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「小金井の桜狩」 ラジオ番組『仙波書房の東京歳時記』連動企画記事 3月分

季節ごとの東京の行事や、文化を文学作品内の描写から紹介するラジオコーナー番組『仙波書房の東京歳時記』は毎月第3土曜日の深夜に放送。
ラジオ連動企画記事として、noteでは番組の概要を掲載。
今回は前回の「梅見」に続き、桜を楽しむ「桜狩」について紹介する。

■文学作品パート
『東京遊行記』「桜の二大長堤」 大町桂月 明治39年

小金井の花の区域は、凡そ二里にわたる。
向島よりは長く、熊ケ谷土手よりは短けれど、一道の清流をはさんで、桜は、山桜の巨木なり。
上水の幅は、せまけれど、碧水の上に、花のトンネルをつくるが、ここの特色なり。
山桜の美は府下この処にのみ見るべし。
小金井の花を見ざるものは、いまだ桜を談ずべからず。
断じてこれ、東京第一の桜の名所なり。
橋いくつもあり、小金井橋のある処が、中心なり。
そこに、料理屋らしきものあり。
晴れし日には、木の隙間より、武蔵野をへだてて、富士山も見ゆ。


作品では東京小金井の桜について紹介。
小金井の桜は小金井公園内の桜ではなく、公園南を流れる玉川上水の桜を指し、ここの桜は、清流沿いの土手両脇に奥までずっと桜が立ち並び、まるで桜のトンネルようだと…
それから、東京では珍しい山桜を小金井では楽しむこともできるのも、小金井の桜の特徴だと…
なので、大町桂月はこの小金井の桜が、東京で一番だと記している。
この玉川上水沿いには橋がいくつか架かり、その中でも小金井橋周辺はよい状態の桜の木が並び、料理屋もあり、花見客が多く訪れたとのこと。
晴れた日には桜の木々の間から、武蔵野の山々と富士山も見ることができ、花見に併せて富士見も楽しめると…
風光明媚な一面が作品内の描写から感じ取れる。

さて、花見で盛り上がる現場はどんな感じであったのか、別の作品から読み解く。

■文学作品パート
『武蔵野巡礼』 「小金井の花」 白石実三 大正6年

この小金井の桜花がなほその多種類なる山桜の品種と嫩芽の色彩の麗はしさを以て、この曠野を飾るのは何たる盛んなまた美しい景観であつたらう。
なかにも小金井橋の附近に於ては、眼下を流るる青い水と、遠い両岸の桜花と相対比して稀なる美観を展開する。
そのとき明るい樹下の緋毛氈、また暗い飲食店の樓上からは鄙びた楽聲と唄聲とが流れてきて、その喧噪と塵埃のなかを、或は異様な装をした群衆、花カツラをかぶつた人々、美しく着飾つた女性などが絶えず雑踏しつつ歩いてゆく。
両岸から高聲に呼あひ、また戯れあふものなどがある。
そこに紅いしどめの花、紫色の董などが美しく花さいてゐる‥‥。
さうしてこの小金井の桜花の散るころに、ちやうど府中の欅大門の新緑が燃えはじめるのであつた。


白石実三の『武蔵野巡礼』という本の中から「小金井の花」の一節を紹介。
こちらは前半部分に登場した大町桂月と同じ小金井橋付近の桜について、白石実三も絶賛している。
小金井の桜は玉川上水に流れる青い水と、両岸に奥までずっと立ち並ぶ桜並木の淡いピンク色の連続とが美しい景観をつくると…
そして、桜の木の下にある茶屋の席や、料理店の二階からは楽器の音や、歌声、人々の話し声などが聞こえてきて、桜の木の下には人々が多く歩いていると…
その中にはコスプレした集団も歩いていて…
川の両岸で声を掛け合ったりする人もいて、周りにはボケの赤い花や、すみれの紫の花が咲く…

桜や他の花が咲き乱れる中、花見を様々な形で楽しむ様子が描かれている。
桜の花を楽しむことを一般的に花見と呼ぶが、明治の頃の風俗を知ることができる『東京風俗志』という本の中では、花見を「桜狩」と記している。
現在では紅葉を楽しむことを紅葉狩と称すが、桜を楽しむことを桜狩と称していたことがこの本から分かる。

個人的には花を楽しむ際に欠かせないのが、お酒。
酒を入れた瓢箪をぶら下げ、各自持参したり、団体での桜狩用に樽󠄀酒を担いで参加する様子も記されている。

また、家族、友達数人や、会社の仲間達との団体での桜狩の場合、団体ごとに衣装や、手拭い、日傘などを皆で揃えて、団体としての一体感、チーム感を演出していた様子も記されている。

それから、面白いのが、ただ花を楽しむのではなく、集団でコスプレして桜狩というイベントを楽しむという様子も記されている。
かつらや化粧、衣装で男装・女装と、異装を楽しんだ様子も挿絵入りで描かれ、明治から存在した東京違式註違条例(いしきかいいじょうれい)では、男装・女装という異装が禁じられていたようである。
イベントということで高揚感が増し、コスプレしてイベントを楽しむという様子は、現在の他のイベントとも相重なり、共感ができるポイントのひとつだと思う。

さらに『東京風俗志』を読むと、茶屋では、里芋や慈姑(くわい)を用いた串団子や、サザエのつぼ焼きなども販売していた。
花より団子、もとい、花よりお酒とアテが楽しみな私にとって、この茶屋を訪問したいところ。。。

今回紹介した大町桂月の「桜の二大長堤」、白石実三の「小金井の花」の2作品から、明治・大正時代の桜狩の楽しい様子が伝わってくる。
それと、小金井の桜が素敵だということも…
今年は久しぶりに小金井の桜を楽しみに行こうかな…

このように明治から昭和初期の文学作品を通した当時の東京の季節ごとの行事や文化をやさしく紹介するラジオコーナー番組「仙波書房の東京歳時記」。
作品中に描かれている東京の行事、文化など、番組を通して、東京の現在と過去を感じてもらえたら、嬉しく思う。

■ラジオコーナー番組との連動企画
3月16日(土)の放送では、今回のnote記事にある「小金井の桜狩」について紹介。
「Like water…」内
『仙波書房の東京歳時記』
2024年3月16日(土) 23:30~23:45
池袋FMにて放送!



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