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【書評】 変だ! 変な小説だ! 傑作であり快作であり怪作 『レプリカたちの夜』

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日「読書ログ」を書いています。145冊目。

怪作、快作、傑作。変だ、変な小説だ。新しいわけでも、素晴らしいわけでもない。新潮ミステリー大賞を受賞しているけど、ミステリーかと言われたらぎりぎりだね、としか答えられないのだけど、面白い。

SF? そうかも。

ホラー? それはちょっと違うかも。

ともかく私は好きです。

『レプリカたちの夜』(一條次郎)

シロクマを目撃したのは、夜中の十二時すぎだった。

動物レプリカ工場の品質管理部に勤める往本(おうもと)は、残業をしていた。「株式会社トーヨー」では、動物のレプリカを製造しており、品質管理部が製造のしんがりだ。最後の検品を終え、梱包を済ませた往本は、仕事から上がる為ロッカールームに向かう途中、シロクマに出くわす。

最初はレプリカかと勘違いして片付けに向かうが、そのシロクマと目が合う。本物だ。

一目散に逃げだした往本が翌日出勤すると。工場長から暗殺をするよう命じられる。シロクマは二年前に絶滅したはずだ、であれば、レプリカを着た人間なのか。

翌日普通に出勤するのか! と突っ込む。カフカか、阿部公房か、そっち系か、よしよし、付き合おうじゃないのと読み進めるのだけど。混乱と笑いの波が交互に襲ってきて。頭がクラクラする。

不思議だ、変だ、妙だ、だけど面白い。文字通り面白い箇所もあり、電車のなかで噴き出してしまったりもする。

登場する人物(?)たちがまたよくわからない。準レギュラーの「うみみず」や「粒山」、「シロクマ」や「工場長」、「ロドリゲス姉妹」や「緑色のアイツ」とか「シーツーツー」とか、開いた口がふさがらない登場人物が目白押しなんだけど、なんつっても「粒山ナシエ」がズルい。

脳が沸騰して溶けちゃうよお

同僚の粒山の妻と名乗るナシエは、最後はAKIRAの鉄雄の様に空に消える。

往本は常につじつまの合わない出来事に出くわすが、翻弄されたりはしない。まるで、カフカの『変身』で朝目が覚めたら毒虫に変身していたグレゴール・ザムザのように落ち着いている。

世界が少し歪むたび、自我にまつわる話がもちあがる。はたして自分とはなにか、自我とはなにか、記憶こそが自分のよりどころなのか。

話のオチとしては、想像の範囲内なのだけど、そこに至る展開がすさまじい。なんで、そんな話が書けるのか。デビュー作で、こんな変な展開をサラサラと読ませる筆致が素晴らしい。

面白い人には面白いけど、面白くない人には全くつまらないのだろうなと思う。私は楽しんだ。小説が好きな方は是非試していただきたい。

とりあえず、書店で数ページ立ち読みして、肌に合うかパッチテストをしてみてください。

ハリー細野の「トロピカルダンディー」に収められた「チャタヌーガ・チュー・チュー」が気になってしょうがない。

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