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「しなやかな心」で変わる世界に適応する

7都府県に対して緊急事態宣言が発令されてからおおよそ10日間が過ぎました。さらに全国に対して発令されることも決まりました。5月6日まで私たち一人ひとり意識を高めて感染予防をしていく必要があります。一方で、5月6日までに大きく収束できたとしても終わるわけではなく、専門家の方が書かれたこちらの記事より新型コロナウイルス(以降、新型コロナと略します)のワクチンが開発され普及に至るのは2022年になると想定されます。それまでは警戒をしつつ生活をしていくことになります。

ワクチンの普及が2022年になると仮定すると、それまで2年という長い期間になります。私たちはそれまで冬眠しているわけにもいきませんので、様々な形で世界が変わると思います。例えばテレワークは多くの企業が優先度を高めて導入を進めるでしょう。グローバル化されたサプライチェーンの見直しが行われて国内回帰が起きるかもしれません。また人生100年時代と言われる現在ですので今回の新型コロナだけではなく、生きている間この先も何かしら大きな衝撃が起きて、それをきっかけに世界が変わることは繰り返されると思います。

私たちは世界の変化に適応していく必要があります。脅すつもりはありませんが「今まではこのやり方で上手くいっていた」「もうこんな歳だから変わりたくない」と適応することを拒んでいると、先々仕事がなくなる可能性もあると思います。とはいえ、ある程度経験を重ねてきた年代の人たちが「これまで通りでいたい」という気持ちも分かりますし、適応していくことに大きなストレスを感じることも想像できます。そこで今回の記事では、レジリエンスにおける「折れない心」という意味でも、「適応力」という意味でも、どちらの意味でも大事になる「説明スタイル」についてご紹介したいと思います。

ポジティブ心理学の提唱者であるペンシルベニア大学のマーティン・セリグマン教授は次のようにおっしゃっています。

誰が無力になり、誰がレジリエントだったかを決めた重要な要因は、どのような逆境の類だったかではなく、人々がその逆境についてどのように説明をしたか?であった
レジリエンスの教科書:逆境をはね返す世界最強トレーニング』より引用

セリグマン教授の研究結果より、自分に起きた不幸な出来事や挫折といった逆境を「自分・いつも・すべて」というスタイルで説明する人は、無力感やうつ病に陥る傾向にあることが分かっています。例えうつ病までにはならないとしても、心が折れやすい人も同じです。これだけでは分かりづらいと思いますので具体例でお話したいと思います。

例えば、あるプロジェクトのリーダーを任された人がいたとしましょう。そしてそのプロジェクトは上手くいってなく過酷な状況に陥っており、プロジェクトメンバーにも大きな負担がかかっていたとします。もしその人が「自分のリーダーとしての能力が低いからこのような状況に陥っている」「この悪い状況はいつまでも続く」「私は何をやってもダメな奴、だから結婚もできない!」とその状況を説明したとすると、先ほどお伝えした「自分・いつも・すべて」というスタイルで説明していることになります。そして説明スタイルでもう一つ重要なことは、同じ傾向になりやすいということです。つまりある逆境を「自分・いつも・すべて」というスタイルで説明する人は、他の逆境でも同じように「自分・いつも・すべて」というスタイルで説明する傾向があります。確かに何か逆境に出くわすたびに「自分・いつも・すべて」という説明スタイルだとしたら、心が折れそうだと感じますよね。3つ全てがそろわなくても、どれか1つでもそれを強く感じることで心が折れてしまうこともあります。

「自分・いつも・すべて」の3つ全てにおいて悲観的に説明する場合を特に「悲観的説明スタイル」と言いますが、うつ病の人など特に悲観的説明スタイルが強い人については図のように説明スタイルを変えるためのトレーニングをします。

現実的楽観_3_悲観的説明スタイル

ただし、どんな時でも上図の右側の説明スタイルを持っていることが良いでしょうか? 例えば先ほどのプロジェクトリーダーが「いつもではない」「たまたま」と考えて自分の仕事の仕方を変えようとせず他の人にも相談しないと、いつまでもその状況を抜け出せない可能性がありますよね。また常に「他の人が悪い」とか「こんな状況だから仕方がない」と他責にしていると自身の成長機会を失います。実は営業の仕事をしている人に「他の人が」とか「状況が」という説明スタイルを持つ人が多いと言われます。営業の仕事は顧客などからクレームを受けるとか、冷たくされることが多いため、自分の心を守るために自然と「自分は悪くない」という思考が身につくそうなのですが、やはり自身の成長機会を失うことには変わりません。営業の方は注意した方がよろしいかと思います。

このようにベストな説明スタイルはありません。下図のように3つの視点それぞれで、右側、左側の両方の角度で考えることが大切です。このように多角的に見ること、それによって客観的に状況を評価できるようになることが、思考を柔軟にして、心をしなやかにします

現実的楽観_3_多角的に状況を見る

ここまでは一般的な話を具体例として説明スタイルについて解説してきましたが、今まさに危機と変化に直面している私たちですので、新型コロナを例に説明スタイルを使って私なりの考え方を記述してみたいと思います。

◇自分
新型コロナに感染した時に自分を責め過ぎないことは大事だと思います。今は誰でも感染する可能性があります。ただし一方で、新型コロナが広まっていることは自分の責任ではないからと、予防を心がけず安易に三密なところへ行くのは楽観的過ぎるでしょう。自分や家族、そして社会を守るためにしっかり予防をしつつ、それでも感染してしまったら自分を責めずに回復に努めるとともに、他の人に広げないことが大切だと思います。

◇いつも
緊急事態宣言が発令されている現在、自治体によっては強く外出自粛要請や休業要請が出ています。この状況が永遠に続くと思うと気が滅入ると思いますが、そもそもワクチンが普及されるまでこれが続くと日本の経済が耐えられないので、どこかで緩和されるはずです。そのように考えればこの状況が永遠と続くことは無いと思えますので、気持ちも楽になると思います。
一方で、最初にも書きましたがワクチンが普及されるのは2022年くらいになります。少なくともこれから2年くらいはウィズ・コロナの世界となりますので、それに合わせて例えばテレワークを中心とした仕事のスタイルに変えるとか、飲食店など店舗に関わる方でしたら例えば顧客同士、あるいは顧客と店員さんが安全な形で一緒にいられるような工夫をするといったことが必要になると思います。専門家の皆さまが発信される情報をしっかり受け取って、新型コロナの特徴を踏まえて仕事の仕方を適応させていく必要があると思います。

◇すべて
新型コロナの影響で仕事の先行きに不安があると、これまで自信を持っていた人でさえ心が不安定になることがあります。むしろ仕事によって自信をつけてきた人ほど自信を失い、不安定になるかもしれません。それによって、周りの人にあたるとか、酷くなるとDVに至るということもあるでしょう。まずしっかり認識すべきことは、仕事の先行きが見通せなくなったのは新型コロナによって世界が変わったことが原因であり、誰の責任でもないという事実です。
一方で、自分がこれまで築いてきたことを過信して、何もしなくてもそのうち元に戻るだろうと楽観的に考え過ぎることも危険だと思います。これまでにも書いたように世界は元には戻らないでしょう。世界が変わったことを正面から受け止めて、どうしたらそれに適応できるのか、よく考えて行動し、自らを適応させていく必要があると思います。

新型コロナを例に説明スタイルの「自分・いつも・すべて」それぞれの視点で私なりに書いてみるとこのようになります。皆さんも自身の状況を踏まえて考えてみて頂けたらと思います。

説明スタイルを理解して活用できるようになると、『現実的楽観は人生の厚底シューズ』の記事でもご紹介した6つのレジリエンス・コンピテンシーの中の「精神的柔軟性」が高まりますが、それだけではなく状況を多角的に見ることで現実を正しく理解することができ自分が選ぶべき行動にフォーカスすることができるようになるため、ここ数回の記事でお伝えしてきた「現実的楽観」も高まります。以前も紹介した図になりますが、この図のようにその時の感情やパッと思い浮かんだ考えで行動するのではなく、いったん立ち止まって説明スタイルを活用して考えることで、よりよい行動を選べるようになります

2-3_しなやかな心による行動選択

新型コロナの影響で経済的に困難な状況に陥っている方に対しては心理学で役に立てることは少ないかもしれません。ただし、皆さまが今できることに最大限の力を発揮するためにも、心が折れやすい人の心理を知って、それを回避することにお役に立てたとしたら幸いです。

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