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140字小説 すぐ読めるお話集

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2022年4月の記事一覧

過去も未来も

「人間は同じ失敗ばかりするね」
「よし、過去の事を思い返す能力を授けよう」
「いいね。じゃあ未来の事を考える能力も授けようか」
「過去と未来を考えられれば変な失敗はしないだろう」
「でも過去と未来ばっかり妄想したりしないかな?」
「まさか。目の前に今があるんだから有り得ないだろう」

無力な涙

「うわ、男のくせに泣くなよ。だっさ」
「やめなよ男子、%&君泣いてるじゃん」
「いや、男ですぐ泣くような奴相手にしてらんねえよ」
泣くのは
「%&君てさ、顔はいいんだけど、なんかちょっと、無いよね」
「そう?守ってあげたくない?」
「それはそうだけど、男としてはなくない?」
駄目なのか

ピアノ

普段は恐ろしい先生がピアノの前に座ると、優しい表情で暖かな音を奏でていた。普段は控え目な女子がピアノの前に座ると、背筋を伸ばして荘厳な音で空間を支配した。普段は粗野な男子がピアノの前に座ると、気さくで親しげな音色を紡いだ。自分も変わりたいとピアノの前に座る。出したい音は出なかった。

今、この時

「あー金欲しい」
「んね。働かないでお金欲しい」
「それなー。なんとかなんねえかなあ」
「まじ私とか部活とかバイトでめっちゃ忙しかったし」
「これまで頑張ったんだからさー。将来は楽したいよな」
そうやってノートを開いたまま話す学生を眺めていた。
私はノートに目を落とし、ペンを走らせる。

記念日

知らん知らん! 記念日なんぞ知らん! なんで月日が同じだったら祝わなきゃいかんのだ! だったら時間が同じだったら祝うんか! だったら十日後とか百日後も祝うんか! 適当な気分で浮つくのは好かん! だからホラ、お土産食うぞ。お前に感謝してるから買ってきた。今日の記念日なんぞ知らん。

Never give up

親戚の子が田舎に遊びに来た。来るのは初めてらしい。あぶれていた私が相手をするはめになった。虫にも物怖じせず、黙々と捕まえる。バッタの大きな後ろ足を片方つまんでぶら下げ眺めていた。バッタは暴れた拍子に足がもげ、地面に落ちると逃げ出した。「なんであの虫はあんなになったのに頑張るの?」

徹夜自慢

「いやあ、これで3徹だわ」
「いかんなあ、さぼっちゃいかんよ」
「は? いやいや、さぼるどころか、むしろ頑張ってるだろ」
「大事な仕事を3回もやってないんだ。それはさぼりだろう」
「なんだよ大事な仕事って」
「人間には夢が必要だ。だから自分にも毎夜夢を与えてやらないと枯れちまう」

嘘つき大人

「三人の大人がいるとする。そのうちの一人は本当のことしか言えない。一人は嘘しか言えない。一人は制約がない。仮にA、B、Cとする。それぞれが言った。
A:私は本当のことしか言えない
B:私は嘘しか言えない
C:私には制約がない
さて、嘘をついていない大人はいるか?」という問いの欺瞞はどこか?