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2.3.5 社会変動と新思想 世界史の教科書を最初から最後まで

周の王様の権威の低下していった原因の一つは、諸侯たちが経済的・技術的に力を付けていったことにあった。


親のお小遣いに頼っていた子どもが、自分でバイトをはじめた途端、「もう自分でなんとかできる」と自立してしまうといったイメージだ。

春秋時代の中期(今から2500年ほど前)以降、鉄製の農具が使用されるようになり、牛に犂(すき)を引かせて効率よく農地を耕すことが可能になったことが大きいね。

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農作業が少人数でできるようになり収穫量も増えると、以前のように大家族で暮らす必要はなくなる。共通の祖先を持っているという仲間意識を持つグループ(氏族)から独立し、さな家族で生活を営むケースも増えていった。


また、各国が経済政策を重視したことから商工業がさかんとなり、取引コストを減らすため、用途によっては青銅製の貨幣(青銅貨幣)が使用されるようになった。

刀の形をした刀貨(刀銭)、犂の形をした布貨(布銭)、貨幣として用いられていたタカラガイを模した南方の蟻鼻銭(ぎびせん)など、貨幣には特別な思いが込められていたようだ。もっともオーソドックスな丸い貨幣は、西方の秦で用いられていた環銭(円銭)だ。
貨幣の使用によって、商工業はさらに活発となり、土地や貨幣などを集めて莫大な富を築く商人も現れた。

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社会が急激に変化すれば、いつの時代も人々は不安になる。
まさに急激な激変期にある現代でも、「AIに勝つためには?」とか「5Gがどうたら」日本を再興するには?」「人生100年時代をどう生きるか?」などなど、不透明な未来に対処するためのさまざまな新しい考え方が飛び交っているでしょ。


当時の中国も同様。
伝統的な身分の秩序が崩れ「実力本位」(能力主義)の世の中へと転換していた。そんな中、さまざまなジャンルの思想家が現れ、世の中を変えようとしたんだ。


代表的な思想家を紹介しよう。


まずは儒家(ルージア)。英語ではコンフューシャニズム
(「家」というのは、「思想のグループ」を指す言葉だ)

儒家はこう主張する。

「個人がちゃんとしていれば、家族がまとまる。家族がちゃんとしていれば、国がまとまる。
子が親を尊敬し、弟が兄を尊敬するように、けじめや愛情を天下におよぼすことで、国はまとまる。」

説いたのが孔子(こうし、コンズ、前551頃〜前479)という人物だ。


弟子たちが彼の話した言葉をまとめた『論語』が有名だね。

孔子は「周の王様が国を建てた頃」が“理想的な政治”の時代だったとみて、その頃の儀式や価値観の中に“国づくりのヒント”を見出そうとした。だから儒家は、詩経』『春秋』『易経』『礼記』『書経』(五経といった古い時代の歴史書や文献を大切にするんだよ。

でも、「ほっとけば誰でもちゃんと道徳を守ることができるのか?」という問題をめぐって、「できる」(性説)をとる儒家の孟子(もうし、前372頃〜前289頃)と、「できない」(性説)とみる同じく儒家の荀子(じゅんし、前298頃〜前235頃)の間で意見が対立。

孟子が「血縁関係にある人に対して愛情を持つのは、誰だってあたりまえのことだ」(惻隠の情)と考えたのに対し、荀子はそうは考えない。
「人間はもとから立派ではない。「」という規律で教育しなければ、悪い方向に向かってしまうんだ」と、「礼」の重要性を強調した。
授業や式典のはじめに、毎回「礼」をするよね。あれを小さい頃からずっとやっていれば、自然と目上の人に対する道徳が身につくんだというわけだ。

荀子の考え方は、やがて法(ルール)によって人を縛るべきだとする法家に発展。秦は、商鞅(しょうおう)によって厳しい法を導入したことで知られるよ。


また、儒家が血縁にこだわっているのに反対し、「人類皆兄弟」「ラブアンドピース」を叫んだ墨家(墨子の説)や、儒家の「礼」をわざとらしい不自然なものとし「なるようになることがよいことだ」とした道家(老子や荘子の説)のような思想もある。


老子の思想については加島祥造さんの意訳がわかりやすいので、載せておくね。

「天と地が生まれて
物に名がついたわけだが、 名とは物の表っ面(うわっつら)にただ張りつくものだ。
美しいと汚いは、 別々にあるんじゃあない。 美しいものは、 汚いものがあるから 美しいと呼ばれるんだ。 善悪だってそうさ。
善は、
悪があるから、
善と呼ばれるんだ。
悪の在るおかげで
善が在るってわけさ。
同じように、
ものが「在る」のも、 「無い」があるからこそありうるんでね。 お互いに 片一方だけじゃあ、在りえないんだ。...... だから道(タオ)の働きにつながる人は 知ったかぶって手軽くきめつけたりしない。 ものの中にある自然のリズムに任せて 手出しをしない。 すべてのものは生まれでて 千変万化して動いていくんだからね。 このタオの 本当のリアリティを受け入れる時
人は何かを造りあげても威張らない。 成功しても、 その成果を自分のものにしない。 自分のものだと主張しないから かえって人から忘れられない。そして 誰もその人の成果を 奪い取ろうとしないんだ。
天下皆知美之爲美、斯惡已。
皆知善之爲善、斯不善已。
故有無相生、難易相成、長短相形、
高下相傾、音聲相和、前後相隨。 是以聖人、處無爲之事、行不言之教。 萬物作焉而不辭、生而不有、爲而不恃、功成而弗居。 夫唯弗居、是以不去。
(第二章「養身」、加島祥造『タオ―老子』2000 年、筑摩書房、7〜8頁)



ほかにも「戦わずして勝つ法」を説いた兵家(孫子)は、ビル・ゲイツや孫正義の愛読書としても知られるし、星の動きと人間の運命を結びつける陰陽家は日本の陰陽師(おんみょうじ)にも影響を与えている。外交のプロフェッショナルとなった蘇秦や張儀も、戦国時代の政治に大きな影響を与えた人たちだ。




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