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Y Combinator Requests for Startups_①

Y Combinatorではスタートアップに取り組んでもらいたいアイデアとして「Requests for Startups」を発表している。
①では、「Requests for Startups」で発表された20のアイデアを9つのグループに分類し、「ヘルスケア」、「企業向けソフトウェア」、「AI/機械学習の実用化」の3つのグループのそれぞれのアイデアにおける、現状の課題およびYCの興味をまとめた。

「Requests for Startups」については下記サイトの情報を参照


Requests for Startupsの概要

  • Y Combinator(YC)に応募する際に、これらのアイデアのいずれかに取り組む必要はないが、YCではスタートアップに取り組んでもらいたいアイデアとして「Requests for Startups」を発表している

  • 多くのユニコーン企業を輩出し、スタートアップを育成しているYCが選ぶアイデアは、今後ホットな事業領域になることが期待される分野である

  • 特に2024年2月に発表された「Requests for Startups」は、2018年以来久しぶりに大きく更新されたこともあり、これらのアイデアがここ数年のトレンドとなる可能性を秘めている

Requests for Startupsの9つのグループ

2024年2月に「Requests for Startups」で、20のアイデアが発表された。そのアイデアを類似した内容で9グループに分類した(グループ分類は私見である)

①ヘルスケア

  • A Way to End Cancer

  • Foundation Models for Biological Systems

  • The Managed Service Organization Model for Healthcare

  • Eliminating Middlemen in Healthcare

②企業向けソフトウェア

  • LLMs for Manual Back Office Processes in Legacy Enterprises

  • AI to Build Enterprise Software

  • New Enterprise Resource Planning Software

  • Better Enterprise Glue

③AI/機械学習の実用化

  • Applying Machine Learning to Robotics

  • Using Machine Learning to Simulate the Physical World

  • Explainable AI

④AIツール

  • Developer Tools Inspired by Existing Internal Tools

  • Commercial Open Source Companies

  • Small Fine-Tuned Models as an Alternative to Giant Generic Ones

⑤防衛・宇宙

  • New Defense Technology

  • New Space Companies

⑥製造技術

  • Bring Manufacturing Back to America

⑦気候変動

  • Climate Tech

⑧AR/VRの実用

  • Spatial Computing

⑨金融

  • Stablecoin Finance

課題およびYCの興味

  • Y combinator_Requests for Startups_①では「ヘルスケア」、「企業向けソフトウェア」、「AI/機械学習の実用化」に分類されるアイデアについて課題とYCの興味をまとめた(課題およびYCの興味については私見である)

①ヘルスケア

A Way to End Cancer

  • 課題

    • MRIによるがんの早期発見技術はあるものの、コストが高く、アクセスできる人が限られている

    • 高感度な診断技術による偽陽性のリスクがあり、追加の診断等が必要になり医療に負担をかけている

  • YCの興味

    • がんの早期発見における幅広い人口に普及するためのビジネスモデルやMRI技術の開発

    • AI等を活用することで誤診を減らし、信頼性の高い診断結果を提供するMRI技術の開発

Foundation Models for Biological Systems

  • 課題

    • 多様な生物学的現象に対応できる高精度で汎用的なモデルが不十分

  • YCの興味

    • 生物学的データを効率的に解析し、科学的研究を加速する基盤モデルの開発(例:Google Deepmindが開発したAlphaFold)

The Managed Service Organization Model for Healthcare

  • 課題

    • 医療機関の運営が非効率であり、医師やスタッフに過度な負担がかかっている

    • 医療サービスの提供に高コストがかかり、利益が減少している

  • YCの興味

    • 医療機関のバックオフィス業務を効率化し、医療サービスの質を向上させる技術

    • 医師が独自にクリニックを運営しやすくするための支援モデル

*YCではすでに、類似の技術やサービスを別領域で提供しているスタートアップに投資をしている:Nourish(栄養士)、LunaJoy(女性向けメンタルヘルス)、Finni Health(子供向け自閉症ケア)等

Eliminating Middlemen in Healthcare

  • 課題

    • 多くの医療費が中間業者*に支払われており、直接の医療提供者に十分な資金が届いていない
      *中間業者:薬局給付管理者、医薬品卸、薬局、等

    • 医療サービス提供プロセスが非効率であり、無駄が多い

  • YCの興味

    • 中間業者を排除し、医療提供のコストを削減するビジネスモデル

    • 患者に直接医療サービスを提供する新しい技術やアプローチ

②企業向けソフトウェア

LLMs for Manual Back Office Processes in Legacy Enterprises

  • 課題

    • 大規模言語モデルの精度が一部のバックオフィス業務において不十分

    • 既存のバックオフィスシステムとのシームレスな統合が難しい

  • YCの興味

    • 大規模言語モデルを使ってバックオフィスプロセスを自動化するソリューション

    • 手作業で行われている業務を効率化し、生産性を向上させる技術

AI to Build Enterprise Software

  • 課題

    • 企業向けのソフトウェアは各社のニーズに合わせてカスタマイズが必要であり、各社ごとに対応すると時間とコストがかかってしまう

  • YCの興味

    • AIを利用して企業の特定のニーズに合わせたカスタマイズを自動化するソフトウェアの開発

New Enterprise Resource Planning Software

  • 課題

    • 現在のERPシステム*は導入と運用に多額の費用がかかる

    •  多くのERPシステム*は複雑で、ユーザーインターフェースが使いにくい
      *ERPシステム(Enterprise Resource Planningシステム):企業のリソースを統合的に管理し、運営を効率化するための総合的なソフトウェアシステムのこと。企業のさまざまな業務プロセス(財務、人事、販売等)を一元管理し、データのリアルタイムな可視化と分析を行うことができるシステム

  • YCの興味

    • 使いやすく、直感的なインターフェースを持つERPソフトウェアの開発

Better Enterprise Glue

  • 課題

    • 異なる企業システム間の統合が難しく、手動のカスタムコードが必要

  • YCの興味

    • 企業固有のユースケースに対して、完全に自動化されたカスタムコードを生成する技術開発

③AI/機械学習の実用化

Applying Machine Learning to Robotics

  • 課題

    • 人間レベルの知覚と判断力を持つためのリアルタイム処理が困難

    • ロボットの製造コストが高い

  • YCの興味

    • ロボットの作製を支援するソフトウェアツールの開発

    • ロボットそのものを作製する技術

Using Machine Learning to Simulate the Physical World

  • 課題

    • 天気予報、乗り物の設計や創薬ツール等は、多変数の数式を用いた既知の物理学シミュレーションを活用しているため、計算量が多い

    • 計算量が多いとスーパーコンピューターでも解析に数日から数週間かかる

  • YCの興味

    • 物理シミュレーションはMLベース*のものに置き換え、計算コストを削減する技術及び開発
      *MLベース:機械学習(ML)アルゴリズムを使用して物理的な現象やシステムの挙動を予測・再現する手法。大量のデータを基に機械学習モデル(例えば、ニューラルネットワーク)をトレーニングし、物理現象の挙動を予測するため計算速度が速い

Explainable AI

  • 課題

    • AIがどのように決定を下すか、人間が理解できる形で説明する技術が不足しているため、透明性や信頼性が不十分

  • YCの興味

    • AIモデルの決定プロセスを説明できる技術の開発

    • AIの判断がどのように行われたかを明示するツールやフレームワーク

まとめ

  • Y Combinatorの「Requests for Startups」では、「ヘルスケア」、「企業向けソフトウェア」、「AI/機械学習の実用化」のグループについてまとめた。個別のアイデアとして、「ヘルスケア」の"Foundation Models for Biological Systems"、「AI/機械学習の実用化」の"Applying Machine Learning to Robotics"、"Using Machine Learning to Simulate the Physical World"のアイデアについて今後深掘りをしていきたい

    • Foundation Models for Biological Systems:GoogleやNvidiaを含め大手企業が基礎モデルの開発に取り組んでいる。Google DeepMindが開発したAlphaFoldは、2018年にCritical Assessment of Protein Structure Predictionで総合ランキング1位を獲得し、タンパク質の構造予測が飛躍的に進化した。2024年5月に発表されたAlphaFold 3やNvidiaから発表されているFoundation Modelなど、現在のモデルがどこまで進化してきたかを考察していきたい

    • Applying Machine Learning to Robotics:自律運転車、キッチンロボット(簡単な調理やコーヒーの提供)、介護ロボットなど、様々な分野でロボットが活用され始めている。SF映画の世界だけであったロボットが現実的になっていく中で、不十分な技術と課題について見ていく

    • Using Machine Learning to Simulate the Physical World:AIの活用により計算量が増加し、高性能な計算リソースが必要となり、コストが増大してしまう。計算方法を変更することでどの程度改善が期待できるのか、また他の方法で現在の課題を解決できる手段があるのかを考察していきたい。

  • Y combinator Requests for Startups_②では、「AIツール」、「防衛・宇宙」、「製造技術」、「気候変動」、「AR/VRの実用」、「金融」のグループについてまとめる予定


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