半導体IPとは?:半導体業界における知的財産✨
一言で言えば…
まず「IP」は「Intellectual Property」の略で、直訳すると「知的財産」です。半導体分野におけるIPとは、CPUやメモリ、信号処理回路などLSIを構成する機能ブロックのことをいいます。
半導体IPの具体例
あらためて、半導体IPとは何かを定義して、その具体例を説明します。
半導体知的財産(SIP)とは、マイクロプロセッサの一部または全部のロジック、セル、シップレイアウトの設計仕様のことです。
日常的に使用される機器の多くにチップが使用されている世界では、これらの半導体設計はどこにでもあります。半導体の知的財産は、その設計を発明した企業が専有することもあれば、発明者が他社に設計をライセンスすることもあります。
半導体のIP(知的財産)は、その半導体を製造するために必要な仕様書、ソースコード、その他の情報から構成されています。半導体の発明者は、適切な特許を取得することで、特許侵害から設計を保護し、設計を収益源にすることができます。
半導体IPの分類
半導体IPは、大きくハードIPとソフトIPに分類されます。ここでは、それぞれについて詳細を説明します。
ハードIPとは、半導体の設計や発明プロセスで作成された文書、設計、命令資料、コードブロックなどのことです。この知的財産は複製や配布が可能で、他の組織が同じデザインの半導体を製造することを可能にします。特許を取得することで、不正な複製から知的財産を保護し、ライセンスすることで収益を得ることができます。
ソフトIPは、半導体の製造中や使用中に作成される文書、使用記録や保守記録、マイクロプロセッサやマイクロチップを実行するソフトウェアの記録、ユーザーマニュアルやテストガイドなどの参考文書を指します。このソフトIPを物理的な参照に変えるプロセスは「ハードニング」と呼ばれます。
このように、ハードIPとソフトIPはそれぞれ異なる役割を果たし、特許保護や収益化、使用証明において重要な要素です。
他にも対象となる半導体製品別にIPを分類する際には、プロセッサIP、メモリIP、インターフェースIPという呼び方をする場合もあります。
IPプロバイダーとその存在意義
半導体IP(半導体設計資産)の設計だけを行い、これをLSIメーカなどに供給する業態の企業をIPプロバイダといいます。IPプロバイダーが存在する主な理由は、現代の半導体産業における「設計の効率化」と「製造時間の短縮」の需要にあります。
半導体IPの利用が普及する前は、フルカスタム設計 やスタンダードセル設計という手法で半導体が設計されていました。これらの手法では、各設計はゼロから開始され、再利用可能なコンポーネントは限定的でした。
そのため、設計に時間がかかり、納期およびコストが増えていくという問題がありました。
半導体IPを利用することにより、設計プロセスの初期段階から高度に最適化されたコンポーネントを利用できるため、設計から製品化までの時間を大幅に短縮することが可能になりました。
またIPの再利用により、新たな設計にかかるコストを削減し、研究開発や検証プロセスに要する投資を減らすことが可能となりました。
加えて、すでに市場で検証され、広く採用されているIPを使用することで、設計ミスや性能上の問題リスクを低減することもできるようになりました。
主要な半導体IPプロバイダー
半導体の分野における世界的な半導体IPプロバイダーを製品、用途についてまとめます。
1. Arm Limited
製品: ARM Cortexプロセッサ、Mali GPU、Neoverseプロセッサ、セキュリティIPコア
用途: 消費者向け電子機器、自動車、モバイルデバイス
詳細: Armは、スマートフォンやタブレット、IoTデバイスに広く使用されるプロセッサIPを提供しています。
2. Synopsys, Inc.
製品: DesignWare IP、ARCプロセッサ、インターフェースIP(USB、PCIe、Ethernetなど)、セキュリティIP(CryptoCellなど)、メモリIP(DRAM、高帯域幅メモリ)
用途: 高性能コンピューティング、自動車、モバイルアプリケーション
詳細: Synopsysは、チップ設計のための幅広いIPソリューションを提供し、開発のスピードアップとリスク低減に貢献しています。
3. Cadence Design Systems, Inc.
製品: Tensilicaプロセッサ、DDRメモリコントローラ、PHY、各種インターフェースIP
用途: 消費者向け電子機器、通信、産業オートメーション
詳細: Cadenceは、設計の効率化と性能向上を支援するIPを提供しています。
https://www.cadence.com/ja_JP/home.html
4. Imagination Technologies
製品: PowerVR GPU、Ensigma接続IP、MIPSプロセッサ
用途: モバイルデバイス向けグラフィックス処理、自動車、その他の組み込みシステム
詳細: Imagination Technologiesは、グラフィックス処理と接続技術に強みを持つIPプロバイダーです。
5. CEVA, Inc.
製品: DSPコア、BluetoothおよびWi-Fi IP、センサーフュージョンIP
用途: ワイヤレス通信、オーディオ、ビジョン処理
詳細: CEVAは、ワイヤレス通信とマルチメディア処理に特化したIPを提供しています。
6. Rambus Inc.
製品: メモリインターフェースIP、セキュリティIPコア(Root of Trustなど)、高速インターフェースIP
用途: データセンター、通信、自動車セキュリティ
詳細: Rambusは、メモリおよびセキュリティ分野で強力なIPソリューションを提供しています。
7. 富士通
製品: ARMコアベースIP(ARM Cortex-A、Cortex-M、Cortex-Rシリーズ)、アナログIP(AD/DAコンバータ、PLL、センサインターフェースなど)、インターフェースIP(USB、PCIe、Ethernet、HDMI)、セキュリティIP(ハードウェア暗号化モジュール、セキュアブート機能)
用途: モバイルデバイス(スマートフォン、タブレット)、IoT機器(センサーネットワーク、スマートホームデバイス)、自動車(ADAS(先進運転支援システム)、インフォテインメントシステム)、産業用機器(FA(ファクトリーオートメーション)機器、ロボット制御システム)
8.ルネサス
製品: マイクロコントローラIP(RX、RA、RL78シリーズ)、アナログ&パワーIP(電源管理IC(PMIC)、IGBT、パワーMOSFET)、通信IP(EtherCAT、CAN、LINインターフェース)、メモリIP(フラッシュメモリ、OTP(One-Time Programmable)メモリ)
用途: 自動車(電動車(EV)充電システム、車載インフォテインメント、ADAS)、データセンター(DDR5メモリインターフェース、エネルギー効率の高いサーバーソリューション)、5G通信(ビームフォーミングIC、基地局向けソリューション)、再生可能エネルギー(風力・太陽光発電の効率化システム)
詳細: ルネサスは、自動車市場向けに高度に信頼性の高い半導体IPを提供しており、特に高温環境での動作に適した製品が多くあります。例えば、eMemoryとのコラボレーションで開発した130nm BCDプロセスを使用した5V OTP IPは、高温耐性とデータ保持性能を強化しており、自動車の厳しい条件にも対応します。また、5G通信やデータセンター向けの製品では、エネルギー効率を高める技術が採用されています。
これらの企業は、半導体チップの設計に必要な多様なIPソリューションを提供し、開発プロセスの効率化、リスク低減、性能向上に寄与しています。
各社のIP製品は、消費者向け電子機器、自動車、通信、産業用途など、幅広い分野で利用されています。
今後必要とされる半導体IPとは
世はAI時代に突入しています。AI時代の半導体IPとしては、AIが使用されるアプリケーションの多様さに対応するための柔軟性、また持続可能性の観点から高い性能と同時に今まで以上に効率的な電力消費が必要となります。
そのためRISC-Vアーキテクチャーなどの新しいIPソリューションと従来のGPU、CPUなどのアーキテクチャーの融合が必要となってきています。RISC-Vについてはこちらの記事で詳しく説明しているので、良ければ読んでみて下さい👇
半導体IP業界は、AI技術の急速な進化に対応するため、これまで以上に継続的な研究開発と産業界・学界との協力が必要とされてきています。
これらの業種を超えた半導体エコシステム間の協業により、AI半導体の抱える消費電力、処理速度、柔軟性などの課題を克服し、AIの可能性を最大限に引き出すエコシステムの構築が期待されています。
参考文献
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