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動きゆく「生」の流れ 『Station』刊行に寄せて②

須山悠里

夕書房では2020年6月末、鷲尾和彦さんの6年ぶりの新作写真集『Station』を刊行しました。書籍デザインを手がけてくださったのは、デザイナーの須山悠里さんです。鷲尾さんと一緒に須山さんのオフィスを訪ねたのは、昨年秋のことでした。
「Station」シリーズのプリントを一枚一枚じっくりめくりながら鷲尾さんの言葉に静かに耳を傾けていた須山さん。
数ヶ月後に見せてくださったレイアウト案には、駅にあふれる人々の様子が時間の流れとともに描き出され、まるで一本の映画を見ているような物語を感じました。須山さんは鷲尾さんの写真に何を感じ、どう本に仕立てていったのか。写真集編集の核心に迫るお話です。

『Station』には、「予感」のようなものがたゆたっている。一枚の写真の中に、時間が流れ、何かが起きるのを待っている自分に驚く。
淡々と時が過ぎるのを待つ「静」、粒子がひしめき合うような「動」、緊張と緩和の間にある「静」、堰を切ったように流れ出す「動」。一つとして同じではない「生」の様が、見るものの眼を動かしていく。

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鷲尾さんにダミーブックを見せていただいた後に、送っていただいた231枚の写真すべてを、出力して事務所の壁面に貼り、ゆらゆらと眺める日々をしばらく過ごした。
次第に、写真が持つ「静」と「動」が結びつき、その間を縫う「流れ」のようなものが見えてくる。頁を捲るという時間の中に、その「流れ」を置いていくことで、「一枚の図版」の集合ではなく、固有の動きを持った「一人の生」の連なりが生まれていく。そうした瞬間は、本を編むことでしか経験できない。

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今だからこそ、この写真集が重要なのかは私にはわからない。けれど、日々の生活を脅かされているわけではない(と思い込んでいた)私の眼も、彼らの動きによって動かされていく。
それぞれの動きを持った固有の「生」を、「流れ」の外側から素材として扱うことに抗わなければならない。本を作るということは、その「流れ」の中に、否応なく組み込まれていくことだと思う。
夕書房が仕掛けた、書店員が自身の言葉でこの本について語り、読者に手渡す行為も、これから頁を捲り、動き出すであろういくつもの眼も、その「流れ」の中に分け入っていくことになるのだろう。

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(写真:鷲尾和彦写真集『Station』より)

須山さんデザインの『Station』は以下から


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