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「冬至」の柚子湯  ラジオ番組『仙波書房の東京歳時記』連動企画記事 12月分

季節ごとの東京の行事や、文化を文学作品内の描写から紹介するラジオコーナー番組『仙波書房の東京歳時記』は毎月第3土曜日の深夜に放送。
ラジオ連動企画記事として、noteでは番組の概要を掲載。
今月12月は「冬至」の柚子湯について紹介。

「菖蒲湯と柚子湯」 児玉花外
熱い朝湯は、江戸ッ子肌の職人連が、好むで飛込む所だ。
東京の風呂に、菖蒲湯と、柚子湯とがある、どちらも洒落て、小気味の良い物だ。
菖蒲湯はその名の頃、柚子湯は年の暮で、この時は銭湯は無論大入である。
波々沸いた湯槽に、青色の切菖蒲が、刀の身のように幾本でも浮いて居る。
一種の辛辣な匂ひが鼻をおそひ、青いのに触つたら、男の膚が切れるほど気持が好い。
柚子湯はまた、特別の趣味がある。
黄色な柚子の輪切にしたのが、湯のあちこちに白う浮いて、まことに柚の何ともいへぬいい香りが、強く官能を刺激する。

「冬至と柚子湯」 若月紫欄
東京ではこの日何れの銭湯にも「今明両日ゆず湯」と書いたビラ紙が張り出される習慣が有る。
早朝の起きぬけに楊枝を咥はへたままで、柚子の香のプンプンと匂ふて、刻んだ皮がポカリポカリと浮いて居る中に、フワリと体を浮かした時の心持は実に何とも云へぬもので有る。
それから冬至に南瓜を食ふと夏の患をせぬと云つて、南瓜を食ふことが広く行はれて居るやうで有る。
従つてこの日はあちこちに南瓜売の爺さんが眼につく。

児玉花外の「菖蒲湯と柚子湯」、若月紫欄の「冬至と柚子湯」の2作品は、いずれも明治44年の作品で、冬至の日の柚子湯について記している。

明治時代の歳時記を記した「明治東京歳時記」という本の中では、古くから冬至粥、冬至蒟蒻、冬至南瓜などを食べる風習があり、夏の南瓜を貯蔵しておいてこの日に食べれば、中風が防げると信じられていたと…
また、からだが温まる柚子湯は、無病息災のまじないとして立てられた。と、書いてある。
悪い風があたることによって、脳血管障害が起こると考えられた中風は、夏から保存していた南瓜を食べると、それが防げたと…

さて、先ほど紹介した二作品にはいずれも冬至の日の柚子湯について、紹介している。
作品が描かれた明治時代末頃の銭湯では、冬至の日には柚子湯と張り紙を行い、朝から営業を行い、賑わっていたと…

柚子を輪切りや、皮を刻み、湯ぶねに浮かべ、その香りを楽しんだ柚子湯は、銭湯によっては、番頭が柚子を湯ぶねに撒き、客を楽しませたということが、別の作品 石川桂郎の「柚子湯」という作品内の描写にある。
主人公の父は、仕事終わりの夜ではなく、昼から銭湯に行って柚子湯を楽しむように促す。
「遅くなると柚子がなくなりますぞ」と…
反抗期と思われる息子である主人公は、
「昼間行つたつて夜行つたつて柚子は網の中から出ませんよ」と屁理屈を言う。

この作品に登場する銭湯では、かつては番頭が湯ぶねに柚子を投げ入れ、客に柚子湯を楽しんでもらっていた。
夜になると、湯ぶねの中の柚子がなくなり、せっかくの柚子湯が楽しめなくなるかもれないと、主人公の父は息子に早い時間帯に銭湯に行くことを促す。
番頭が湯ぶねに投げ入れた柚子は一体、何でなくなってしまうのか…
作品にはその答えと、対策方法も続けて書いてある。

どうも銭湯に来た子どもたちが湯ぶねに浮ぶ柚子を洗い場の方に持っていって遊んだり、洗い場の端にある水の流れに柚子を流して楽しんだりするため、柚子が無くなるみたいである。
子どものひとりがやると、他の子も真似したのか、それとも子どもの多くが同じようなことを考えたのかは分からないが、遅い時間になると柚子が無くなってしまうと…
そのため、銭湯ではその対策のひとつとして、柚子を網の中に入れ、紐で縛り、湯ぶねに浮かべるようになったと、説明がある。
主人公が言うとおり、これなら、銭湯に早い時間に行こうが、遅い時間に行こうが、柚子の数は変わらないというのも頷ける。

今年の冬至は22日の金曜日。
皆様も柚子湯を楽しまれては、いかがでしょうか。

このように明治から昭和初期の文学作品を通した当時の東京の様子と、季節ごとの文化を番組内で、やさしく紹介するラジオ新コーナー番組「仙波書房の東京歳時記」。
作品中に描かれている今も変わらない東京の名所、逆に今は無くなってしまった風習、文化など、番組を通して、東京の現在と過去を感じてもらえたら、嬉しく思う。

■ラジオコーナー番組との連動企画
12月16日(土)の放送では、今回のnote記事にある「冬至」の柚子湯について紹介。
「Like water…」内
『仙波書房の東京歳時記』
2023年12月16日(土) 23:30~23:45
池袋FMにて放送!

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