世界史のまとめ×SDGs 目標⑦エネルギーをみんなに そしてクリーンに:1979年~現在
SDGs(エスディージーズ)とは「世界のあらゆる人々のかかえる問題を解するために、国連で採択された目標」のことです。
言い換えれば「2018年になっても、人類が解決することができていない問題」を、2030年までにどの程度まで解決するべきか定めた目標です。
17の目標の詳細はこちら。
SDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)が、「発展途上国」の課題解決に重点を置いていたのに対し、SDGsでは「先進国を含めた世界中の国々」をターゲットに据えています。
一見「発展途上国」の問題にみえても、世界のあらゆる問題は複雑に絡み合っているからです。
しかも、「経済」の発展ばかりを重視しても、「環境」や「社会」にとって良い結果をもたらすとはいえません。
「世界史のまとめ×SDGs」では、われわれ人間がこれまでにこの課題にどう直面し、どのように対処してきたのか、SDGsの目標と関連づけながら振り返っていこうと思います。
人力から蒸気力へ
ー人類は長い間、自然や動物の力から「物を動かすパワー」を引き出そうとしてきた。
Photo by Lotte Löhr on Unsplash
例えば?
ー風の力、おとなしい家畜の力、そして自分自身の力や、言いなりにできる奴隷の力などだ。
しかし、こういった力は「いつでもどこでも自由に」使えるわけではない。
それに大きな変化をもたらしたのは、18世紀後半(⇒1760年~1815年の世界史のまとめ×SDGs)にイギリスで起きたあるイノベーションだった。
…というと?
―人や馬を使わなくても、その数十倍ものパワーを出せるテクノロジーの開発だ。
サルの場合、力(ちから)を出す仕事をするには、自分の体を使うしかないよね。
その場にある木とか石を使うっていっても、結局は自分の体を使うしかない。
人類もはじめはサルと同じだった。
何をするにも、力を出すには自分の体を使うしかない。
それがイヤなら、誰か別の人を使うしかない。
そこで利用されたのが「奴隷」だ。
敵などを奴隷として、力を出してもらう道具として使ったわけだ。
家畜も力を出す道具として使えませんかね?
―その通り。
家畜なら、たとえば馬1頭で奴隷7人分のパワーが出せるといわれている。
ウシを使って犂(すき)で土地を耕しているところ。
人力では大変だ(ペルーの踏み鋤(ふみすき))
人にしろ馬にしろ、体力には限界がありますよね。
―そう。消費カロリーには限界があるし、ムラもあるよね。
成人男性だったら1日にこれぐらい食べなきゃいけないという量が決まっているけど、さすがにそれを何十倍も超える量のご飯を食べるわけにもいかないよね(笑)
馬だって同じ。
エサを食べる量には限界がある。
どうすれば人も馬も使わずに、仕事をする力を手に入れることができるんでしょうか?
―その夢のようなことが、この時代に実現したわけだ。
燃料は石炭。
石炭を燃やすことで、その熱であたためられたお湯から湯気(ゆげ)が出て、その湯気がふくらむ力を利用して機械を動かせることがわかったんだ!
改良が重ねられ、最終的には馬2000頭分にまでパワーアップした!
馬2000頭! そんなに力があったら、なんでもできそうですね。
―たとえば荷物をたくさん積んだ箱に車輪を付け、鉄でできたレールの上をその力で走らせれば「鉄道」になるよね。
その箱を海に浮かべてスクリューを回せば、帆(ほ)がなくても高速で巨大な船を動かすことだってできる(注:蒸気船)。
今まで動物の力や風の力に頼っていた人間の活動範囲が、劇的に変化することになるんだ(注:交通革命)。
さらに機械なら、燃料さえあればいつまで動いても疲れない。
同じようなクオリティの商品を大量につくることだって可能になる。
電力の時代へ
―さらに、19世紀後半になると、さらなる発明が進む(⇒1870年~1920年の世界史のまとめ×SDGs)。
石油を頑丈な筒のなかで燃やすことで動力を生み出す技術が発明されたんだ(注:内燃機関)。
さらに電気を動力に変える仕組みも発明され、銅線を通して遠い地点に情報を送れる通信テクノロジーも発達(注:有線電信)。
電波を利用して、「銅線」がなくても通信ができる機器(注:テスラの世界システム、マルコーニの無線通信)も発明された。
こうして科学の発達が、「便利な世の中」のためにすぐさま応用されていく時代になっていくわけだ。
どんどん便利になっていますね。
ー人間の「社会」が便利になる反面、悪い影響もある。
長い間地中に埋まったままエネルギーを蓄えていた石炭や石油を燃やすことによって、二酸化炭素などのガスが大気中に放出されるようになったんだ。
これが人為的な気候変動を生んでいる。
また、とくにエネルギーを取り出す効率が高い石油には、分布しているエリアに偏りがある。
資源のとりあいが戦争に発展しそうですね…。
ーそうそう。
ヨーロッパ諸国やアメリカ合衆国がいちはやく目をつけたのは、西アジアだ。大企業が、西アジアの石油のとれるところの利権を手に入れ、次第に世界の石油の値段をコントロールするようになっていったのだ。
でも、その国からの反発は起きなかったんでしょうか?
ー利権を与えることによる見返りもあったからね。
でも、パレスチナ問題が激しさを増すようになると、「自分の国でとれた石油は自分のものだ」という主張(注:資源ナショナリズム)も声高になり始めた。
この時期になると、例えば、欧米の大企業(注:セブンシスターズ)がサウジアラビアの石油会社を、サウジアラビア政府に売却。サウジアラビア政府が100%国有化することになった(注:アラムコ)。
欧米の大企業に対抗して石油の値段を決めようという組織もできるようになる(注:OPEC(オペック)。アラブ人の産油国はOAPEC(オアペック)という組織をつくった)。
石油の値段は上昇基調が続き、産油国で石油利権を持つ人達のふところはどんどん豊かになっていったよ。
アラブの”石油王”ってやつですね。
ーこの時代の終わり頃には、中国の国営会社も国内(新疆や沖合の海洋)だけでなく、世界中で油田の採掘を進めるようになっている。
広がる原子力発電
ー一方、第二次世界大戦後、石油に代わる新エネルギーとして期待されるようになったのが原子力による発電だ。
水を温めて蒸気を発生させ、その力でタービンを回して発電しているわけだから、やっていることは蒸気機関と本質的には変わらないよ。
じゃあ違いは何ですか?
ー石炭を燃やすと、燃えカスや二酸化炭素などが発生するよね。
原子力発電の場合は、ウランを燃やして核分裂を起こした後に出る、放射性廃棄物が発生する。
で、その燃やすためのウランの量も膨大だ。
安全性が問題になりそうですね。
ーで、厄介なことに、この原子力発電の技術も、冷戦の影響を強く受けることになる。
どういうことですか?
ーアメリカ合衆国もソ連も、自分の陣営をグループ化して原子力に関する協定を結び、”平和利用” という形で燃料となる濃縮ウランのやりとりが可能となるように計らったのだ。
濃縮ウランって?
ー平和利用をいうたっているとはいえ、燃料となるウランは核兵器の材料ともなりうる。”隠れミノ” になっては困るわけだから、慎重になるわけだ。
なるほど。
ー前の時期(1953年~1979年の世界史のまとめ)の後半には、「核兵器を持ってもいのは、地球上でアメリカ・ソ連・イギリス・フランス・中華人民共和国だけ!」という条約が締結されていた(注:核拡散防止条約)。
核兵器をつくる技術や施設が、その5か国以外の国々にわたることを阻止しようとしたんだ。
どうやって?
ー国連の機関(注:国際原子力機関(IAEA))が設立され、その国の原子力発電所が「平和的に利用されているか」をチェックしようとしたんだ。
世界の原子力発電所の分布(https://climateshift.com/climate-change-maps/international-nuclear-safety-maps.htm)より。原子力発電所は核保有国や、過去に核開発を行おうとした国/疑いのある国にリッチしていることがわかる。
(参考)なお、核分裂を起こしやすい物質である天然のウランからエネルギーを取り出すには2つの方法がある。
1つ目の方法は、天然のウランを「濃縮」し、「濃縮ウラン」とするものだ。ウランにはいくつかの同位体があるが、核分裂しやすい(燃える)ウラン235の割合を高める必要がある。なぜなら核分裂しやすい(燃える)ウランであるウラン235は、自然界の天然のウランの0.7%しか存在しないからだ(⇒広島型原爆はほぼ100%にまで高める)。
2つ目の方法は、「原子炉」で天然のウラン製の燃料棒に中性子という粒子を照射し、ウラン235の核分裂エネルギーを利用して発電を行うと同時に、ウラン燃料棒に含まれる大量のウラン238に中性子が吸収され、副産物としてプルトニウムが生成するものだ。
で、さらにウラン235、ウラン238、プルトニウムなどがごちゃ混ぜになっている燃料棒を「再処理」施設で化学的に処理すると、プルトニウムを抽出することができる。
プルトニウムは核兵器に転用も可能だから、国際的に特に規制が厳しい(だけども日本は結構持っている⇒「NHKクローズアップ現代(2017.10.30)“プルトニウム大国”日本 ~世界で広がる懸念~」、核燃料サイクル、プルサーマル計画)。
核兵器を作らせないようにしつつ原子力発電を広めるのって、大変そうですが。
ー原子力発電を もし”平和利用” に限ることができれば、原子力発電自体は「ビジネス」になりうる。原子力発電の施設はとっても値段が高いからね。
でも案の定、核兵器の拡散を防ぐことができているとは言えないのが現状だ。
例えば?
ー日本で身近なのは、北朝鮮だね。
そもそも北朝鮮は、ソ連から原子力発電所を提供される代わりに、ソ連がまだ崩壊する前(1985年)にさきほどの条約(注:NPT)に加盟していた。
しかし、ソ連が崩壊すると経済的なサポートを失い苦境に立つようになる。
そんな中、IAEA(国際原子力機関)が査察すると、核兵器の開発が進んでいることが明るみに出た(1993年)。
これに対し北朝鮮は、使用済みの核燃料からプルトニウムを抽出!
えっ、核兵器がつくれちゃいますね。
ーまずいでしょ。IAEAからの脱退も宣言しちゃった。
そこで、アメリカが割って入って、IAEAから撤退しないこと「合意」した(1994年)。北朝鮮の建国者(注:金日成(イム・イルソン))が亡くなった直後のことだった。
これにより北朝鮮は見返りとして、重油の提供と軽水炉の建設が認められたんだ。
要するに経済的に困っていたんですね。
ー軽水炉という原子力発電なら、核兵器に転用されるおそれも少ないと考えられていた。
しかし、見通しは甘かった。
北朝鮮はすでに保有していたプルトニウムの封印をおこなわず、ウランの濃縮もやめなかった。IAEAからは再び脱退を宣言。さらに日本上空を通過するミサイルを発射する(注:テポドン1号、1998年)。
その後、核拡散防止条約からの脱退を通告(2003年)。さらに核兵器の保有を宣言(2006年)し、アメリカ・ロシア・中国・韓国・日本などを中心に外交交渉が行われてきた(注:六カ国協議)けれども、現在にいたるまで完全に核兵器の放棄にはいたっていない。
原子力技術の管理って難しいんですね…。
ー冷戦が終わった後も、原子力技術は国際社会からは見えない”ルート” を通して世界各地に広がっていった。
北朝鮮のほかにも、パキスタン(注:中国の協力。北朝鮮とも協力?)が新たな核兵器の保有国となった(1998年)。
また、イランも核兵器の開発をしていると疑われているけど、大国の足並みはそろっていない(注:イラン核合意)。
また、中東ではイスラエルという国が、事実上の核保有国だ。
また、原子力発電自体も、完全にコントロール下に置くことができているとは言いがたい。
この時代の初めにはアメリカ合衆国の原子力発電所で深刻な事故が起きると、アメリカでの新規建造は禁止に(注:1979年のスリーマイル島原子力発電所事故)。
さらに続いてソ連のメンバーであったウクライナで、原子力発電所の爆発事故が勃発(注:チェルノブイリ原発事故)。
ソ連政府がこれを”機密”扱いし、正しい情報を人々に伝えなかったことが不信を招き、改革(注:グラスノスチ)も時すでに遅し、ソ連の崩壊につながった。
その後、原子力発電はどうなったんですか?
ー国により政策はさまざまだ。
西ヨーロッパでは1980年代以降、環境を重視する政党(注:緑の党などの環境政党)が勢力を伸ばす中、原子力発電に反対する意見が目立つようになっていったよ。
一方、化石燃料の輸入に依存せざるをえない日本では、原子力発電の比率が高まっていく一方だった。
そんな中、2011年3月11日の日本の東北地方の大地震(注:東北地方太平洋沖地震)直後の大津波による福島第一原子力発電所事故で、大変深刻な事故(注:国際原子力事象評価レベル7)が起きた。
現時点でも、原子力発電所の内部の様子はしっかりとわかっていない。
内部に立ち入ることが不可能なくらい、容器から漏れた放射性物質が手のつけられないまま残されているからだ。
原子力発電のほかにエネルギーを得る方法はないんでしょうか?
ー水力や太陽光発電があるね。
この2つの発電量は海岸線が長く、国土の面積が広い中国やアメリカ合衆国がズバ抜けている。
でも、電力の比率の大部分を原子力発電所に頼ってきた国では、急に別の発電方法にガラっと変えることも困難だ。
当面は、石油などの化石燃料とのベストな比率を考え、最低限必要な発電量(注:ベースロード電源)を確保しようとする政策が、各国の実情に合わせてすすめられている(注:エネルギーのベストミックス)。
たしかに、化石燃料を使えば、温室効果ガスが出てしまう。
そこで、フィンランドを皮切りにヨーロッパを中心に、そこに税(注:炭素税)をかけようとする試みも進んだ。しかし、21世紀に入ると経済的に苦しい人たちも含めた合意を得るのが難しくなっている(注:フランスのマクロン大統領に対する黄色いベスト運動)。
「環境」と「社会」の調和が、残された課題だ。
この先も石油は使われ続けるんでしょうか?
ー原油は有限だから、いずれ枯渇するね。
でも、21世紀に入ると、北アメリカで、今までは掘ることができなかったような地層から天然ガス・原油(注:シェールオイル)を確保することができるようになった。
どちらも、従来の天然ガス・原油と掘り方が違うだけで、同じものだ。
アメリカ合衆国が天然ガスや原油を自給し、さらにヨーロッパなどへの輸出を増やせば、同じくヨーロッパを商売相手としていたロシアにとっては打撃になる。その影響は、資源を外国に依存する日本とも無縁ではないし、掘り方(注:フラッキング)がもたらす環境への影響も懸念されている。
途上国のエネルギーの行方
クリーンなエネルギーを普及していくためにはどんな取り組みが必要なんでしょうか。
ーまず途上国の現実を見るべきだろう。
多くの家庭では、現代的なエネルギーではなく、薪(たきぎ)を燃やすことでエネルギーを得ている状況だ。
「ケニア中央部の農村。森林保護区から薪炭材を運び出す女性たち」一橋大学 大学院社会学研究科・社会学部ウェブサイトより
薪を持ってくるので一苦労という感じですね。
ーそう。その仕事にあたるのは、たいてい子どもや女性だ(⇒目標⑤ジェンダー平等)。
人口増加で周辺の薪がなくなれば、遠くまで薪を拾いに行かねばならないし、森林が破壊され砂漠化が進んだり、洪水の被害に対して脆弱になったりするおそれもある(⇒Malawi warms to sustainable stoves – in pictures, The Guardian)。
お金を出して薪や炭を買うとなると、家計にとっても大変だ。
煙は有害じゃないんですか?
ーそうそう。屋内に充満する煙を吸うことによる健康被害も深刻だ。熱効率も悪く、調理にはとっても時間がかかる。
薪拾いの次は調理です。いわゆるキッチンは、大体の場合、煙突もなく室内あります。そこで薪を燃やすと、猛烈な煤煙が室内に立ち込めます。この煤煙には、有害物質も含まれており、“Inside Air Pollution”(室内大気汚染)と呼ばれています。1回の調理でタバコ2箱分に匹敵する量です。(BORDERLESSの記事より)
何か解決法はないんでしょうか。
ー人里離れたところに、国が中心となって、いきなり安定的な電力網(注:グリッド)を構築するのは難しい。
そこで、国による送電ネットワークに頼らず、太陽光などによって電力を自給しようという取り組みがある(注:オフグリッド)。
また、薪を燃やすことによる健康被害を防ぐため、煙の少ないコンロ(下のBORDERLESSの記事)や、熱効率の高いコンロづくりプロジェクト(下のThe Guardianの記事、Pair Carbon Offsetのウェブサイト)
やはりエネルギーの問題も、貧困、ジェンダー平等、環境など、さまざまな問題と複雑に結びついているんですね。
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