書評】 永遠のレジェンドが綴る日本のゲーム史 『高橋名人のゲーム35年史』

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。100冊目。

『高橋名人のゲーム35年史』(高橋名人)

先日読んだ『ペンギン・ハイウェイ』の主人公は小学四年生だったが、自分が小学四年生の頃は何をしていたか? 断然ファミコンだ。寝ても覚めてもファミコンだ。昭和50年生まれ。ドンピシャのファミコン世代だ。

思い出すゲームは多いが、盛り上がったのは『バルーンファイト』や『クルクルランド』といった単純だが対戦の面白いゲーム。この手の対戦ゲームで特に盛り上がったのは『ボンバーマン』で、友人たちの隠された性格が全てさらけ出される問題の多いゲームでもあった。

当時、ゲームの情報源は雑誌が中心であり、雑誌に多く露出していた高橋名人は、あらゆる(ハドソンの)ゲームで高得点を叩き出す子どもたちのスーパースターだった。そんな高橋名人が、当時ライバルと目されていた毛利名人と対決した映画があって、その映画で対決につかわれたのがシューティングゲームの名作『スターソルジャー』だ。

シューティングゲームというのは、画面に敵が出てきて体当たりしてきたり、弾を撃ってきたりするので、こちらもボタンを押して弾を出し、敵にあててやっつけるゲームね。

で、このゲームで高得点を出すためには、どうしてもボタン連射が必要なのだけど、当時の高橋名人は、生身の身体で秒間16回もボタンを押す驚異の連射を武器にしていた。(正確に測ったら秒間17回だったらしい)

映画の中の高橋名人は、ゲームテクニックを鍛える為に筋トレをしたり、指で走るバイクを止めたり、指の振動だけでスイカを砕いたりしていた。ものすごく変だったけど、ものすごくかっこよかった。

高橋名人の16連射に憧れた僕たちは、当然、毎日連射の特訓をした。

授業中だろうが構わず机を連打した。ボタンと見れば、バスの停車ボタンだろうが、エレベーターのボタンだろうが、なんでも連射した。信号待ちをしながら信号のボタンを連打したし、家に帰ればテレビのチャンネルボタンを連打した。

いつでも鍛えられるよう、親にせがんでハンドグリップを買ってもらい。ずっと握っていた。(高橋名人はハンドグリップを持っていないと身の回りのものを全て握りつぶしてしまうのだ)

だけど、どんなに頑張っても連射は早くならない。名人はトゥルルルルルルルと軽やかに連射するのに、僕らはどうがんばっても、ンダバダバ、ンダバダバとなってしまう。

ゲーム仲間の一人に、家が開業医で小遣いがじゃぶじゃぶして羽振りの良いKくんという同級生が居た。彼は、いじめっ子に「ヤブ医者」と言われると烈火のごとく怒り、手当たり次第モノを投げてしまう沸点の低い親思いの子で、まわりからは「医者には向かない」と陰口を言われていた。

そんな彼は、僕らがダバダバ、ダバダバとボタンを叩いていたのを横目に、資金力にものをいわせ『ジョイカードマーク2』という高性能コントローラーを手に入れ、自動連射で貧乏人どもを蹴散らして得意顔になっていた。見下しがあまりにひどいので、彼はあまり好かれてはいなかった。

彼が『スターソルジャー』をプレイをすると、皆で邪魔をした。ラザロが出てくると、誰かが耳元で「ヤブ医者」とつぶやき、それに怒ったKくんが暴れはじめると、自機はラザロに潰される。今思えばひどい話だ。彼の投げたポッキーが、私のおでこで砕けたのを思い出す。結局近藤くんは別のグループで遊ぶようになり、麻雀とハイドライドにハマっていた。

他にもお年玉を切り崩すなどして『ジョイカードマーク2』を持つようなった者は多く、自動連射勢が猖獗を極めたが、百匹目の猿現象よろしく日本全国に広まった『こすり連射』テクニックの台頭により『ジョイカードマーク2』よりも早い手動連射が可能となったことで、自動連射勢の勢いは弱まった。『こすり連射』は、手動連射ながら秒間20〜25回の連射が可能となる為、誰もがこのテクニックを使ったのだ。

しかし、『こすり連射』は絶大な効果と引き換えに身体へのダメージが深刻で、爪が割れ、血でコントローラーが汚れるなどの問題があった。まさに貧者の為の武器といった風情。

また、初期ファミコンのフカフカ四角ボタンと『こすり連射』との相性が悪く、コントローラーのボタンが取れるなどの事故も多発し、母親からの監視が厳しくなったりもした。

あ、この調子で書いていくと2万字位書いてしまいそう。

ともかく、小学生のときにファミコンの洗礼を受けた幸せな少年時代を送ったものにとって、高橋名人というのは絶大なるヒーローであり、憧れだったのだ。その高橋名人が、当時の裏話をこれでもかと書いているのが本書である。読まない理由が無い。

過去のインタビューなどと内容がかぶる部分も多いかもしれないが、本人が著書でまとめているのは貴重だと思う。

本書は、高橋名人が名人となる以前の生い立ちから始まる。なぜか? それは高橋名人の歴史=日本のゲームの歴史だからだ。

本書は、現在のゲーム状況の整理からeスポーツへの期待を述べて閉じられる。なぜか? それは高橋名人が見る未来は、ゲームの未来だからだ。

ということで、当時ゲームに夢中になっていた方、直撃はしていないけどゲームを愛する方、皆に読んでほしい。そして、止めどもないゲーム愛を感じてほしい。

ちなみに、高橋名人の漫画『ファミコンランナー高橋名人』にの巻末には「高橋名人に会ったら、ここにサインをもらおう!」というページがあるのはご存じかと思うが、なんと、この本にも同じページが用意されている!

そして、そこにご本人からサインを頂くという幸運に恵まれたので自慢をしておく。心の底から嬉しかった。どうだいいだろう。

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当時、小学生だった自分に伝えたい。お前は、三十数年後、すっかりオジサンになったときに、高橋名人と肩を組み記念撮影し、あまつさえサインをもらうのだと。中学生になってから辛い事しかないような人生を歩むが、それを乗り越えれば、結婚し、面白い子供が二人も産まれ、痛風になる。人生すてたものではないのだ。最高だぞ。

ちなみに、札幌生まれと言うと必ず聞かれる「セミを取るときにウンコを投げる『サッポロ採り』は本当なのか」についても明かされている。読む理由しかない。

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