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マイ・フェイバリット・ソングス 第20回~マイケル・ジャクソン

(2020年Twitterより抜粋)

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『Off The Wall』(1982年)

実際にはこれ以前にもソロ名義のアルバムはリリースしていますが、ここからプロデューサーがクインシー・ジョーンズになり、マイケル自身が曲作りに携わることもあってこれが実質的なソロ・ファーストと扱われることが多いですね。この頃はまだソウル色が強く、R&Bやディスコの要素も。爆発前夜といった感じだけど、非常に完成度は高く歌の表現力もすでに確立されていますね。作詞・作曲陣はマイケルの他にも、ロッド・テンパートン、ポール・マッカートニー、スティービー・ワンダー、デヴィッド・フォスターといった豪華な面々。演奏ではラリー・カールトンやスティーヴ・ポーカロも参加。どうしてもMVのインパクトが強い人だけど、映像なしでCDに耳を傾けるとやっぱりマイケルは歌が上手いなあと惚れ惚れします。「Don’t Stop ‘Till You Get Enough」のファルセットなんか本当に見事だし、「Working Day And Night」などで多用されている「ッダ」とか「ッア」などの声も絶妙なリズムで挿入されている。しかも少しも単調ではなく、バリエーションが豊富なんですよね。彼にしかできない歌い方。トム・パーラー作曲の「She’s Out Of My Life」という美しいバラードのレコーディングでは最後にマイケルが泣き出してしまったらしく、ちゃんとそのテイクが収録されているんですよね。ラストのところで声が震えている。これを採用したクインシー・ジョーンズも凄いよなあ。


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『Thriller』(1982年)

人類史上最も売れたアルバムで、現在サブスク主流になっていることを考えるとこの7000万枚という記録は永遠に破られることがないでしょう。ブラック・コンテンポラリーの天才少年がその殻を突き破ってまさに世界の頂点に立った作品ですよね。ディスコティックな「Wanna Be Startin’ Something」で幕を開け、アダルトな雰囲気の「Baby Be Mine」やポール・マッカートニーとのデュエット「The Girl Is Mine」にうっとりしていると、「Thriller」という斬新な楽曲に度肝を抜かれる。そしてハードロック調の「Beat It」によってこれまでのイメージを完全に覆される。ギターは有名なリフやカッティングがTOTOのスティーヴ・ルカサー、間奏のソロがエディ・ヴァン・ヘイレンですね。そして名曲「Billie Jean」を挟んで、TOTOのスティーヴ・ポーカロが作曲した「Human Nature」。これは演奏もTOTOのメンバー。この名盤はTOTOがしっかり支えています。続く「P.Y.T」でバックコーラスをやっているのは姉のラトーヤと妹のジャネットですね。ラストの切ない「The Lady In My Life」まで一瞬の隙もない完璧な流れ。マイケルは超一流のパフォーマーだし、MVの印象が強いのでどうしてもそのダンスパフォーマンスに注目して語られがちだけど、ちょっと映像は脇に置いて、純粋に耳だけで味わうと音楽家としてもボーカリストとしても超一流ですよね。例えば「Beat It」では天使のような繊細な地声をどうしたら力強く響かせられるかすごく工夫されている気がします。「Human Nature」とは全く違う歌い方をしてるんだよなあ。


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『BAD』(1987年)

名実ともに〈キング・オブ・ポップ〉となったアルバム。スリラー旋風のとき僕はまだ10歳だったのでよく知らなかったんだけど、このアルバムは中三のときだったのでど真ん中でした。MTVやベストヒットU.S.Aで毎週のように1位になってて、マイケルが世界を席巻しているのをリアルタイムで観てましたね。『Thriller』の頃はまだ声が若いけど、『BAD』はもう少し大人の声になって歌唱法も到達点に達してる感じがします。特に表題曲の歌い方は凄い。例えば「Come On」をあえて「シャモン」と発音することでシャープさを際立たせたりとか、細部にわたって工夫されてるんですよね。あと前作の「Beat It」や今作の「BAD」で不良性を押し出しているのは、やっぱり可愛いマイケル坊やのイメージから脱却したかったのではないでしょうか。そしてそれは大成功してますよね。さらにこのアルバムでは9曲が自作。ソングライターとしても超一流であることを知らしめた作品ですね。サビなどで声を張るときに若干嗄れさせる歌い方にも磨きがかかっています。僕がこのアルバムで一番好きな「Dirty Diana」ではそれが特に顕著で、この曲の歌い方はめちゃくちゃカッコイイです。他にも「BAD」や「Another Part Of Me」など力強い歌声は最高潮に達しています。「Speed Demon」のファルセットに転じるところもシビれるなあ。


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『DANGEROUS』(1991年)

最先端のニュー・ジャック・スウィングを取り入れた新境地ではあるんだけど、ややオーバー・プロデュースという気がしますね。クインシーはマイケルのいいところを裏で支えてたけど、今回のテディ・ライリーは前に出過ぎているというか。テディが作曲に絡んでいる曲ほどアレンジが過剰なんですよね。マイケルの歌声がさらに熟してきているだけにちょっと残念。「Black or White」くらいのアレンジの方が僕は好きですね。当時は最先端を行ってて、世界中のミュージシャンが影響を受けたのは紛れもない事実だけど。とはいえ、僕はこのアルバムに収録されている「Heal The World」がマイケルの楽曲の中で一番好きです。美しい旋律と歌声、普遍的なメッセージが込められた歌詞、後半の盛り上がり。


マイケルの訃報を知ったとき僕はちょうど車の運転中で、なんとなくカーステでこのアルバムをかけたんですが、「Heal The World」を聴き始めたところで涙が止まらなくなり、路肩に車を停めて曲が終わるまで泣き続けたのを覚えています。


宇宙人に地球の代表曲を聴かせるなら・・・と想像することがあります。一枚のアルバムにしてプレゼントするならどの曲を入れるかと。例えばベートーヴェンの「第九」・「We Are The World」「All You Need Is Love」「Imagine」・・・そして、「Heal The World」も推したい。こんな美しい星ですよと。


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『HIStory:Past,Present and Future,BookⅠ』(1995年)

Disc1はベストなので、Disc2のオリジナル盤を聴く。これは他のアーティスト絡みの曲が多いですね。ジャネットとのデュエット「Scream」。クイーンの「We Will Rock You」を下地にした「They Don’t Care About Us」。ビートルズのカバー「Come Together」。チャップリン作曲の「Smile」のカバーetc.聴きどころ満載ですね。オリジナルだと「Stranger In Moscow」や「You Are Not Alone」といった美しい曲も素晴らしいけど、これまで以上にメッセージ性の強い曲が多く盛り込まれていて、例えば環境問題を訴える「Earth Song」の最後の鬼気迫るシャウトなんかは圧倒されますね。あと「Little Susie」というレクイエムも僕はすごく好きです。怒り、悲しみといった感情が爆発してるような曲が並んでいて、最もマイケルの個の部分が浮き彫りになったアルバムという気がします。


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『Invincible』(2001年)

大好きです。聴けば聴くほど良さが沁みてくるアルバム。特徴的なのは1、2曲目に顕著なヒップホップの要素を導入している点と、4オクターブの声を持つマイケルが声を低めに集めている点でしょうか。年齢的に高声が出なくなっているわけではなく、例えば「Butterflies」の後半ではとんでもない高音で歌っているので、あえて低めの声を多くしてるんだと思われます「2000 Wants」なんか「これ本当にマイケル?」と驚くほどのバリトンボイスを響かせているんですよね。パパになった40代のマイケルの熟した歌声が味わえる。ただ難点は作曲者とプロデューサーが多すぎるんですよね。船頭多くして・・・状態のため統一感がないのと、頭にアップテンポの曲を置き過ぎて後半バラードばかりが続くという構成がちょっとなあと。このアルバムの評価があまり高くないのはそのせいじゃないかと思うんだけど。売り上げも不振と言ったって、それはマイケルにしてはというだけの話で1000万枚ですからねえ。メジャーヒット曲がない分じわじわと良さが沁みてくるのがこのアルバムの醍醐味。冒頭の「Unbreakable」「Heartbreaker」「Invincible」の怒涛の攻め、めちゃくちゃカッコイイですよ。パパラッチに怒りまくってる「Privacy」なんて曲もあったり。マイケルはスリラーとBADくらいという人には是非聴いてほしいですね。2000年代になってもこんなカッコイイことやってたんだと感動します。バラードも充実してて、個人的に「Speechless」というラブソングが大好きです。


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