世界史のまとめ×SDGs 目標⑧働きがいも経済成長も:1979年~現在
SDGsとは「世界のあらゆる人々のかかえる問題を解するために、国連で採択された目標」のことです。
言い換えれば「2019年になっても、人類が解決することができていない問題」を、2030年までにどの程度まで解決するべきか定めた目標です。
17の目標の詳細はこちら。
SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)が、「発展途上国」の課題解決に重点を置いていたのに対し、SDGsでは「先進国を含めた世界中の国々」をターゲットに据えています。
一見「発展途上国」の問題にみえても、世界のあらゆる問題は複雑に絡み合っているからです。
しかも、「経済」の発展ばかりを重視しても、「環境」や「社会」にとって良い結果をもたらすとはいえません。
「世界史のまとめ×SDGs」では、われわれ人間がこれまでにこの課題にどう直面し、どのように対処してきたのか、SDGsの目標と関連づけながら振り返っていこうと思います。
【1】経済を発展させるには?
ー貧しい国で経済を発展させるには、どうすればいいと思う?
お金をあげるとか…ですかね。援助です。
ー「援助を大きく”ひと押し”(ビッグプッシュ)すれば、経済が成長する」。
なーんてふうには、どこの国でもうまくいくわけじゃない。
この時代の初め頃までに、先進国の援助機関は、貧しい国にいくら援助してもなかなか発展しないのは「途上国のビジネス環境が悪いからだ」と考えるようになった。つまり、「自由なビジネス」がしにくい環境にあるというわけだ。
そこで、貧しい国の経済を「自由なビジネス」ができる環境に”つくりかえる”ことを条件に、援助をするという方向がとられるようになったんだ(注:構造調整プログラム)。
この時代の初め(1979年)にそのプランを立てたのは、の世界銀行の総裁(注:マクナマラ)と副総裁(スターン)といわれる。
効果はあったんですか?
ーこのプランが実行された国では、その後経済が成長することはなく、ゼロかマイナスの効果をもたらしてしまっている(注:ウィリアム・イースタリー『傲慢な援助』東洋経済新報社、2009 、p.82)。
例えば、ソ連が崩壊した後のロシアに導入されたトップダウンの「自由なビジネス」プランも、構造調整プログラムの影響を受けている(注:ガイダルの「ショック療法」。顧問にジェフリー・サックスがいる)。
結果的に、ロシアでは激しいインフレが発生し、貧富の差が開いてしまった。近年成長しているのは、輸出向けの資源の値段が上がっているからだ。
「自由な経済」を導入すれば経済発展ができますよ。
ーという形で、貧しい国に押し付けたとしても、それがその国の経済発展につながるとは限らないんだ。
どうしてですかね?
ー「お金をあげるからね。じゃあ、これから自由にビジネスをやれるように制度を変えていこうね」って言ったってすぐさまビジネスが盛んになるわけじゃない。
まあお小遣いもらっても、使っちゃえば終わりですもんね。
ー安心して取引ができる安全な制度や、ビジネスをはじめるためのハードルの低さ自分の財産を「自分のものだ」と他人に示すことができる制度も重要だ。
でないと、モチベーションがあがらないよね。
【2】変えたい人たちと、変えたくない人たち
国がビジネスを”応援”してくれるかってことも重要ですよね。
ー重要だね。
でも、国内にいろいろな民族がいると、政府はどちらかというと多数派の民族を"ひいき"しがちになる。
現在の制度で得をしている人たちは、わざわざそれを変えようという気にはなかなかならないからね。
それにそもそも「とっても貧しい」状態からスタートし、その状態を抜け出すこと自体が、難しいことだという議論も根強い(注:貧困の罠)。
【3】資源の呪い
そもそもどうしてそんな状態になってしまったんでしょうね。
ー「工業化した世界」と「工業化していない世界」との間に、大きなギャップが生まれ、そのギャップが固定化されてしまったことが一因にある。
工業の原料となる天然資源は、「工業化していない世界」から「工業化した世界」に向かって流れる。
不平等な制度の背景には、こうした天然資源の輸出に依存する経済があることがしばしばだ。
例えば、先ほどの「構造調整プログラム」が導入された南アメリカのボリビアという国では、19世紀前半にスペインから独立した後、スペイン系の白人グループが政治と経済を牛耳り、先住民グループは土地を奪われるなど苦しいポジションにあり続けた。
少数の「金持ち」の白人に有利な体制が続き、大多数の先住民は不利なポジションに置かれた。
20世紀後半(1964~1981年)に軍事政権が続いた後も、経済的な苦境は続き、先住民の抵抗運動は継続したよ。
(注)21世紀に入り、先住民出身の大統領(注:モラレス)が就任し、天然資源の国有化を宣言するなどして長期政権を実現している。
【4】悪い政府と良い政府
資源でもうける人たちと、その恩恵にあずかれない人たちとの間のギャップを埋めるにはどうすればいいんでしょうかね。
ーギャップの原因をなくすために、「貧しい国」だけでなく、「豊かな国」も含めた制度の見直しが必要だ。
「貧しい国」の政府は、「悪い政府」であることが多い。
「悪い」???
ー国民への説明責任が果たせているか、政治の中身についてちゃんと国民がチェックできるしくみがあるか、という基準によって判断してみるとってことだよ。
そのうちのひとつの指標(注:Polity IV)を地図化したものが下図だ。
だいぶばらつきがありますね。特にアフリカは低い。
ー資源価格っていうのは、「豊かな国」の企業が「貧しい国」の政治家と交渉して決まることが多い。
透明性の低い国では、政治家が「良からぬお金」を受け取っていたとしても、国民はその情報を得ることができない場合がほとんどだ。
どうすればいいんでしょう。
ー例えば、資源の採掘から販売までの間に、国内外でどんなお金のやりとりがあったのかを「ハッキリと公開しようじゃないか」という取り組みが広がっている(注:採取産業透明性イニシアティブ(EITI))。
また、経済学者のコリア氏が薦めるのは立証競売という制度だ。
資源の取引が「不自然な値段」でおこなわれることがないように、どういう基準で取引したか、誰に対してもわかるかたちにしようという取り組みだ(注:立証競売)。
【5】正義が侵略に変わるとき
こんなふうに、外側から無理やり「貧しい国」の制度を変えるのではなく、「豊かな国」のからむ貿易のしくみを変えようというわけだ。
資源輸出による利益が、国内にまんべんなく行き渡ることができれば、経済が成長するための原動力にもなるよね。
でも、それって「外から無理やり変える」おせっかいと紙一重な感じがしますね。
ー一歩まちがうとそうだよね。
例えば、この時期にはアメリカ・イギリス・オーストラリア・ポーランドがイラクを攻撃し、政権を転覆させた(注:イラク戦争)。
で、戦後はアメリカが中心となって「民主的」で「自由な経済」のできる国に、イラクを作り変えようとした。
その結果は、現在に続く”大混乱”が物語っているね。
そもそも「民主的」っていっても、その基準は先ほどのPolityⅣも含め、アメリカが設定した基準に過ぎないしね。
この時期の中国のように、みずから改革することによって事実上「自由な経済」を取り入れ、経済成長を果たした例もある(注:改革開放)。
【6】奴隷、苦力、移民労働者
でも、経済が成長すれば、生活しやすくなるかっていうとそうとは限りませんよね。
ーそうだね。
やはりここでも重要となるのは、その国の政府が、国民全体のことをしっかり気にかけることができているか、国民が政府をに意向を反映させたりチェックしたりすることができているかっていうことだ。
「おまえらのところの道路なんて、もったいないから補修しないよ」なんて政府だったら、困るでしょ。
そうですよね(笑)
ーでも、そういうことが実際にある国が多いわけだ。そこで、衛生、環境、ジェンダー平等、教育なども含めて「開発の進み具合」をみる指標も導入されている。
人間開発指数の世界地図(濃い緑色ほど高く、赤に近づくほど低い、wikicommonsより)
で、人間は誰でも一生の大部分を「働く」ことで暮らしているわけだから、その「働き方」がどれだけちゃんとしているかということも見るべきだよね。
ちゃんとしていない働き方って何ですか?
ーう~ん、簡単に言えば「人間性を否定されるような働き方」だね。
例えば、奴隷。
19世紀までは「当たり前」だった働かせ方だ。
大西洋を舞台としたヨーロッパ諸国による黒人奴隷貿易
サハラ砂漠や東アフリカを舞台としたアラブ人などによる黒人奴隷貿易
奴隷はダメだということになった後は、どんな人がそういう「苦しい働き方」をさせられたんでしょうか?
―ヨーロッパで苦しい立場に置かれた人の多くが、南北アメリカ大陸に大勢わたったんだよ。
例えば?
―アイルランド人だ。
この時代の終わりごろ、アイルランドでジャガイモの伝染病が大流行。
ただでさえイギリスにより土地を支配されていたアイルランド人にとって、ぜいたくな小麦に代わって重要な食料だったジャガイモが壊滅したことは、大打撃となった。
このときに、のちにアメリカの大統領にのぼりつめた人物(注:ケネディ)の祖先も、アイルランドからアメリカにわたっている。
アメリカ合衆国はどうして移民を受け入れたんですか?
―働き手が足りなかったからだ。
世界中から移民を受け入れ、独立から100年で人口は約14.3倍に増加することになる。
移民たちは都市の内部で固まって住むことが多かった。
貧しい暮らしの中、きびしい差別も受けた。
移民の暮らしは大変だったんですね。
―世界的に「奴隷制度」が廃止される方向に向かうと、その「代替」として代わりに「有期の契約労働者」っていう名目で働かせる方法もはびこるようになるよ(注:クーリー(苦力))。
工業化が進むと、世界は「工業化していない世界」と「工業化した世界」の2つに分かれ、人々は前者から後者へと移動して、貨幣を得るために「働き口」を探すようになっていく。
そのペースは、この時期(1979年~現在)には一層加速しているんだよ。
移民の流れ(青いエリアは国境を越える移動がある程度自由なところ。黒い矢印は主要な移民ルート。赤い矢印は移民の移動ルートトップ10)
国を越えた移動が加速すると、問題なのは子ども(注:児童労働)や女性が、好ましくない仕事の働き手として売買されるような事態だ。
また、国内での働かせ方に問題があるケースも少なくない。先進国であっても仕事中の事故や災害とは無縁ではないし(注:日本の過労死)、途上国では表立った統計には現れないような”闇の仕事”(注:インフォーマルセクター)に従事する人も多い(注:下図を参照)。
(追記)2019/04/05 自分にとって”どうでもいい人”を過酷な労働に就けさせるシステムー残念ながら、それは決して”過去”のものではありません。
【7】働くチャンスをひろげる
みんながやりがいを持って働けるようにするには、どんなことが必要でしょうか。
ーまずは、仕事を生み出すことも必要だね。
畑しかない、森しかない。
そんななんにもないとみんなが諦めているようなところでも、都会に住む人にとっては「珍しい」「魅力的な」観光資源やビジネスチャンスが眠っている(注:エコツーリズム、一村一品運動)。
また、仕事をはじめたい人が、その第一歩を踏み出しやすくするしくみも必要だ。
貧しい人でもしっかりとした事業計画さえつくればお金を借りやすくする取り組みも注目を浴びている(注:マイクロファイナンス)。
ビジネスする際にきわめて重要な通信手段も、携帯電話の普及によって手に入れることが容易となっている。
多くのひとがちゃんとした環境で働けることって、その国の安定にとっても重要なことですよね。
ーそうだね。
例えば、「アラブの春」の起きた北アフリカ諸国では、若者の急激な増加(注:ユース・バルジ)と就職先のアンバランスが騒乱の背景となったのではにかとも指摘されている。
一部の人だけでなく、障害者でも女性でも若者でも、仕事で活躍できるようにするしくみづくりは、世界中で共通した課題といえるね。
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