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【書評】 面白い! 偉人には違いないのだけど関わり合いたくない男の物語 『ロレンスになれなかった男 空手でアラブを制した岡本秀樹の生涯』

ほぼ毎日読書をし、ほぼ毎日読書ログを書いています。345冊目。

映画館で見たアラビアのロレンスに感動し空手の師範としてシリアに飛ぶも空手の生徒が集まらない事にキレて大使館ナンバーの車を素手で破壊したことでやってきた現地の警官と機動隊を相手に殴る蹴るの大立ち回りをして何人も病院送りにしたらシリア界隈で空手って実践的で強いじゃんとなり面白がられて生徒が集まっちゃってそれから40年指導を続けて中東の空手人口を200万人に増やした超パワフルなおじさんのパワフルなお話。

『ロレンスになれなかった男 空手でアラブを制した岡本秀樹の生涯』
(小倉孝保)

面白い本だった! ハチャメチャな人の話は、スケールが大きいほど面白い。本書で紹介される岡本秀樹は、中東でもマシュリクと呼ばれる地域(シリアと、イラク、レバノン、ヨルダン、エジプトといったあたり)に空手を普及させた光り輝く偉人なんだけど、闇もそれなりに深くて、光と闇のコントラストが凄い。

冒頭の紹介の通り、シリアで警官や機動隊を病院送りにしちゃった事で、空手は実戦向きの武道だと知れ渡る。そのため、稽古を付ける相手は、自然と政府の要人だったり、秘密警察や軍などの指導的立場に付く人だったりと、政府の中枢に近いところから生徒が集まる。

そうなると、自然と空手を通じてアラブ社会の有力者達とも人脈が広がる。

彼は、その人脈や有力者の威光を図々しいほど堂々と活用し、空手意外のビジネスにも色々と手を染め、スーパーを数店舗抱えるなど、順調に成功を重ねたりもしていた。

ここまで聞くとビジネスを空手に変えたサラリーマン金太郎みたいなチートプロットなんだけど、現実はそうそううまくいかない。女性絡みで大失敗したり、破産寸前に追い込まれたりもして、何度も現地で逮捕されたり国から退去させられそうになるのだけど、中東の至るところに、しかも警官や軍隊、政府中枢に居る弟子たちが強い人脈になっていて(それこそエジプトの元大統領も!)毎度すんでのところで乗り越えていく。

政治中枢と近いことから、中東世界の歴史的な出来事や事件とも微妙にリンクしていて、オリンピック選手村襲撃事件を起こしたブラックセプテンバーの幹部に稽古を付けていたことからモサドに目をつけられたりしていて、並行して読んでいるイスラエル諜報機関による暗殺を扱った本とも微妙にリンクしていて、当時の中東史を、市民の側から見ることにもなって面白く読めた。

とにかく、バイタリティのある人の話は、読んでいるだけで元気が出る。それに、近代中東史の流れを振り返りながら私達の世界とは大きくかけはなれたアラブ世界の様子を、それこそ光も闇も、感じる事が出来て、とても面白い読書となった。おすすめです。


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