続・時代劇レヴュー㊾:源氏九郎颯爽記シリーズ(1957年、1958年、1962年)/源氏九郎九郎颯爽記・秘剣揚羽の蝶(1991年)

タイトル:①源氏九郎颯爽記(第一作:濡れ髪二刀流 第二作:白狐二刀流 
     第三作:秘剣揚羽の蝶) ②源氏九郎颯爽記・秘剣揚羽の蝶

放送(公開)時期:①1957年4月(第一作)、1958年3月(第二作)、1962
         年3月(第三作) ②1991年1月1日

放送局など:①東映 ②テレビ朝日

主演(役名):①中村錦之助=萬屋錦之介(源氏九郎) ②村上弘明(源氏     
       九郎)

原作:柴田錬三郎(①②共通)

脚本:①結束信二(第一作)、加藤泰(第二作)、伊藤大輔(第三作)
   ②志村正浩


柴田錬三郎の『源氏九郎颯爽記』は、幕末を舞台に源義経の子孫を称する源氏九郎が活躍する時代小説で、主人公の源氏九郎は総髪に白ずくめの着流し、二刀流で「揚羽の蝶」と言う必殺剣法を使う美男の剣士である。

『眠狂四郎』もそうであるが、柴錬の時代小説のキャラクタは、浮世離れしたビジュアルや独特のネーミングの剣法(「眠狂」だったら「円月殺法」と言った具合に)が登場し、またストーリーも単純明快のため、その点では二時間程度の映像化作品とは抜群に相性も良いように思う。

かつて大映にて市川雷蔵主演でシリーズ化されていた「眠狂四郎」のように、この『源氏九郎』も東映で計三作品(以下①)が、後に1991年正月にテレビ朝日にて二時間枠の長編時代劇(以下②)として映画化されている。

①はいづれも初代中村錦之助(後年の萬屋錦之介)が主演を務めており、1957年から1962年にかけて公開された(第一作目はモノクロで、第二作目からはカラー)もので、②は村上弘明が主演を務めている。

①の第一作は江戸時代末期の弘化年間が舞台で、源氏九郎が源義経所用(元来は平時忠の所用で、壇ノ浦の戦いの後で義経の手に渡ったと言う設定)の「火焰剣」「水煙剣」と言う二振りの刀をめぐる騒動に巻き込まれる物語で、②はやや時代が下ったと思しき開国直後の兵庫を舞台とし、二剣に隠された義経の財宝をめぐる物語で、第一作とは何となくつながりがあるが、第三作はがらっと変わって時を遡って天保末年の江戸(北町奉行として遠山景元が登場する)を舞台とし、作風も前二作とかなり異なるものとなっている。

第一作は若干雑な所もあるが、第二作はストーリーとしてもそれなりに面白く、錦之助の髪型も原作通りの長髪の総髪となっており(第一作は時代劇等では浪人の定番的髪型である髷を結うタイプの総髪)、ヒロイン演じる大川恵子や、源氏九郎を助ける町奉行所同心役の里見浩太郎(後年の里見浩太朗)も良い。

レヴューとは関係ない余談であるが、当時の里見浩太朗は東映ではヨロキンの弟分のような存在であったようで(1997年にヨロキンが物故した際、追悼番組に出演した里見がそんなようなことを言っていたように思う)、1950年代~1960年代の東映の錦之助主演映画には、助演的な役回りで良く出演しており(1959年の「風雲児織田信長」や1965年の「宮本武蔵・巌流島の決斗」など)、彼自身も後年「源氏九郎」を演じている(フジテレビで1983年に放送された二時間枠の時代劇「源氏九郎颯爽記・秘剣揚羽蝶」で、作中では里見は源氏九郎と遠山景元の二役を演じているが、私自身は未見)。

一方第三作は前述のように作風がそれまでとかなり異なり、源氏九郎と遠山景元(演・丹波哲郎)との知恵比べが見所になっており、面白いことは確かに面白いが、作中では源氏九郎の正体が実は「初音の鼓」と通称される盗賊の首領と言う大幅な脚色がなされている。

第三作を手がけたのは時代劇映画の巨匠・伊藤大輔であるが、伊藤が手がける作品は原作があるものでも彼のカラーが強く出るため、現在だったらさしずめ「原作クラッシャー」とでも呼ばれて、原作ファンからは嫌われる存在になるかも知れない(笑 当時の時代劇映画は、著名小説を原作に使っていても設定や展開を大幅に変えることは多かれ少なかれよく見られた)。


②の村上弘明版は、①の第一作とほぼストーリーが重なっているが、火焰剣・水煙剣の紹介を行う意味を持つ衣川の義経自害のシーンが、冒頭でプロローグ的に登場し、村上はここでの義経役も務めている。

①同様、ストーリーは単純でさほどのひねりはないが、コンパクトにまとまっているために非常にすっきりと見られる作品で、また登場人物のキャラクタも皆個性的でわかりやすく、陰謀家の公家と邪剣の使い手と言う二つの顔を使い分ける悪役の石橋蓮司は流石のインパクトである。

何よりも、村上弘明が源氏九郎という浮世離れしたキャラクタに非常にはまっており、実写時代劇でやるとともすればコスプレになってしまいがちな総髪・白ずくめと言う出で立ちも、驚くほど様になっている(過去に「時代劇レヴュー⑭」で紹介した1992年テレビ東京放送の「宮本武蔵」での佐々木小次郎役も良かったが、村上弘明は総髪のクールな美剣士がよく似合う)。

源氏九郎は「眠狂四郎」同様、そのルックスから女性にモテモテで、本作でも斉藤慶子演じる武家の娘、片平なぎさ演じる女スリ、黒田福美演じる公家の姫(前述石橋蓮司の妹)と言った登場する女性キャラクタに片っ端から恋心を抱かれるのであるが、ここでもやはり村上の美剣士振りがこの現実離れした設定に説得力を持たせている。

ハードボイルド風のシリアスな内容を期待して見ると白けるかも知れないが、昔ながらの王道の時代劇として、肩の力を抜いて見られる作品で個人的には好印象である。


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