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太平洋戦争は遠い過去の話ではないと感じさせる 『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(庭田杏珠、渡邉英徳)

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。440冊目。

本書は太平洋戦争の戦前、戦中、戦後に撮影された写真とその写真の解説が掲載されている写真集という立て付けなのだけど、当時撮影されたモノクロ写真に着色をしたのがユニークな点となっている。

着色をすることで、もうね、説得力がぜんぜん違うのね。驚きました。

作業的には、まずコンピューターが機械的に彩色したものをベースに、実際に写真を提供された方の証言や当時の資料などを参考に、地味にコツコツと色を調整したそうだ。

AIという言葉が目立つけど、その裏では地道で根気のいる関係者への聞き取りや資料の調査が行われ、その聞き取りや調査の結果をうけての、写真への調整作業が行われているわけで、それはそれは大変だったのではないかしら。おかげで、写真のもつ説得力が段違いに高まっている。

ただ色をつけただけ。なんて思う人もいるかもしれないけど、その色をつけただけで情報量が飛躍的に上がっているのですよ。

本書では、いくつかの写真ではモノクロと着色されたものが並べられているのだけど、それらをを比べると、圧倒的に入ってくる情報の量が違う。

かつて私達が目にしてきたモノクロ写真で近代の歴史を紹介しているコンテンツは、どこか他人事に感じるところがあったのだと思う。

現在の自分たちが生きる世界から断絶された「昔の話」という感じ。

しかし、本書の彩色された写真を見ると、太平洋戦争を戦った日本と、今の日本は、ひとつづきの世界なのだと強く意識させてくる力がある。

いやぁ、思っていたよりも強烈な写真集だったな。ショッキングな写真が出てくるわけではない(ちょっと覚悟していた)のだけど、心にズシンと響くものがあった。

カラー化するということが、これほど力を持つのかと驚く。

写真のチョイスとしては、戦争を写したものも多いのだけど、普通の生活を写したものが多くなっていて、人の息遣いが感じられる。

戦争後半になると、各都市の焼け野原の様子も多く紹介される。切ない。

これらの写真をカラーでみていくと、開戦を避けられなかった当時の日本政府の無能を恨みたくなる。バカなひとたちに手綱をまかせてしまうと、取り返しのつかないことになる。

これはぜひ、沢山の人に手にとってもらえると良いなと思う。オススメ。

残念なのは、本書が新書サイズということ。せっかく力の入った貴重なものなので、大きいプリントで見てみたい。大きな版で出たら買いたいよ。

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