続・時代劇レヴュー㊵:日本犯科帳・隠密奉行(1981年~1982年)

タイトル:日本犯科帳・隠密奉行

放送時期:1981年5月・1981年10月・1982年10月(全三シリーズ)

放送局など:フジテレビ

主演(役名):萬屋錦之介(朝日奈河内守正清)

原案・脚本:池田一朗(=隆慶一郎)


1981年から1983年にかけて、フジテレビで毎週2時間の時代劇を放送する「時代劇スペシャル」と言う番組枠が存在し、著名な歴史小説を原作としたものからオリジナル作品まで、様々な作品が世に出された。

本作「日本犯科帳・隠密奉行」はその中の一作で、好評を博したために計三シリーズ制作されている。

八代将軍吉宗の時代が舞台で、幕府大目付の朝日奈河内守正清(架空の人物)が、老中の密命を受けて、問題のある藩に潜入してお家騒動や陰謀を解決すると言う勧善懲悪形式の時代劇で、原案・脚本を後年歴史小説家の隆慶一郎となる池田一朗が担当した。

サヴタイトルにある「隠密奉行」は大目付の通称のことで、作中では大名の監察を担当する大目付は、時に身分を隠して諸藩に潜入し、その発言が藩の取りつぶしにつながることもあると言う設定になっており(この設定自体は架空のもの)、そのため朝日奈の存在は大名はもとより幕府内でも警戒されるものとなっている。

物語の性格上、朝日奈は毎回異なる諸藩に赴き、そこがその回の主たる舞台となるのであるが、その場所は第一シリーズが讃岐の高松、第二シリーズが金沢、第三シリーズが久留米である。

ストーリー自体はありがちで平板なものであるが、本作の魅力は絶妙な配役と、彼らが織りなすこれまた絶妙な掛け合いであり、これがあるために、ストーリーの単純さとは裏腹に、どの回も大変面白いものになっている。

朝日奈を演じる主演の萬屋錦之介は、普段は高位の武士らしからぬ軽妙で飄々とした人物であるが(下情にも通じていて、久留米編では町人姿で板前に扮して久留米藩に潜入した)、いざとなれば得意の剣技と機知で危難を乗り越えるという二面性を持っており、同じ池田一朗が脚本を担当した「長崎犯科帳」(「時代劇レヴュー㉙」参照)での平松忠四郎と並んで、個人的にはヨロキンが演じた役の中でも最も好きなキャラクタである。

他のレギュラー出演者には、絶えず朝日奈の身を案じるちょっと嫉妬深い妻・りん役の岸田今日子と、朝日奈を監視するよう命令を受けながら、いつも朝日奈に協力させられてしまう小人目付の真鍋平太郎役の新克利がいるが、芸達者なこの二人だけにそれぞれの役がはまっており、特に新克利とヨロキンの掛け合いは思わず笑ってしまう。


非常によく出来た時代劇であるゆえか、本作はその後、同じフジテレビで連続時代劇「隠密奉行朝比奈」としてリメイクされており、そちらは北大路欣也主演で1998年から1999年にかけて二シリーズ制作された(リメイク版では表記が「朝比奈」になっているが、実在する旗本をモデルにするのであれば、こちらの表記の方が正しい)。

リメイク版放送時には、すでに池田一朗は物故しているため、あくまで設定のみの踏襲で、ストーリーは萬屋錦之介版とは異なるものであるが、朝比奈の他にも、妻のりん、真鍋、土屋相模守(朝比奈に密命を下す老中で、彼だけは実在の人物)、渡辺弥左衛門(朝比奈を警戒する目付で、真鍋の上司)など、主要登場人物は萬屋版とまったく同じである。

こちらも内容としては面白いが、北大路欣也演じる朝比奈はヨロキンとはずいぶん雰囲気が違うので、そのあたりは好みが分かれる所であろうか(金田明夫演じる真鍋は、新克利のキャラクタをうまく踏襲していてはまっていた)。


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