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現実的楽観は人生の厚底シューズ

ここ最近は否が応でも新型コロナウイルス(以降、新型コロナと略します)のニュースを見かけます。東京圏のロックダウンも現実味を帯びて来ている状況ですし、気持ちが落ち込んでしまうことも多いと思います。私は日本ポジティブ心理学協会(以降、JPPAと略します)などで講師としてレジリエンスをお伝えしています。レジリエンスは「折れない心」とか「逆境力」と理解されることが多いですが、それに加えて「適応力」や「変化対応力」といった力でもあります。新型コロナとの戦いは未だ先が全く見えず、長期戦を覚悟しなくてはいけない状況であると思います。私は医学や感染症については素人なのでそういった話についてはこの記事では触れませんが、「適応力」という意味でレジリエンスについてお伝えすることは新型コロナとの長期戦に役に立つのではと思いました。特に今回のタイトルにも書きました「現実的楽観」が大切と考えていますので、今回からしばらくの間はこれをテーマに記事を書いて行こうと思います。

※上記に記載した「折れない心」「逆境力」、さらには「適応力」「変化対応力」といった言葉でイメージして頂ければレジリエンスという言葉に馴染みのない方でもこの記事を読んで頂くのに支障はないと思います。よりレジリエンスの概念を理解したいという方は、私が登壇したスクー授業のログミーさんによる書き起こし記事で簡潔に説明していますのでこちらをご覧ください(https://logmi.jp/business/articles/321756)。

JPPAでお伝えしているレジリエンス・プログラムは『ペン・レジリエンシー・プログラム』(以降、PRPと略します)と呼ばれる、ペンシルベニア大学で開発されてアメリカの学校や企業、そして陸軍にも導入実績のあるプログラムで、今では一部のヨーロッパやアジアの国々でも教育機関や軍隊で導入されているものです。このPRPでは6つのレジリエンス・コンピテンシーというものを定義しています。JPPA代表理事である宇野カオリ氏の著書『逆境・試練を乗り越える!「レジリエンス・トレーニング」入門』より引用すると次の通りとなります。

現実的楽観_1

レジリエンス・コンピテンシーとは「レジリエンスの高い人たちに共通して見られる行動特性」です。コンピテンシーという言葉はあまり馴染みがないと思いますが、日本語にすると行動特性、もう少し砕けた言い方をすると「特徴的な行動パターン」となります。つまり研究者がレジリエンスの高い人たちを分析したところ、この6つの特徴的な行動パターンが共通して見られたということです。そしてPRPはこの6つのレジリエンス・コンピテンシーを高めるプログラムとなっています。今回のテーマである現実的楽観はレジリエンス・コンピテンシーの1つになります。

新型コロナとの長期戦を向かえるにあたり私が6つのレジリエンス・コンピテンシーの中から現実的楽観を取り上げた理由は、人生をマラソンに例えると現実的楽観は最近話題の厚底シューズの役割になると感じているからです。人生は山あり谷あり、いままさに私たちは大きな谷を乗り越えようとしているところですが、現実的楽観を持つことが厚底シューズのように心の負担に対するクッションとなり、そして前向きに明るく生きていくための推進力を与えてくれると感じています。

さて、ここからは現実的楽観について詳しく見ていきたいと思います。現実的楽観とは単に「ポジティブでいようと」とか「楽観的に考えよう」というのとは違います。例えば「タバコを吸っても自分は病気にならない」とか「浮気をしてもバレない」は現実的楽観ではなく非現実的楽観ですね。今でいえば「自分は新型コロナに感染しない」とか「例え感染したとしても若いから大したことにはならない」といった考えも非現実的楽観になるでしょう。身近な人に感染者がいないと実感が持ちづらいとは思いますが、今の日本では誰でも感染者になる可能性はありますし、比較的数は少ないとはいえ若い方で重篤となった人もいます。新型コロナについてはまだ分かっていないことが多いという現実をまず直視することが大切です。

現実的楽観で大切なことは、まず現実的であることです。なるべく正しい情報を得ること、状況を正しく理解することが大切です。新型コロナについては毎日色々な情報が出てきて振り回されそうになりますが、ワイドショーやインターネットで全く違う分野の専門家や有名人が発する無責任な言葉では無く、感染症の専門家が伝える情報を選ぶことが大事だと思います。

このようにまず現実的であること、その上での楽観が現実的楽観になります。正しい情報を得て、状況を正しく理解することで、自分が取るべき行動が選びやすくなりますし、未来に希望を持てるようにもなります。スライドにも書いていますが改めて現実的楽観の説明を引用すると「ポジティブなことに気づき、期待し、自分でコントロールできるものにフォーカスし、目的を持った行動が起こせる能力」です。

新型コロナの場合は感染力の高さや、ある程度の人が重篤になるという現実を理解して、自分自身のためだけではなく感染源にならないためにも、まずは自身が感染しないように予防することが大事だと思います。そのためには家から出ないことが大きな予防になります。ただし、長期戦でずっと家に引きこもっているとそれはそれで気持ちが落ち込んでしまいますし、ネガティブな感情が増幅してストレスが溜まってしまうこともあると思います。新型コロナについてはどのような環境にいると感染のリスクが高いかはニュースや行政からの説明ですでに分かってきていますので、これはあくまで私個人の考えになりますが、例えば外を歩いたり、マスクや手洗いなどで予防しつつ少人数で人と会って会話したり、家族で近所のお店で食事をするなど、長期戦を乗り越えるためには自身にあった感染リスクの低いリフレッシュ法を生活に上手く組み込んでいった方が良いと思います。また自宅にいながら楽しめることを見つけるとか、これまでやろうと思いつつ先延ばしにしていた例えば掃除とか読書をするのも良いですね。もしインターネット環境が整っている方はZoomなどのITテクノロジーを活用して最近流行りつつあるZoom飲み会などを開催してみるのも良いと思います。これなら大勢で話しても安全ですからね。
もちろん自分が感染源にならないために、新型コロナの特徴的な症状が見られたら外出を控える、相談窓口へ連絡するなどの対処は大事になります。

新型コロナの影響で3月に開催が予定されていた世界フィギュアスケート選手権の中止が発表されたとき、日本代表として出場予定だった宇野昌磨選手はコメントの中で「明けない夜はない」と言っていました。新型コロナは長期戦となってきましたが、一人ひとりの行動で感染拡大を防ぐことはできますし、ワクチンや薬の開発までたどり着けば今のインフルエンザと同程度に安心できる状況となる可能性があります。改めて書きますが、現実的楽観とは「ポジティブなことに気づき、期待し、自分でコントロールできるものにフォーカスし、目的を持った行動が起こせる能力」です。「明けない夜はない」という言葉が、いまこの状況で私たちにとって未来への希望となり、現実的楽観を高めてくれる言葉になると感じます。

ポジティブ心理学の提唱者でありPRPの開発で指揮をとられたペンシルベニア大学のマーティン・セリグマン教授の著書『オプティミストはなぜ成功するのか』より、楽観的な人の方が悲観的な人より、仕事やスポーツで成功する人が多く、心身ともに健康な人が多く、人を惹きつける力があると研究から明らかになっています。もちろん楽観とは現実的楽観のことです。「心身ともに健康な人が多く」にフォーカスすると、現実的楽観の高い人はうつ病になりづらく、また免疫力が高く感染症になりにくいと書かれています。新型コロナとの長期戦を踏まえると大変嬉しい話です。まさに人生にとっての厚底シューズの役割になるでしょう。

ここ数日は1日に確認される感染者数が増加しつつありますが、今の時点では欧米諸国と比べて日本はまだ平和な状況と思います。最前線で戦っている医療関係や行政関係の皆さま、そして私たちが食材や日用品を買えるようにお店を開いている方々などに感謝しつつ、「明けない夜はない」という言葉を希望に、私たちも自身が選択する一つひとつの行動で感染拡大を防ぐ協力をして、この状況を少しでも早く乗り越えたいですね。

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