【サッカー名勝負を語ろう】2011−12バルセロナvsチェルシー(後編)

前回の続き。

まず最初に、自分はマンチェスターUのサポーターだ。チェルシーとは同じ国のライバル関係にあったから、なんとなくチェルシーは応援したくなかった。
なんなら憎い存在だった。
仕方なくバルセロナを応援したが、
正直な気持ち、結果よりも
純粋にサッカーファンとして、
レベルの高い試合を見たかった。
1stレグではチェルシーが1−0で勝利したため、
バルセロナは、2点差以上の勝利をしなければいけなかった。

この時、自分はというとカナダに住む兄のところに遊びに行っており、
カナダのスポーツバーで観戦していた。
そしてその日の解説者はマンチェスターU一筋
辛口で有名なギャリーネビルだった。
古巣のライバルチームに対して、
ボロクソにディスることにも目に見える。
密かにそんな楽しみもあった。

本気のバルセロナ

バルセロナは直前のリーガのレアル戦を落とし、リーガのタイトルは不可能に近かった。チェルシーとの1stレグも落としたこともあり、世間ではペップはもう限界なんて言われ初めていた。

そんな中で始まったゲーム。
試合展開は、いつもにも増して前がかりで攻め込むバルセロナ相手に防戦一方のチェルシー。
ペップ限界説を払拭して、CLに全てを懸ける。
そして決勝でレアルにリベンジして、最強バルサを取り戻す。そんな風に見えた。
(準決勝もう一つのカードはバイエルンvsレアルだった。)

チェルシーも前線にエース、ドログバを残し、単独でシュートまで持っていくシーンもあったが、CL準決勝とは思えない程チーム力の差は歴然だった。その日のバルサはいつも以上強かった。2連敗、2試合無得点でどうやら本気になったようだった。

そして、35分、遂に均衡が破れる。
ブスケツのゴールでバルセロナ先制。
2戦合計1-1、

更にその数分後、
あまりに思い通りに行かない試合展開に我を失ったのかDFの要であり
精神的支柱のジョン・テリーがサンチェスに膝蹴りをかましたのだ。

もちろん一発退場。

CBの相方ケーヒルもその前に負傷退場したこともあり、DFの要2人を欠いて残りの時間、世界一の攻撃を受けなければいけないこととなる。
それでもバルセロナは容赦しなかった。
43分サンチェス→メッシと繋ぎ最後はイニエスタ。
2戦合計2-1。
完璧な崩しだった。
これが世界一のクラブ。
流石にチェルシーには同情した。
勝ち、同点は疎か、大量失点さえ覚悟したことだろう。


一筋の光

完全に試合の流れはバルセロナだった。
バルセロナは面白いようにパスを回し、
対するチェルシーはボールを追いかけるだけで、まるで連動した守備をできずにいた。
ボールをキープすらさせてもらえず、
攻撃の予感はまるでなかった。

そんな前半アディショナルタイム、
それまで完全にゲームから消えていたランパードが、ハーフライン辺りから絶妙のスルーパスを通す。
これに反応したのはこれまた、ずっと消えていたラミレスだった。
そしてラミレスが選択したプレーは、
相手GKを嘲笑うかのようなループシュートだった。

テクニック集団のバルセロナのお株を奪うような、ビューティフルゴール。
2戦合計2-2。
そして前半終了の笛。
アウェイゴール数の関係でこのまま終わればチェルシーが勝ち上がることになる。
一般的に試合の開始5分と終わり5分に得点を奪うと勢いづき良い時間で取ったと言われる。
チェルシーは最高の時間で得点を奪ったのだ。

相手はあのバルセロナ

良い形で前半を終えたとは言え、
相手はペップ率いるバルセロナ。
それだけじゃない。
数的不利、完全アウェー、レギュラーCB不在、昨年の覇者、
チェルシーの不利な状況に変わりはなかった。

バルセロナサイドもあのワンプレーで焦った様子はなかった。
後半はバルセロナのキックオフからスタート。
開始早々、セスクが倒されPKをゲット。
どっちのファンでもないが
一瞬でも期待したのが間違えだった。
やっぱりこうなるのか。

皮肉なことに倒したのはドログバだった。
ゴールにこそ絡んでなかったものの、
身体を張ったポストプレーと単独でシュートまで持っていくナイジェリア人FWはゴールの可能性を唯一感じさせていたし、シュートで終わることで味方DF陣も陣形を整え直すことができていた。
押し込まれる状況において、とても大きな仕事をしていた。

ただでさえ当時のチェルシーは守備的なサッカーからアンチフットボールなんて言われ、あまりよく思われてなかった。
この試合が終われば、決勝点を与えたドログバと一発退場になったテリーが戦犯扱いされるんじゃないのか。テリーは自業自得として過激なファンやメディアから容赦なく叩かれる2人が目に浮かんだ。

キッカーはメッシ。
チェルシーはここまでだ。
メッシが外すことなんて想像もしなかった。
ある意味試合終了だ。
そう思った人も沢山いただろう。

チームがひとつになった時

もはやどんな選手か説明不要のあのメッシが、
蹴ったボールはバーに直撃した。
ほぼバルセロナのサポーターで埋まった
カンプノウが静まり返った…

試合はまだ終わらなかった。

もしかしたら、もしかしたら…

それからチェルシーがさらに守備のギアを入れ始める。
絶対的エース、ドログバも最終ラインまで戻り、
身体を張った守備を見せる。
6-3-0、時には7-2-0のようにも見えたし、
システムなんて知ったこっちゃない。
と言わんばかりだった。

「攻めようとしない」
「超守備的」
「無様な勝ちあがり方」

何と言われようが、
何十億と稼ぐ超一流のプロが、プライドを捨て、
醜いサッカーをしていた。腹を括ったように見えた。
全てはビックイヤーを掲げるために。
(ビックイヤーとはCLのトロフィーの愛称)

絶体絶命な状況は変わらないが、
サポーター、ベンチ、選手
チェルシーに関わる全ての人の思いがひとつになった時だった。

この時、自分はどっちが勝とうが負けようがなんて思っていた最初の気持ちは無くなっていた。
ユナイテッドファンのプライドもあったが、
ここまできたら心の中でジャイアントキリングを期待した。

最後のカード

スコアが動かないまま時間だけが過ぎていった。
さすがのバルセロナにも焦りが見えてきた。
依然としてバルセロナがボールをキープするのに代わりはないが、
最後のシュートだけがどうしてもゴールを割らないのだ。
その時点で20本近いシュートを放っていた。
バルセロナ特有な高速なパス回しが、
チェルシーにパスを回させられているような、そんな展開にも見えてきた。
でも一瞬も油断は出来なかった。なんせ相手はあのバルサ。
世界最高プレイヤーメッシもいた。

後半80分、チェルシーが最後の交代カードを切る。
当時、あの采配には全く理解できなかった。
暫定監督、ディ・マッテオの采配はエースのドログバを下げて、Fトーレスの投入だった。100歩譲って疲労困憊のドログバを下げるにしてもあの展開では誰もが守備的な選手を投入すると思っていた。
もし仮に、「点を取ってこい」、「攻めて守備の負担を軽減させてやれ」というメッセージが込められていたとしても、
トーレスファンには悪いが正直トーレスには全然期待は持てなかった。
鳴り物入りで加入したものの期待を裏切り続け、約5ヶ月ゴールから遠ざかっていたのだ。
時間にすると25時間41分ゴールしてないと当時のイギリスのメディアで話題になっていた。

完全に過去の輝かしい功績を忘れられ、
メディアからはネタキャラとして格好な餌食だった。

トーレスからチャンスが生まれる気配はまるでなかった。
それどころかDFが必死で繋いだ貴重なボールがトーレスに渡ると、いとも簡単にボールを失っていた。

あまりに簡単に奪われるもんだから、
DF陣は休む間さえ与えられない。
ドログバがいれば、、、
そんなことを思っていたサポーターも多かったはず。
チェルシーのリズムが悪くなっていたのは明らかだった。
いつ追加点が入ってもおかしくなかった。

神の子の一瞬の輝き

刻一刻と時間は過ぎていく。
チェルシーサポーターにとってあんなに長く感じた後半はこれまでにもこの先にもあの日だけではないのか?

そして92分。
誰も予想しなかった展開が待っていた。

トーレスにコーナフラッグ付近でボールが渡る。相手陣内にロングボールを蹴り出せば良いものを無謀にも突破を図った。
正直、あの判断に少しの苛立ちさえ覚えてきた。
案の定すぐボールを失い、
再びバルセロナの攻撃が始まる。

奪われた時、
トーレスは取り返す素振りも見せず、
なぜか相手陣内に向かってフェードアウトしていく。
バルセロナの最終ラインはハーフウェーラインよりもずっと前だった。

この時から伝説は始まっていた。

バルセロナの攻撃を耐え、クリアしたボールは何と前線にフェードアウトしていたトーレスの前に転がってきたのだった。ドフリーだった。
ハーフウェーライン手前にいたため、オフサイドはない。絶妙なトラップから約40メートルの独走ドリブル。DFも攻撃参加をしていなかったため残るはGKただ一人。

この日最大のビックチャンス。
しかし、それでもまだ信じきれなかった。
なんせ実績は素晴らしいが、
チェルシーではことごとく期待を裏切り続けていたのだから。
それにただでさえ敵地でCL準決勝の大舞台。
10万近い観衆。
決めて当たり前というプレッシャー。
トーレスに限らず、超一流の選手でさえ難しいシチュエーションだった。

それでもこの時のトーレスは驚くほど冷静だった。
相手GKバルデスを完璧に交わし、無人のゴールに流し込んだ。

神の子フェルナンド・トーレスによる
伝説の独走ゴールが生まれた瞬間だった。

**
「アンビリーーバボーー」**
ユナイテッド一筋、辛口なギャリーネビルが、
我を忘れ、感嘆の声をあげ、
発狂したのは今でも鮮明に覚えている。

それから数分後、終了のホイッスルが鳴った。
2試合合計3-2
期待を裏切り続けた男が史上最強バルサにとどめを刺した。
決勝に進んだのは下馬評を覆したチェルシーだった。

歴史に残る好ゲーム

・テクニック集団とフィジカル集団。
・勝つのが当たり前で常に追われてきたバルサと期待されず勝てばマグレなんて言われたチェルシー。
・フットボール最先端のバルサと古典的なフットボールのチェルシー。

対照的な両者の試合は劇的な幕切れとなった。
オランダのレジェント、ヨハン・クライフは生前こんな名言を残している。
「攻撃しない、美しくないサッカーに何の価値があるのだろうか」

最後まで連動した攻撃的なサッカーを貫き、一度も攻撃の手を緩めなかったバルセロナはクライフの言葉を借りるなら、美しく負けたチームだったし、

「攻めない」「つまらない」
美しくないサッカーをするチェルシーだったが、
チームの勝利のために時には批判を覚悟して、
泥臭く闘う姿には
理屈ではない、バルセロナとは
また違った美しさがあった。

そしてメディアから散々言われながらも腐らず、仲間のパスを信じ、走り続けたトーレス。
結果だけじゃなく、人々に記憶と感動を残した。

 ・ジャイアントキリング
 ・史上最強バルセロナ
 ・劇的な幕切れ
 ・神の子トーレスの伝説の独走ゴール。

このゲームのポイントを挙げるとするならこんな感じだろうか?
8年経った今も、カンプノウで見せた最高のゲームは間違いなくCL歴史に残る伝説のゲームのひとつだろう。

あとがき

最後まで読んで下さりありがとうございました。
最初の予定ではランキング形式で発表するつもりが、
当時のことを思い出すと、
色んな感情が湧いてきてしまい、書きたいことがあり過ぎました。
結果的に1試合を、前編、後編に渡り書く形となってしまいました。
これから他の試合や選手のことも紹介したいこと沢山あるので定期的に書きたいと思っています。もし面白いと思ってくれたら今後とも読んでくださるととても嬉しいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?