続・時代劇レヴュー㊶:独眼竜の野望・伊達政宗(1993年)

※本レヴューは「時代劇レヴュー⑤」を分割して、その一部を独立した項目として再編集したものである。

タイトル:独眼竜の野望・伊達政宗

放送時期:1993年1月3日

放送局など:テレビ朝日

主演(役名):高橋英樹(伊達政宗)

原作:山岡荘八

脚本:志村正浩


本作は、かつてテレビ朝日が1月3日に放送していた「新春大型5時間時代劇スペシャル」の第三弾にして最終作である。

山岡荘八の『伊達政宗』を原作とし、政宗の初陣から関ヶ原の戦いまで、その前半生を中心に描いている。

山岡荘八の『伊達政宗』は、これまでも度々映像化されてきたが、数ある山岡荘八を原作とした作品の中でも、出来の良い部類ではないだろうか。

個人的には、同シリーズ中で最も出来の良い作品だと思う。

前述のように政宗の前半生にスポットを当てた本作は、秀次事件くらいまでで大半の尺を使っており、その後で関ヶ原の戦い前後の話がエピローグ的に入って、最後は支倉常長の遣欧使節派遣のシーンで終わる。

物語の展開だけで言うと、むしろ山岡荘八よりも海音寺潮五郎の『伊達政宗』に近いかも知れないが、五時間の尺にはこれがちょうどよく収まっているように感じた。

同シリーズの他の作品のように史実と異なる所や創作も多いが、全体の塩梅が良くてそこまで気にならないように出来ている。

蘆名義広が蘆名盛氏(たぶん)と混同されていたり、須田伯耆が父親と子が「合体」して一人の役になっていたり、大内定綱が途中で戦死してしまったり、原田宗時が関ヶ原の頃まで存命であったりと、時折「?」な描写もあるが、まあ、このあたりは「ご愛嬌」であろう。

他の政宗のドラマに比して、隻眼になるに至る政宗の幼少時の描写がほとんどなく、そのせいか政宗のキャラクタがどの作品よりも「明るく」なっている(このあたりは演じる高橋英樹の影響もあるだろうが)。

それでいて政宗のドラマでは「肝」の一つである生母・保春院と確執は描かれていたので、このあたりのバランスは個人的には大ヒット大河ドラマの「独眼竜政宗」(「続・時代劇レヴュー⑫」参照)よりうまいように思う(隻眼が政宗にとってコンプレックスであることは事実であろうが、ここを強調し過ぎると政宗のキャラクタが矮小化してしまうし、ドラマとしてもすっきりさがなくなってしまうように個人的には思うので)。

前述のように大半の創作は気にならないのであるが、一点だけ難点に思ったのは、終盤で登場する政宗が山形城に乗り込むシーンである。

保春院とのエピソードを回収するための措置なのかも知れないが、政宗が保春院を救出のために山形に自ら乗り込んで上杉軍を蹴散らすのは少しやり過ぎではないだろうか(なお、偶然であろうが、蘆名義広が蘆名盛氏と混同されている点と、慶長出羽合戦において政宗が自ら上杉軍を蹴散らして最上家を救う点は、「続・時代劇レビュー㉚」で取り上げた、1995年TBS放送の「伊達政宗」でも同じような描写も見られた)。

しかもこの描写のせいで、史実に反して最上義光は上杉軍に攻められて山形城を捨てて逃げたと言う不名誉な設定になってしまっており、この点は義光がかわいそうである(笑)。

時間の都合とは言え、もう少し保春院との確執の決着をうまくつけられる方法があったのではないかと思うし、それまで面白かったものがこのシーンのせいで少し興ざめになってしまったのは何とも残念である。

個人的には、その直前にあった家中から去っていた成実が帰参するシーンで本編を閉じていた方が、よりすっきりと感動のうちに終われたのではないかと思ってしまう。

ちなみに、成実が伊達家を去る時期も史実と異なり、秀吉への臣従後まもなくの時期になっていたが、これはある意味苦肉の策であろうか。

史実では成実の出奔の理由が不明なために、このあたりをドラマの中でどう処理するかは他の作品でも苦慮しているような印象を常々受けるので、こちらについては許容範囲と言うべきであろう(成実を登場させなければ問題は生じないのだろうが、ボジション的に流石にそれは無理であろうか)。

この他、伊達家の登場武将が意外と少なく、例えば鬼庭左月や綱元などはまったく出てこない(左月は台詞のみで登場)が、反面功臣の割にたいていのドラマでは無視されている白石宗実が目立って登場するなど、人物描写には結構オリジナリティがあったように思う(もっとも、宗実役は石原良純で、だいぶ史実よりも若い設定で、史実の宗実と養子の宗直を足したような感じになっていた)。

キャスティングに関しては全体的になかなかよく合っていて、主演の政宗演じる高橋英樹も良かったし、個人的には片倉景綱役の夏八木勲が知将の雰囲気が抜群で、結構はまっていたように思う。

大河ドラマ「独眼竜政宗」では家康役を演じた津川雅彦が、ここでは豊臣秀吉役を演じているが、老獪な秀吉の雰囲気がよく出ており、他にも最上義光役の神山繁、徳川家康役の石橋蓮司などは良い味を出していた(後、「独眼竜政宗」で政宗の側室を演じた秋吉久美子が、本作では正室の陽徳院役に「昇格」している)。

全体的に配役の年齢が高めで、例えば高橋英樹は当時四十九歳であったが、政宗の初陣から話は始まるので登場時は十代半ばと言った具合に、年齢だけ考えると結構無理のある配役も多いが、それでも見ていてそう言うことを全然感じさせないある種の説得力があって、そのあたりあの時代の時代劇にたくさん出ていた役者達は流石だなと、見ていて妙に感心してしまった。

キャストでもう一つ印象的だったことを書くと、田村亮が演じているせいか、豊臣秀次が暗君ではなくて結構好意的に描かれていて、その点も珍しい。

また、同シリーズの他作品同様、かなりの予算をかけて作られており、合戦シーンもカネがかかっているし、登場人物の甲冑についても、現存する伊達家関係者の甲冑に基づいて再現されていて、その点は好印象である(前年の「徳川家康」で登場した甲冑がひどかっただけに)。

なお、本作は2022年2月現在ソフト化はされていないが、個人的には是非ソフト化して欲しい作品である。


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