サステナブルファッションってなに?
SDGsへの意識が急速に高まる昨今、環境汚染の改善は喫緊の課題だ。しかし、私たちが日々楽しんでいるファッションの産業構造が、大量生産・大量廃棄から抜け出せていないという事実はあまり知られていない。
外務省勤務時代に、100カ国以上もの国を訪れ、仕事をしてきた経験を持つ、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタント 高橋政司が、今話題のインバウンド用語をピックアップし、世界目線で詳しく、やさしく解説する本連載。
第16回では『サステナブルファッション(Sustainable Fashion)』について取りあげる。世界目線チームの若手筆頭、ヒナタが素朴な疑問をぶつけてみた。
ーーーーサステナブルファッションとはなんでしょうか
「サステナブル(持続可能)ということで、服の再利用とみなされている節もありますが、そうではないんです。服が人の手に届くまでには、デザイン〜試作〜製造〜流通、といくつもの工程を経ていますが、これら全てがSDGsの考え方に即しているのがサステナブルファッションです。
日本では年間約100万トンもの衣料が廃棄されています。その80パーセントが焼却され、23万9千トンものCO2を排出しています。その一方で、衣料のリサイクル・リユース率はそれぞれ10%弱に留まっています。再利用自体は決して悪いことではないのですが、SDGsの掲げる目標を達成するには不十分です。ファッション業界のみならずその周辺のステークホルダーも巻き込んだ根本的な見直しが必要です」
ーー「SDGs」という言葉は良く耳にするのですが、その定義となると「持続可能性」や「多様性」といった漠然としたイメージしかありません。ここで改めてご説明いただけますか
「SDGsにはその前身となるMDGs(Millennium Development Goals)という2001年に採択された目標があり、2015年を期限として、8つの目標が掲げられました。私なりの見解を申し上げると、その結果は芳しくないものでした。
MDGsの反省を生かして、2015年に国連サミットで採択されたのが『持続可能な開発のための2030アジェンダ』です。その中で2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すための目標として掲げられたのがSDGsで、17のゴール、169のターゲットから構成されています。
環境の改善みならず、貧困・飢餓の根絶やジェンダー平等、ウェルネスといった項目もあり、サステナブルファッションにおいてもこれら全てを考慮する必要があります」
ーーファッションでSDGsを実現しているブランドはあるのでしょうか
「ステラ・マッカートニーの取り組みがそうです。現に彼女はインタビューで『わたしたちはサステナビリティを起点にアイデアを考える』と答えているほどです。
例えば、高い強度と伸縮性で知られている蜘蛛の糸から着想を得て、バイオテクノロジーによって生み出された『マイクロシルク』を使用したドレスを発表したり、全てがリサイクル可能なスニーカーを生み出すために、靴の構造から見直した商品開発を行っていたり、徹底して環境への配慮にこだわっています。
ブランドのホームページをみると『サステナビリティ』が一つのカテゴリーとして扱われており、『児童労働や強制労働が行われている国で生産されたコットンは使わない』『動物実験は行わない』など、いくつもの誓いが立てられています。人のみならず、動物や地球環境まで、ファッション業界を取り巻く全ての環境に配慮した姿勢は、まさしく私が冒頭で述べた定義と符号するものです。
アジアでもそのような潮流が見受けられます。Kilomet109というベトナム・ハノイ発のブランドはベトナムの少数民族が受け継いできた伝統的技法によって生み出された素材を使用し、スタイリッシュなデザインに落とし込むことで現代に蘇らせています。
創業者でありデザイナーのタオ氏は生地を単に買い付けるだけではありません。例えば素材となる藍だったら、少数民族の人々と共に苗を植え、育て、収穫までしています。染色の過程においても、伝統的な製法に新たなアイディアを加えるべく、村の職人たちと試行錯誤を繰り返しているんです。
収益は少数民族の人たちが生活する地域へと還元され、伝統工芸の継承にも貢献できます。タオ氏の取り組みはThe New York TimesやHarper’s BAZAARといったメディアでも取り上げられ、ベトナムの伝統工芸の世界的な認知を高め、評価を底上げしています」
ーー若い世代は、高級ブランドになかなか手が出せなかったり、そもそも「もっといろいろな服を着てみたい」という気持ちもあるのかと思います
「そうですね。ファッションはまず自分の気分を持ち上げてくれるものだと思うので、我慢をしてしまうのは持続可能ではありません。そこで私が今、注目しているのが服のサブスクリプション・シェアリングです。
アメリカ発のサービス『Rent the Runway』では高級ブランドのドレスやアクセサリーを月額制でレンタルすることが可能で、気に入ったアイテムは借り続けたり、メンバー価格での買取も可能です。ここで収集された顧客データを元に、サービスがパーソナライズされ、好みに合った服も提案されます。OMO(Online Merges with Offline)(注1)との親和性も高く、集積データから新たなサービスを展開することもできそうですよね。
(注1)
「すべての顧客接点がネットにつながっている環境において、オンライン起点でビジネスを捉えるマーケティングの新たな考え方」
「OMO(Online Merges with Offline)」広告朝日
https://adv.asahi.com/keyword/12931347.html
これなら誰でも手軽に質のいい服を体感できますし、レンタルでいわゆる『試着』を繰り返すことで、自分に似合うアイテムが理解でき、いざ買う時に失敗が減るという利点もあります。
こういった新たなサービスの潮流が、テクノロジーや無形の価値と結びつくことによって、ファッションの未来が見えてくるのではないでしょうか」
高橋政司
ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント1989年 外務省入省。日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2009年以降、UNESCO業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」など様々な遺産の登録に携わる。2018年10月より現職。2019年、観光庁最先端観光コンテンツ インキュベーター事業専属有識者。2020年、宗像環境国際会議 実行委員会アドバイザー、伊勢TOKOWAKA協議会委員。
参照元:
「A Vietnamese Designer Tweaks Traditional Fabric Production」The New York Times
https://www.nytimes.com/2017/12/05/fashion/craftsmanship-fashion-vietnam-kilomet100.html
「欧米で注目集める“定額レンタル服”をパリで体験 届いた服やサービスに見るビジネスの可能性」WWD
https://www.wwdjapan.com/articles/1089943
「需要と供給が合致した Rent the Runway のサービスと戦略」BEAWIND
https://www.beawind.com/ja/business/rent-the-runway-joins-the-unicorn-club-with-a-1-billion-valuation/
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