【年表】「歴史総合」の歴史—日本における高校世界史の変遷(1949〜2021年)
ひとくちに「高校時代の世界史」といっても、そのイメージや学びの経験は、世代や教育環境によって、さまざまです。備忘録、参照先として、これまでの流れをまとめておきたいと思います。
科目新設の経緯・関連年表
・1949 東洋史と西洋史が統合され、高等学校の社会科に「世界史」が誕生
・1960 「世界史A」(基本)と「世界史B」(発展)が、同年告示の学習指導要領に登場(1963年度より)
・1973 同年告示の学習指導要領で再び「世界史」に一本化
・1989 同年告示の学習指導要領で社会科が地理歴史科と公民科に分割。地理歴史科に「世界史A」(近現代中心)と「世界史B」(通史)が設置
・1998 同年告示の学習指導要領で世界史(世界史Aまたは世界史B)が必履修化
2006年
・2006.10.17 木村尚三郎氏、死去。中曽根政権下の教育課程審議会で、世界史必修化を実現させた西洋史家(社会科の地歴科・公民科への解体経緯については兼重宗和(1988)「社会科解体について」『徳山大学論叢』 (29)、135-150頁に詳しい)。
・2006秋 世界史未履修問題が発覚
・2006.9 都県教育長、高等学校日本史の必修化に関する「要望書」を文部科学省に提出(その後、2006.10 東京都教育委員会、文部科学省に「意見書」提出 → ・2007.4 東京都教育委員会が「申入れ書」を文部科学省に提出)
2007年
・2007.12.5 南塚 信吾『世界史なんていらない? (岩波ブックレット) 』刊行
2008年
・2008. 6.7 日本学術会議 史学,地域研究,心理学・教育学委員会合同「高校地理歴史科教育に関する分科会」主催公開シンポジウム「高校教育における時間と空間認識の統合―世界史未履修問題をどう解決するか」
・2008.10 『学術の動向』特集1◆高校における地理 ・歴史教育の改革 小林正人「時間と空間認識の統合を目指して ―高校地理歴史科教員か らの提言―」
2009年
・2009.3 学習指導要領告示 世界史必修化を継続
2010年
・2010 横浜市、日本史必修化(のち2012には東京都、2013には神奈川県で必修化)
2011年
○2011.3.11 東日本大震災
・2011.8.3 心理学・教育学委員会・史学委員会・地域研究委員会合同
高校地理歴史科教育に関する分科会「新しい高校地理・歴史教育の創造 -グローバル化に対応した時空間認識の育成」
・2011.9 『学術の動向』 特集1◆新しい高校地理・歴史科教育の創造 ―グローバル化時代を生き抜くために 髙橋昌明「新科目「歴史基礎」の特徴と 具体化に向けて」 改革構想当時の科目名は「歴史基礎」(仮)であった。「世界史と日本史を統合する方法としては、(A)古代から現代までの時系列をベース とする型、(B)近現代史集中型、(C)主題学 習中心型の三タイプ」が構想されていたことがわかる。
・2011.11.16 日本学術会議幹事会(第 140 回) 高校歴史教育に関する分科会設置、委員決定
・2011.11.19 羽田正『新しい世界史へ――地球市民のための構想』岩波新書 刊行
・2011.12.26 日本学術会議 高校歴史教育に関する分科会(第1回)
2012年
・2012.5.8 日本学術会議 高校歴史教育に関する分科会(第3回) 桃木至朗「歴史基礎案の検討 世界史の全体像を大学で教える試み」
・2012.8.28「大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育と大学教育の円滑な接続と連携の強化のための方策について」を中央教育審議会に諮問
・2012.9.1 小川幸司『世界史との対話—70時間の歴史批評』地歴社、完結(下巻刊行)
・2012.10.27 日本学術会議 高校歴史教育に関する分科会(第4回) 三谷博「『歴史基礎』B 案(近現代史集中案)の改訂について
2013年
・2013.3.11 日本学術会議 高校歴史教育に関する分科会(第5回) 池享「『歴史基礎』構想案(A)について」
・2013.6.8 日本学術会議 高校歴史教育に関する分科会(第6回) 厚海啓子(日本橋女学館高等学校教諭)「歴史基礎の試行」、 油井大三郎「『歴史基礎』の実験と用語限定のガイドラインについて
・2013.10.31 教育再生実行会議第 4 次提言「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」
→「達成度テスト(発展レベル)」(複数回実施、外国語、職業分野等の外部 検定試験の活用を検討 し、試験結果の段階別表 示・資格試験的活用を工夫する。将来的に CBT 方式も検討する)
→高校における学習の達成 度を把握する「達成度テスト(基礎レベル)」を導入し、高校の指導改善や 推薦・AO 入試にも活用する。
2014年
・2014.2.13 日本学術会議 高校歴史教育に関する分科会(第7回) 提言案について、「高校地理歴史教育に関するシンポジウム」について
・2014.4.1 桃木 至朗・荒川 正晴 ・秋田 茂ほか『市民のための世界史』大阪大学出版会 刊行
・2014.6.13 「再び高校歴史教育のあり方について(案)」2014.5.3日本学術会議幹事会(第 193回)で承認→「再び高校歴史教育のあり方について」
この時点での科目名は「歴史基礎」である。
・2014.12.22 中央教育審議会答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、 大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について―すべての若者が夢や目標を芽吹かせ、 未来に花開かせるために―」
→思考力・判断力・表現力を中心に評価する「大学入学希望者学力評価テスト」(資格試験的利用促進、複数回実施、成績結果 の段階別表示、CBT 方式での実施、英語の 4 技能 (「読む」「聞く」「話す」 「書く」)を評価できる出題や民間資格・検定試験 の活用、「合教科・科目型」 「総合型」の問題、「記述式」の導入を提言)
→「高等学校基礎学力テスト」(入試への活用を本来 の目的とするものではな く、進学時の活用は、調査 書に結果を記入するなど 参考資料の一部として用いる。)
2015年
・2015.3.26 鳥越泰彦『新しい世界史教育へ』飯田共同印刷 刊行(著者は2014.3に急逝)
・2015.7.26 高大連携歴史教育研究会 発足
・2015.8.5 文部科学省 新学習指導要領の骨格を発表 科目名は「歴史総合」(仮称)を検討していることが公表される
・2015.8.14 安倍首相、戦後70年談話を発表(首相官邸リンク)
・2015.11.12 〜 2016.6.27 教育課程部会 高等学校の地歴・公民科科目の在り方に関する特別チーム(全5回) 議事要旨・議事録・配付資料
・2015.12.7 〜 2016.6.13 教育課程部会 社会・地理歴史・公民ワーキンググループ(全14回) 議事要旨・議事録・配付資料
2016年
・2016.3.31 高大接続システム改革会議最終報告、公表
→知識・技能を十分有して いるかの評価も行いつつ、思考力・判断力・表現 力を中心に評価する「大学入学希望者学力評価テスト」(当面、国語・数学 で記述式導入(成績は段階別表示)。英語の4技能 評価の実現・民間試験の 知見活用を検討。マーク式で正解が 1 つに限られない問題など)
→「高等学校基礎学力テスト」(当初は大学入試等には用いず、目的である学 習改善等に用いながら、 検証を行う。2023 年度以 降の大学入試等への活用は更に検討。民間事業者の活用)
・2016.4.11 「高等学校学習指導要領における「歴史総合(仮称)」の改訂の方向性として考えられる構成(たたき台)」教育課程部会社会・地理歴史・公民ワーキンググループ 資料9
・2016.5 『学術の動向』特集 1 ◆歴史教育の明日を探る ―「授業・教科書・入試」改革に向けて― 小川幸司「「問いをともに考える」世界史へ」 、久保亨「高校歴史教育のあり方をめぐって ─「世界史」未履修問題表面化以来の日本学術会議の取組」
・2016.5.16 日本学術会議 史学委員会高校歴史教育に関する分科会「提言 歴史総合に期待されるもの」
・2016.6.27 教育課程部会 高等学校の地歴・公民科科目の在り方に関する特別チーム(第5回) 配付資料の一覧
・2016.6.27 高等学校学習指導要領における「歴史総合(仮称)」の改訂の方向性1(案)」平成28年6月27日 教育課程部会 高等学校の地歴・公民科科目の在り方に関する特別チーム 資料9
・2016.6.27 「高等学校学習指導要領における歴史科目の改訂の方向性(案)」平成28年6月27日 教育課程部会 高等学校の地歴・公民科科目の在り方に関する特別チーム 資料10
・2016.8.2 産経新聞ウェブ版「世界史A+日本史A=「歴史総合」 「世界の中の日本」重視」
・2016.8.26 社会・地理歴史・公民ワーキンググループ「社会・地理歴史・公民ワーキンググループにおける審議の取りまとめについて(報告)」
・2016.9 河合塾『Guidline(ガイドライン)』特集 学習指導要領改訂と高大接続改革 神戸大学附属中等教育学校における事例の紹介
*2016.9.8 ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史(上・下)文明の構造と人類の幸福』河出書房新社、日本語版刊行
*2016.11.13 デイヴィッド・クリスチャン『ビッグヒストリー われわれはどこから来て、どこへ行くのか――宇宙開闢から138億年の「人間」史』明石書店、日本語版刊行
→これ以降、分理融合的な進化生物学的アプローチが流行することとなる端緒となった。
*2016.10.19 呉座勇一『応仁の乱』中公新書、刊行
2017年
・2017.7.13 高大接続改革実施方針
→知識・技能を十分有しているかの評価も行いつ つ、思考力・判断力・表 現力を中心に評価する 「大学入学共通テスト」( 国語・数学で記述式導入 (2024 年度以降、社会・ 理科も検討)、採点に民間事業者活用。マーク式で 正解が 1 つに限られない 問題など。英語の外部検 定試験を活用。共通テストの英語は 2023 年度まで は実施、次期学習指導要 領に基づく 2024 年度以降 は教科・科目の見直し)
・2017.10.30 高大連携歴史教育研究会 「高等学校教科書および大学入試における 歴史系用語精選の提案(第一次)」
・2017.10.31 桃木至朗 (監修)・藤村泰夫 (編集)・岩下哲典 (編集)『地域から考える世界史―日本と世界を結ぶ』勉誠出版 刊行
・2017.11.20 高大連携歴史教育研究会「Q&A:当会提案の用語精選案とアンケートに関してよくあるご質問」
●2017.12〜 「歴史総合」第1次報道ブーム(第2次は2021.11〜)
・2017.12.1 朝日新聞ウェブ版「「坂本龍馬、教科書に残して」高知知事が発言」
・2017.12.23 産経新聞ウェブ版「「坂本龍馬」が消えたナゾ 「高校歴史用語案」を読み解く 「厩戸王(聖徳太子)」も議論必至」
2018年
・2018.3 高大連携歴史教育研究会運営委員会 「高等学校歴史教科書・大学入試出題用語精選基準に関するアンケート集計結果について」
・2018.3 『高等学校 学習指導要領(平成30年告示)』
・2018.3.8 朝日新聞「山梨)教科書から武田信玄削る案 文科省に反対直訴」
・2018.4.1 産経新聞「「坂本龍馬」選定も「OK」 高校歴史用語、精選基準を修正 教育研、批判受け 偏向も注意促す」
・2018.6 鳴門教育大学大学院学校教育研究科 教授 梅津正美「<特集① 次期学習指導要領解説>地理歴史科新科目「歴史総合」・「日本史探究」の特徴と実践課題~資質・能力ベースの歴史授業構成~」『日本史かわら版』第5号、帝国出版
*2018.8.18 山﨑圭一『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書 公立高校教師YouTuberが書いた』SBクリエイティブ、刊行
*2018.8.23 シリーズ 歴史総合パートナーズ、清水書院 刊行開始
*2018.11.12 百田尚樹『日本国紀』幻冬社、初版刊行
*2018.9 note「みんなの世界史」、開設
2019年
・2019.11.1 大学入試共通テストへの英語民間試験の導入を延期
・2019.12.17 大学入試共通テストへの国語・数学の記述式の導入を延期
*2019.12.17 皆川雅樹ほか編『歴史教育「再」入門 歴史総合・日本史探究・世界史探究への"挑戦"』清水書院、刊行
・2019.12.26 文部科学省「平成30年改訂の高等学校学習指導要領に関するQ&A(地理歴史に関すること)」
2020年
◯新型コロナウイルスの世界的大流行
・2020.2.27 全国一斉休校の要請
*2020.5.25 歴史教育者協議会(歴教協』『世界と日本をむすぶ「歴史総合」の授業』大月書店 刊行
・2020.8.7 文部科学省、JAPAN e-Portfolio(ジャパン・イー・ポートフォリオ)」の運営団体である一般社団法人教育情報管理機構の運営許可を取り消し
*2020.8.20 藤野裕子『民衆暴力』中公新書、刊行
2021年
・2021.1 初の大学入試共通テスト、実施
・2021.3.21 歴史総合 大学入試共通テスト サンプル問題 発表
・2021.7.30 文部科学省、共通テストへの英語民間試験と記述式問題の導入断念を発表(英語民間試験は2019.11.1、国語・数学の記述式は2019.12.17に導入延期が発表されていた)
・2021.9.8 「従軍慰安婦」「強制連行」などの用語について、中学社会、高校地理歴史、公民科の教科書を発行する3社が教科書計10点の記述計11カ所を訂正申請し、文科省が承認したと発表(2021.4.27、「『従軍慰安婦』または『いわゆる従軍慰安婦』ではなく、単に『慰安婦』という用語を用いることが適切」とし、河野談話は継承するとする答弁書を閣議決定)
*2021.10.11 島村 圭一・永松 靖典 (編集)『問いでつくる歴史総合・日本史探究・世界史探究 ―歴史的思考力を鍛える授業実践』東京法令出版 刊行
*2021.10.18 武井彩佳『歴史修正主義ーヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで』中公新書
・2021.11〜12 「歴史総合」第2次報道ブーム
2021.11.15 長谷川隆「来春激変「高校歴史」暗記だけじゃない学びの中身 新設される科目「歴史総合」の3つのポイント」東洋経済新報オンライン(週刊東洋経済 2021年11/20号[雑誌](学び直しの「近現代史」)のPR)
2021.12.10ABEMA PRIME
2022年
・2022年度 2022(令和4)年度入学生から、平成30年3月に告示された新しい学習指導要領が実施
2023年以降
・2024年度 2024(令和7)年度入試で、平成30年3月に告示された新しい学習指導要領に基づく出題が実施
教科書
・文部科学省 教科書編修趣意書 高等学校 歴史総合
このたびはお読みくださり、どうもありがとうございます😊