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140字小説 すぐ読めるお話集

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#短編

無意識対抗薬

ある研究者が無意識の行動を無くす薬を開発した。彼は無意識のうちに顔や体をかきむしる癖があり、それによって傷だらけになった身体にコンプレックスがあった。彼が薬を服用すると、無意識に引っ掻く事はなくなった。そんなことより、意識して心臓を動かすことで精一杯で、他の事をする余裕がなかった

縁の味

母の味。世間はその言葉に郷愁を覚える。うらやましい。母は料理が下手だ。ご飯は汁気が多く食感が気持ち悪かった。味噌汁は具は食べづらく、毎日一人具を飲み込むまでダイニングに残された。食事は死なないための作業だった。だからこそ、学友に誘われて食べた鍋の味は忘れられない。友の味だった。

相互フォロー

私の彼は束縛が強い。私が男と話すのはアウト。男性の店員とのやりとりにも顔をしかめる。独占欲が強い。仕方がないので私は彼のスマホに追跡アプリを入れている。だって彼が私のことを独占するんだもの。彼が何してるのかを知っておかないと。でも、もう5分も経ったのに返信が来ないのはなんで?

心も体も浮ついて

あの女子はクラスでも浮いていた。女子同士の会話にうまく馴染めない。とは言え男子と仲良く出来るような子でもない。だから浮いていた。
物理的にも。
集団で浮いてるほど、物理的に浮いてしまうのだ。
そんな女子に声をかける。
「同じ委員、これからよろしく」
俺の足は地に着いていなかった。