時代劇レヴュー㊲：源義経（1991年）

「九郎判官」の通称で知られる源義経は、日本史上のスターの一人であり、「判官贔屓」と言う言葉が後世作られたことからもわかるように、その悲劇的な生涯とも相まって非常に人気の高い人物である。

そのため、義経を題材にした小説、映画、ドラマなどは枚挙に暇がなく、「時代劇レヴュー㊱」で紹介したTBS版「源義経」以外にも、義経を題材にした多くのテレビ時代劇が存在する。

せっかくなのでTBSの「源義経」を取り上げたついでに、私が過去に見た義経を主人公にしたテレビドラマを連続して紹介したい。

まずは、1991年に日本テレビで放送された「源義経」である。

タイトル：源義経

放送時期：1991年12月31日

放送局など：日本テレビ

主演（役名）：野村宏伸（源義経）

原作：村上元三

脚本：杉山義法

日本テレビが毎年年末に放送していた「年末時代劇スペシャル」の第七弾で、タイトルの通り源義経の生涯を描いた作品である。

この作品は、複数の意味で同シリーズのターニングポイントとなった。

まず、同シリーズの作品は、それまでは12月30日と31日の二夜連続で放送していたが、この作品は二部構成こそ取っているものの、放送時間を早めて12月31日の一夜に五時間一挙放送する形式を取っている。

もう一つは、第一弾の「忠臣蔵」以外は、一貫して幕末維新期を題材にした作品を放送してきた同シリーズであるが、この作品では大きく路線変更して作品の舞台を源平合戦の平安時代末期にしている。

これらの変更は、徐々に視聴率が低迷してきた同シリーズのマンネリを打破するための措置と思われ、キャストも安田成美（静御前）、和久井映見（若ノ前＝義経の正室で河越重頼の娘）、唐沢寿明（能登守平教経）、武田真治（熊野の喜三太＝義経の郎党）など（括弧内は役名）、若年層に知名度のある若手の俳優を抜擢してテコ入れを図っている。

その一方で、同シリーズの「顔」とも言える存在でありながら、別番組出演のために第四弾の「五稜郭」以降出演が途絶えていた里見浩太朗を久々に出演させ、原点回帰的な方針も見せている。

もう一つ、本作は同シリーズでは初めて原作のある作品（それまでも「田原坂」や「五稜郭」は原作となる小説が存在したものの、脚本を担当した杉山義法によるノベライズ版であり、実質的にはオリジナル作品である）で、これ以降同シリーズでは最終作まで全くのオリジナル作品は作られなかった。

このようにして新しい要素を取り入れた本作であるが、内容的も比較的よく出来ており、放送時間こそ短縮したものの同シリーズに共通するクオリティは維持出来ているように思う。

オリジナルキャラクタなどは村上の原作に依拠しつつも、杉山義法なりの解釈も多く含まれており（なお、過去に杉山義法が脚本を担当した1986年放送のNHKの時代劇「武蔵坊弁慶」と展開、台詞などに共通する点も多い）、特に単純に「判官贔屓」とならず、義経の政治的に劣っている面も描いている所は個人的にはポイントが高い所である。

ただ、その結果、野村宏伸のキャラクタとも相まって、義経が妙に軽薄な人物像になり、里見浩太朗の重厚な弁慶の方が主人公に見えてしまうような観があった（里見の弁慶は、キャラクタ的にも前述「武蔵坊弁慶」の時よりさらに成熟した人物として描かれているために余計）。

好き嫌いで言えば、私は前年（放送日が1990年の元日と1991年の大晦日であるので、実質的には二年前）に放送されたTBSの「源義経」よりもずっと面白くて好きなのであるが、義経と弁慶のキャラクタは両者真逆であるので、人によって好みが分かれるかも知れない。

内容的には、同シリーズの他の作品同様史実寄りであるが、細かい部分では史実と異なる箇所もあり、梶原景時がやはり不必要なまでに「嫌な奴」に描かれている点は、他局の作品と共通する所である。

後、時間の都合かも知れないが、木曽義仲が全く登場せず、義仲追討のエピソードがばっさりカットされているのは義経のドラマとしては珍しい。

配役の感想を書くと、主役格の義経・弁慶以外では、榎木孝明演じるの源頼朝の怜悧な「独裁者」振りが印象的であった。

榎木はこの前年に角川映画「天と地と」で主演を果たしたことで、知名度が一気に高まったことによる抜擢であったのだろうが、知的な風貌のせいもあって彼はこの手の政治家肌の役を演じさせる抜群にはまる。

他には、平家一門のキャストに印象的なものが多く、暗愚なようでもあり達観したようでもあり、独特の雰囲気を放つ平宗盛をあおい輝彦が好演し、また落日の平家を一身で支える平知盛を、シリーズ常連の堤大二郎が魅力たっぷりに演じている。

登場シーンこそ少ないものの、安宅の関で弁慶とやり合う富樫左衛門泰家役の高橋英樹や、老獪な後白河法皇を癖のある演技で魅せる平幹二朗、清盛に捨てられた愛妾・祇王の成れの果てで、随所で不気味な存在感を示す老婆役の岸田今日子など、豪華な顔ぶれが並ぶのも年末特番ならではであろう。

細かい部分はともかく、民放の義経映像化作品の中では出来の良い作品であり、個人的には好きである。

なお、本作も同シリーズの他の作品同様、VHS・DVD化されており視聴は用意である。

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