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RISC-V(リスクファイブ)とは?

概要

RISC-V(リスクファイブ)は、オープンソースの命令セットアーキテクチャ(ISA)であり、コンピュータアーキテクチャの世界で注目を集めています。「RISC-V」はReduced Instruction Set Computing(RISC)の第5版を意味します。

RISC-VはARMやx86のようなプロプライエタリなアーキテクチャとは異なり、ライセンス料が不要で誰でも実装できるオープンスタンダードです。このオープン性が、多くの産業において関心と採用を急速に拡大させています。

命令セットアーキテクチャは、ソフトウェアとハードウェアのインターフェースを定義し、プロセッサが命令をどのように実行するかを決定します。

RISC-Vは、RISCの原則に従い、命令実行の簡潔さと効率を重視しています。この簡潔さは、チップ設計を容易にし、複雑さを減少させ、ハードウェアとソフトウェアの相互作用の最適化を容易にします。

RISC-VのISAは非営利団体であるRISC-V財団によって維持され、その開発と進化が監督されています。RISC-V財団は2015年に設立され、産業界や学界の200以上のメンバーで構成されています。

RISC-Vの利点

1.オープンソースで無料利用可能

このオープンなアプローチは、多様な貢献者の協力を促し、特定のアプリケーションに合わせたカスタマイズプロセッサの開発を促進し、モジュラーなエコシステムを推進します。

関連して、RISC-Vにはライセンス料がかからないため、経済的な影響もあります。企業はプロプライエタリなアーキテクチャのライセンス料の負担なしにRISC-Vを実装できるため、半導体業界のスタートアップや小規模な企業にとって魅力的な選択肢となっています。このアクセスのしやすさは、プロセッサ設計の民主化を促進し、より広範なイノベーターが市場に参入し、コンピューティング技術の進歩に貢献できるようにします。

2.拡張性(スケーラビリティ)

拡張性(スケーラビリティ)もRISC-Vの重要な利点です。アーキテクチャは、組み込みシステムから高性能コンピューティングまで、幅広いアプリケーションに対応できるように設計されています。マイクロコントローラ、IoTデバイス、データセンターなど、どのような用途でも、RISC-Vはそれぞれのアプリケーションの要件に合わせたカスタマイズソリューションを提供します。

3.低消費電力

低消費電力もRISC-Vの魅力の1つです。もしNvidiaのGPU AIチップであるH100を生成AIの学習・推論向けに100万台使用するなら、消費電力が大きすぎて電力会社との相談が必要になると指摘されています。また、Teslaが独自チップDojoを大量に並列動作させた際には、2.3MWもの電力消費でブレーカーが落ちる事態が発生したこともあります。

このような問題に対処するため、EsperantoやTenstorrentといった企業が、より消費電力の低いGPUやCPUの開発を目指しています。特に、Tenstorrentは日本のラピダスと提携した新しいファブレス半導体メーカーで、消費電力の少ないAIチップの開発を進めている企業です。この企業のCEOであるJim Keller氏は、X86アーキテクチャやArmアーキテクチャにも精通している天才CPU設計者として知られています。

Tenstorrent社CEOで天才CPU設計者のJim Keller氏(https://www.tel.co.jp/museum/magazine/report/202406_01/?section=6)

RISC-Vアーキテクチャが消費電力を低く抑えられる理由について説明します。X86アーキテクチャは汎用CPUで、さまざまな命令セットを搭載しており、その数は1500にも増えています

これは、従来のCPUとのソフトウェア互換性を保つために必要な命令数が増加した結果です。一方、ArmアーキテクチャはX86とは異なり、RISC(Reduced Instruction Set Computer)方式を採用しています。つまり、命令セットを減らしたCPUという意味です。Armの社名はもともとAdvanced RISC Machinesの略であり、命令数は少なかったはずですが、互換性のために命令数は現在では500にも増えています

これに対して、RISC-Vは原則として47命令しか持たないアーキテクチャです。命令数が少ないため、専用コンピュータに適しており、ユーザーが独自の命令を追加できる柔軟性もあります。このように、自分のシステムに必要な命令だけを持つことができ、無駄な命令を持たないために無駄な動作もせず、消費電力が少なくなります。

今後のRISC-Vの有望な応用分野

RISC-Vアーキテクチャが狙うべき応用分野について考察します。既存のX86アーキテクチャはパソコンやサーバー市場で確固たる地位を築いており、Armアーキテクチャはスマートフォン市場でしっかりと根付いています。これらの市場は半導体ビジネスにおいて依然として巨大であり、機能や性能が進化し続けることから、当分変わることはないでしょう。

そのため、RISC-Vが狙うべき現実的な市場は第三の市場となります。最も可能性が高いのは、カーコンピュータ向けの市場です。日本では、デンソーがNSITEXEという子会社を設立し、RISC-VのCPUコアを開発、国内販売体制を2022年に整えました。その後、デンソーがNSITEXEを買収し再び組み入れたことは、RISC-Vの重要性を見抜いた結果だと言えます。また、ヨーロッパでは、RISC-Vのリファレンスデザイン開発ボードを提供する会社Quintaurisが昨年設立されました。

組み込み市場ももう一つの重要な市場です。実際に使用されている用途としては、AIチップ基板上の周辺に使われるマイコンや5GのモデムICなどが典型的です。アメリカのWestern Digitalは、NANDフラッシュメモリチップのコントローラをRISC-Vで設計しています。

これらの動向から、RISC-Vアーキテクチャは特定の市場において確実に地位を築きつつあります。特に、カーコンピュータや組み込み市場において、その柔軟性と低消費電力の特性が評価されていることが分かります。

まとめ

RISC-Vアーキテクチャは、オープンソースであること、低消費電力、高い拡張性といった特性から、様々な分野で注目を集めています。特に、既存のX86やArmアーキテクチャが強固な地位を築いているパソコンやスマートフォン市場とは異なり、カーコンピュータ市場組み込み市場において大きな可能性を秘めています。

RISC-Vの強みは、そのオープン性と柔軟性にあります。ユーザーは独自の命令セットを追加でき、無駄な命令を持たないため、効率的なプロセッサ設計が可能です。この特性は、特に消費電力が課題となる分野での採用を促進しています。

また、RISC-Vの無料で利用可能なオープンスタンダードという特性は、スタートアップや小規模企業にとって大きな魅力となっています。プロプライエタリなアーキテクチャのライセンス料を負担することなく、自社のニーズに合ったカスタマイズができるため、多様なイノベーションを促進します。

このように、RISC-Vアーキテクチャはその独自の特性を活かして、既存の市場における強力な競争相手に対抗するだけでなく、新たな市場を開拓することで、コンピュータアーキテクチャの未来を形作る重要な要素となるでしょう。

参考文献


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