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【書評】 人生は取り返しのつかない事ばかりだからこそ愛おしい 『カラフル』

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。41冊目。

人生は取り返しのつかないことばかり。けれども、後悔が出来るというのは、素敵な事なのかもしれない。後悔が出来るからこそ、もう大事なものを失いたくないと思えるからこそ、この先をよりよくしていこうと頑張れるのも確かだし。

カラフルの主人公、小林真君の肉体にホームステイした<ぼく>は、後悔する機会すら奪われた状態で現世に帰ってくる。

<ぼく>は、なんだかとんでもないことをしでかして、輪廻の機会すら与えられず消えるだけの魂となっていた。そんな<ぼく>のもとに、天使が舞い降り抽選に当選したことを告げる。

「おめでとうございます!  抽選にあたりました! 」

なんと、人間として再挑戦が出来るチャンスが得られるという。その条件とは、自殺を図った中学三年生の少年、小林真の体にホームステイし、 自分の罪を思い出すこと。

そうすれば<ぼく>は改めて生を受ける資格を取り戻し、また人間として暮らせるという。

最初は小林真君として生きる事に乗り気になれなかった<ぼく>だけど、ホームステイ先の家族を知れば知るほど、小林真として生活する<ぼく>は、後悔すらできない宿主への思いを強くしていく。

小林真はもっと生きるべきだった、生きてさえいれば、本当に大事なものは失ってなんていなかったことに気が付けたのかもしれない。失ったと思えるものだってとりかえせていたのかもしれない。家族の心の奥深くに眠る思いに触れ、ヒロインたちの苦悩に触れ、親友との時間を得て、もしかしたら、取り返しのつかない事なんて、自殺したそのことだけなのかもしれない、と<ぼく>は感じ始める。

このカラフルという作品、小説ではちょっと物足りなかった。特に家族との交流にリアリティを感じない事が多い。しっかり書き切ろうと思ったら、この三倍のページは必要な気がする。家族やヒロイン、そして友人との交流にリアリティを感じる為には、どうしても説明が足りない気がする。

でも、登場人物にさえ引き込まれれば、あとは勝手に物語が進んでいくような気もする。映画や漫画でならうまくいくのかな。

オチに関しては割と初期で気が付いてしまった。もっとオチを隠す仕掛けが欲しかった。そういう意味でも、もっと文章量が欲しい作品かもしれない。

が、実際にそのオチを確認したときは、想像以上に安堵を感じた。きっと良い未来がまっているに違いない、とりかえしのつかない事をしてしまったけど、それに気が付ける人の未来はきっとカラフルなのだ。

いろいろと注文をつけたりもしたけど、いい作品なの。分量が欲しいとか言ってるのは、もっとこの世界に深く長く浸りたいから。

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