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【書評】 まだまだ色褪せない問題解決の古典 『ライト、ついてますか―問題発見の人間学』

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。251冊目。

「問題」とは「解くもの」であり、または「解決するもの」であると教えられる。

でも、本当に大切なのは「問題」を「見つける」ことだ。

問題は何か? それは誰の問題か? それはどこから来たのか?

いや、そもそも問題なのか?

「問題」に取り組む際、唯一の正解を見つけることにこだわってしまう事も良くある。

しかし、その態度が問題を作り出す原因になっていることもある。

問題は、解くよりも発見するほうが難しい。

この本は、私がソフトウエアエンジニアの職を得て、何年かしたとき、同じプロジェクトでご一緒した年長のエンジニアから強く勧められた本だ。

当時からして翻訳が古く、読むのに随分と苦労したけど、苦労した甲斐はあった。

一番の収穫は、クライアントからの依頼が仕事のスタートではない事に気が付いたことだ。

例えば、カレーショップを経営するクライアントが「自動玉ねぎ刻み機をつくってほしい」と連絡をしてきた。玉ねぎを切ると涙が出るので、どうしても早く刻めないから、という理由だった。また、オーダーを伝えながら「一緒に高性能のゴーグルも用意してほしい、機械の横に居ると涙がでるはずだから」との追加注文も伝えてきた。

クライアントにとって優秀なエンジニアは、高速でよく切れる刃を搭載し、物凄いスピードで玉ねぎをみじん切りにする機械を設計し、製造し、クライアントに500万円の請求書を送る。また、世界で一番高性能なゴーグルをグーグルで検索し注文、20%の手数料をのせてこれも請求した。

このプロセスではクライアントもエンジニアも大満足かもしれない。

しかし、カレーの原価が上がってしまったので、いままで680円だったカレーライスは、880円になってしまった。これに店の客が納得するかはまだわからない。

玉ねぎが次々と刻まれる様子を高性能ゴーグル越しに見て、クライアントは嬉しそうだが、本当に問題は解決したのだろうか?

本書を読んだエンジニアであれば何をしたか? おそらく、玉ねぎを高速にカットをする理由を知りたがるだろう。

そして、やがて、問題の発端は、食べログで「カレーは安くてうまいけど提供が遅い!」と書かれたからだった、とわかるかもしれない。

次にエンジニアは、調理をじっくりと観察する。注文が入ると、味にこだわるクライアントは、玉ねぎをカットするところからはじめていた。そして玉ねぎが飴色になるまでじっくり炒め、スパイスを加え、具を加え、ルーを完成させていた。

カレーを提供されたお客は、安くて美味いカレーにありつくが、店の外には行列が出来ており、行列をみて諦める客も少なくなかった。なにせ、ランチタイムは1時間しかない。40分も並べない。

さて、それらを見た、エンジニアは提案する「アルバイトを雇い、開店前に飴色の玉ねぎを作ってもらいましょう」。新鮮さにこだわるクライアントは反対するが、物は試しで、味が落ちたら元の方法に戻しましょうと言われ、しぶしぶ承知する。

効果はすぐにでた、味はほとんど変わらないのに提供が早くなった。お店のカレーには「美味い」「安い」に「早い」の評判が加わり、回転率は劇的に上がり利益も上がった。

クライアントは利益があがり、客は満足し、エンジニアはコンサルフィーを正当にもらい、三方良しで問題は収まった。

物事はこんなに単純ではないし、つまらないおとぎ話なんだけど、何が言いたいかというと、問題が最初からバッチリ定義されているケースなんて、殆どのケースで無いってこと。

いままで、ありとあらゆる問題に付き合ってきたけど、最初から問題の所在が明確だった案件なんてものは出会ったことがない。

もし、誰かの問題を解決する事が仕事なら、ぜひこの本を読んでみてほしい。読みにくいし、古いし、挿絵もアレだけど、そんなことは気にならない位に(気になるけど)大事な事が沢山描かれているから。

そろそろ新訳が出ても良いのではないかしら。

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