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武器としての「資本論」

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【一文要約】

マルクスの『資本論』は、現代資本主義社会の取扱説明書。

【226字要約】

「今」という時代は、
リキッド・モダニティ
=すべては流動化しており
=労働者に求められる能力、雇用形態などが短期間で変化し、安定しない
=日本においては雇用の脱正規化が現れ
=社会が液状化し、人々が寄る辺なき「はじまりの労働者」に戻されていく過程
です。

この先どうなるのかわからない、そんな混沌の時代を生き延びるためにはなんらかの有用な「地図」が必要となります。そしてマルクスの『資本論』こそは、努力を払ってでも手にすべき、そうした「武器としての地図」なのです。

【1341字要約】

マルクスによれば、あらゆる歴史は、階級闘争の歴史です。そうして社会は、奴隷制→封建制→資本制という具合に変遷してきました。

今現在は、資本制が世界を覆っており、その資本制社会は、はじまりの資本制→フォーディズム→ネオ・リベラリズム(新自由主義)と少しずつ対象を変えながら包摂(人間存在のなにがしかを「商品」として資本制に取り込むこと)を繰り返してきました。しかしここに来てさしもの資本制も行き詰まりの様相---リキッド・モダニティ---を呈しています。

再びマルクスによれば、これまで変遷してきた歴史と同様に、階級闘争により、資本制の次には共産制(コミュニズム)が到来するはずなのですが、旧来の方法での階級闘争はほぼ総崩れの状態です。

労働者階級が権力を獲得することは今更難しいし、権力を獲得したとしても、それから何をするのか?コミュニズム構築に向けての具体的手段が不明ですし、労働者の頼みの綱である労働組合においてはその正体までが不明化しています

ではどうすればいいのでしょう?

ソ連のマルクス主義法学者、エフゲニー・パシュカーニス(1891-1937)は注目すべき理論を唱えています。

「等価交換の廃棄」がコミュニズムを実現させる。

ここに出てくる「等価交換」を説明します。

資本家が富を成すことができる、その原理は、(時間的・空間的)差異を利用して「剰余価値」が生まれるからです。そして「剰余価値」を生ましめる手段は「労働」であり、この「労働」により形成される価値が「労働力」より大きいため、その分の「剰余」が資本家の元に集まるのです。

ではなぜ、「労働」により形成される価値が「労働力」より大きいのでしょう?

労働者は自らの労働力を商品として資本家に差し出すわけですが、本来、そのときの「労働力」と「労働力の対価としての賃金」の交換は「等価交換」であることが前提です。

ではここに出てくる「労働力の対価としての賃金」がどう決まるのかというと、マルクスはその先行者であるデヴィッド・リカードの「賃金の生存費説」を採用しています。それによると「労働者の賃金水準は、労働者自身が生きて、労働者階級が再生産されるのに必要な費用に落ち着く」とあります。

これにある「必要な費用」のうちの「必要」こそが「剰余」を生み出す鍵となっています。リカードやマルクスはその「必要」を、労働者が生きていくのに最低限の「必要」と考えました。

本来はこの「必要」は人によって異なるものであるはずなのに、生きていくのに最低限、というラインで一律に線引してしまったわけです。そのラインでようやく保たれる「等価交換」なわけです。

パシュカーニスの唱える「等価交換の廃棄」とは、この部分を「等価交換」じゃないよね、と大きな声で発言しよう、ということです。

階級闘争の原点は「生活レベルの低下に耐えられるか、それとも耐えられないか」という至極単純なことです。

「これ以上は耐えられない」という自分なりの限界を設けて、それ以下に「必要」を切り下げようとする圧力に対しては徹底的に闘う。そしてそうした闘争を通じて、求める「必要」の度合を上げていく。

これがこれからの新しい階級闘争の方法です。

感性を再建し、資本主義化されてしまった魂を取り戻すのです。

【318字感想】

今が新自由主義と呼ばれる時代なのだということさえ知らず、資本制の大事なところもなにも知らないわたしにとっては、へええ、そうなのか、なるほど、という感じの連続でした。

交響曲のように最終楽章を目指して全体が緻密に構成されているというのではなく、数分で終わる、でもとても気の利いたソナチネをいくつも集めたような構成なのは、おそらく語りどころがたくさんあるからでしょうけど、逆にそんな構成のおかげで最後まで息詰まることなく読めたし、またいろんなところからの再読を楽しめたと思います。

結論がどこかぼんやりしたものであることが、またいいなと感じられます。

ネットの時代にこの方法で多くの人が各自で各自の闘争を開始する。

これならわたしにもできそうです。

白井聡、2020年、東洋経済新聞社

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