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5.3.4 都市の自治と市民たち 世界史の教科書を最初から最後まで


中世の時代の西ヨーロッパの都市(中世都市)は、通常その周りが城壁でかこまれていた。
壁は領主の支配からの独立のシンボルであり、自治を勝ち取ったあかしでもあったのだ。


だから、領主の支配に苦しむ農奴たちの中には、周辺の荘園から都市に流れ込んでくる者もいた。

ドイツでは「都市の空気は(人を)自由にする」といわれ、都市に逃げた農奴は1年と1日住めば”時効”となり、晴れて自由身分になれるとされていたほどだ。



しかし都市内部の人間関係は、とうてい平等であったとはいえない。
発言権も大きさは、財力に比例する。
中世都市の市政は、遠隔地貿易で富を築いた大商人の組合によって独占されていることが多かった。

この組合を、商人ギルド(英:マーチャント・ギルド)という。

現代風にいえば、大企業の会長・社長だけが入ることのできる”プレミアムサロン”のようなもの。
競争が激しくなりすぎると共倒れになってしまうから、扱う商品の量や販売方法や価格などを調整し、共存共栄をはかっていこうという組織だ。
市政をつかさどる議会(市参事会)の議員も、彼らが牛耳っていた。



でも、値付けや買取りの権限を握る商人ギルドに対し、不満を持つのは手仕事のプロ(手工業者)だ。

むりやり現代風に言えば、大企業の社長グループが「商人ギルド」だとすれば、町工場の職人さんが(同職ギルド)といったところ。

納得いかないことがあっても、「文句があるなら取引停止や」と言われちゃあ、かなわない。

そこで、おなじ製品の手工業者たちが集まって、同職ギルド(英:クラフト・ギルド、ドイツ語:ツンフト)を組織し、待遇改善を求めて団結して戦うようになったんだ。

彼らは商人ギルドとおなじようにトレードマークをもち、「守護聖人」といわれる“守り神”も設定して仲間意識を強めていった。
お金や生活に困ったことがあったときの“助け合い”の組織という意味合いもあったんだよ。

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ドイツの例
1 製靴 2 漁師 3 肉屋 4 布屋
5 紡績 6 塗装 7 粉挽 8 石工
9 大工 10 屋根工 11 仕立屋 12 製パン
13 鞍馬屋 14 鉄工 15 毛織工 16 染物屋



そもそも市政に参加する権利のない同職ギルドは、参政権を求めてツンフト闘争と呼ばれる運動を起こし、次第に認められるになっていった。


しかし、それでも参政権を得られない人々がいる。

独立したアトリエを持つ親方に対し、その下で”弟子”として修行・下働きをする職人徒弟(とてい)だ。




親方と、職人・徒弟の違いについては、寿司職人や落語の世界を考えてみるとよいだろう。
みんながみんな親方として屋号をもらって開店していたら、世の中寿司屋だらけになってしまう。
それじゃあ過当競争になってしまい、共倒れだ。だから修行の期間を長くすることで、これを抑制する。
品質・規格・価格を規約によってこまかく統制したり、同職ギルドに入っていない者の新規参入を禁止したりするのも、すべて業界の共存共栄のためだ。


史料 パリの石工(いしく)のギルドの規約
1. パリにおいて石工になろうと望む者は、それになりうる。ただし、その職の仕事に通じ、かつ次に挙げるこの職の慣行、規約に従って仕事をなすことを必要とする。
2. この職のいかなる者も、1名をこえる徒弟を採用することはできない。[…]
8. すべての石工、壁塗工、漆喰工は聖人の聖遺物にかけて、それぞれ自身に関する限り、善く、正しくその職の規約を遵守し、その職の仕事を行ない、かつその職の慣行規範に違反する者があることを知ったならば、そのたびごとに誓約に基づいて、石工頭(左官頭)に訴えるべきことを誓約しなければならない。
[…]

『西洋中世史料集』東京大学出版会




まだまだ経済的に豊かでなかった時代にあって、ギルドという「競争を抑制するしくみ」は、細く長く生きていくためには必要不可欠なものだったけれど、のちに経済やイノベーションを阻害する時代遅れの制度として問題視されるようにもなっていくよ。


ちなみにドイツの教育制度には、徒弟制度の名残が残っており、職業教育が重視されている。専門的な職業に就く際のルートは、日本とまったく異なるんだ。


このたびはお読みくださり、どうもありがとうございます😊