時代劇レヴュー⑬:織田信長(1989年)

タイトル:織田信長

放送時期:1989年1月1日

放送局など:TBS

主演(役名):渡辺謙(織田信長)

原作・脚本:高田宏治


かつてTBSは元日の夜に「新春大型時代劇」と題して五時間の時代劇を一挙放送しており、都合十作品(一作品のみ三時間)が制作された。

放送時期も作品数も日本テレビの年末時代劇スペシャルとほぼ同じで、テレビ時代劇黄金期の双璧とも言えるシリーズであったが、日テレが幕末を題材にした作品が多いのに対し、こちらは戦国時代を題材にした作品が多い。

今回取り上げる「織田信長」はシリーズ第三弾で、最も脂の乗った時期の作品と言え、個人的にシリーズ中でも最も出来が良いと思う。

もっとも、後述するようにこのシリーズは日テレの「年末時代劇」に比べると色々な面でだいぶ「雑」な感じがして、その点でも両者は好対照である。

さて、この作品はタイトルが示すように織田信長の半生を描いた作品で、若き日の信長の活躍が中心に据えられており、クライマックスは桶狭間の戦いでそれ以降はあっさりとまとめられ、本能寺の変の手前で物語は終わっている。

織田信長が主人公であるのに本能寺の変を描かないのは、かなり珍しい作品ではないだろうか。

主演は若かりし頃の渡辺謙で、このほぼ一年前に大河ドラマ「独眼竜政宗」の放送が終わっているので、彼の知名度が一気に高まった直後の作品であるが、画になると言うか、物語の中で描かれる信長としては文句ない格好良さである。

歴代信長の中でもトップクラスの存在感であると思うし、この作品のクオリティは、脚本や演出よりも渡辺謙の熱演に支えられている面が大きいと思う。

この作品の信長は、山岡荘八や司馬遼太郎の作品のような「中世を打破した革命児」「先進的な政治家・軍略家」と言ういわば古典的な信長イメージで描かれているが、他の作品に比して「英雄」の面がかなり強調され、比叡山の焼き討ちや伊勢長島一向一揆の虐殺に見られるようなマイナスの狂的な面はほとんど描かれていない(気性の激しい人物として描かれてはいたが)。

この点、本能寺の変がばっさりカットされたこととあわせて、昔ながらの講談調の英雄譚と言った趣が強い(このシリーズは東映が制作に大きく関わっているだけあって、昔の東映娯楽大作のような傾向がどの作品にも多かれ少なかれあるが)。

他のキャストも正月らしい豪華さで、斎藤道三役に松方弘樹、平手政秀役に若山富三郎、織田信秀役に千葉真一、徳川家康役に真田広之と言った具合であり、他にも斎藤義龍役に金田明夫、服部小平太(信長の近臣)に辰巳琢郎と言うように、現在では知名度の高い俳優がほんの端役で出演しているのも特徴である(もっとも、それなりにこの二人の役どころは目立っているが)。

前述のようにこのシリーズは日テレ「年末時代劇」と大きく異なり、時代考証だったり史実との兼ね合いがかなり適当だったりするのであるが(日テレの方も所々で史実と違う描写があるが、このシリーズの比ではない)、この作品はシリーズの中ではそのあたりのバランスが一番良くとれていると言う印象を受ける。

物語の面白さと史実との調和が、かなりぎりぎりのラインを保っていると言うか何と言うか。

冒頭に登場する織田信秀からしてそうであるが、甲冑は大将クラスは皆平安時代の大鎧のような時代にそぐわないタイプのものを着用しているし、登場時に信長が使っている鉄砲は、どう見ても火縄銃じゃない(笑)。

このあたりのことに突っ込むのは野暮であろうが、せっかくなので(?)思いつくままに挙げると、例えば信長の婚姻の翌日に信秀が死んでいるし、清洲城を織田信友から奪取する話と弟の信勝(作中では信行)の謀反の話が一緒くたにされているし、元亀年間から信長が安土城を築いている設定になっていたり、小谷落城の時にまだ朝倉家が滅亡していないような描写があったり。

細かいことを言えば、小谷落城の時にまだ遠藤喜右衛門が生きているし(ただし、姉川の合戦がばっさり本編ではカットされているのでやむを得ないと言えばそうなのであるが)、朽木総退却の時に殿だったはずの明智光秀が先導役になっているし、桶狭間の戦いの際に戦死したはずの佐々隼人や佐久間大学が終盤まで生きているし。

ただ、どれも取るに足らないと言うか、ストーリーの展開上、さしたる影響のない史実無視で許容範囲と言えるであろう。

と言うか、意外と史実無視の仕方がうまいと言うか、そこまで大きな破綻がないのは結構見ていて感心(?)してしまう。

一体、時代劇はノンフィクションドキュメンタリではなくドラマであり、そもそもが娯楽作品として作られたものであることを考えれば、根本を覆すようなひどい捏造やご都合主義的な展開でなければ、ある程度は演出の範囲としてすませて良いと思うし、その辺のさじ加減がこのドラマは結構うまい。

例えば比叡山焼き討ちのシーンなどは、本編では小谷落城のすぐ後に挿入され、時系列で言えば両者は逆なのであるが、このシーンは信長の合理主義を示す一例としてナレーションベースであっさり終わってしまい、挿話のような感じで語られているので、必ずしも時系列の違いが気にならない。

ただ、足利義昭を登場させたまま放ったらかしにするなど、細かい部分では不満が残る箇所もあるが(いつの間にか室町幕府は滅亡したことになっている)。

後、これはおそらく制作側が意図していないことであろうが、長篠の戦いの描写、これも挿話的な挿入でかなり簡単に描かれているのであるが、馬防柵に向かって突撃してくる武田軍の兵士がほとんど歩兵で騎馬武者はまばらであり、結果的に最近の研究で明らかになった「史実」でのビジュアルに近くなっているのが何だか面白い。

最後に、前述のようにこの作品(と言うか、このシリーズの諸作品)は、金をかけている割には一つ一つのシークエンスの描き方が雑で、その点に関して個人的には日テレや他局の年末年始時代劇に比べて質が劣ると思うのであるが、たぶんこれは元日と言う放送枠のせいも少なからずあって、正月のだらけた気分の中で見るには、誰でも知っているような著名エピソードを雑につなげたような、これくらいの「ゆるさ」がちょうど良いのかも知れない。


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